川村渇真の「知性の泉」

知事や市長の選挙制度の設計例


現状の選挙制度は、一部の条件で問題が発生

 知事、市町村長、区長のように当選者を1人だけ選ぶ選挙制度は、現在の方式でも問題ないように見える。実際、かなり単純な状況では、大きな問題が発生しない。しかし、特定の条件を満たす状況では、民意を反映しない結果となる。該当する状況が、現実の世の中で、意外と多く発生しているのだ。
 その問題点を改善するには、地方議会議員と衆議院の選挙制度の設計例で採用した、1つの対処方法を用いればよい(2つの設計例を読んで、気付いた人もいると思う)。というわけで、知事や市町村長の選挙制度の改良方法を紹介しよう。なお、かなり簡単な検討内容なので、検討手法を適用した手順は採用しないにした。
 まず最初に、どんなときに問題が発生するのか解説する。それは、似たような主張を掲げる候補者が、何人か立候補した場合だ。具体的な例を挙げた方が分かりやすいだろう。1番の争点が原発やリゾート開発などの賛成か反対かで、賛成派の候補が1人だけ立候補し、反対派の候補が2人も立候補したとする。そうなると、反対派の票が分割しまう可能性が増え、賛成派が当選する結果となる。たとえば、次のように。

民意を反映しない選挙結果の例
・賛成派の候補1:5万票(当選)
・反対派の候補1:4万票
・反対派の候補2:3万票
参考数値
・賛成派の合計票数:5万票(少ないのに当選)
・反対派の合計票数:7万票

 反対派の票は7万票のあるのに、賛成派の候補が当選してしまう状況で、民意を反映しない結果となっている。もし反対派の候補が1人しか立候補しないと、次のような結果になる可能性が高い。絶対に確実とは言えないが、争点が明確だけに、この結果にほぼなるはずだ。

民意を反映した選挙結果の例
・反対派の候補1:7万票(当選)
・賛成派の候補1:5万票

 以上のような良くない状況を防ぐには、似たような主張を掲げる候補同士で、予備選挙を行う方法がある。しかし、その費用や手間が非常に大変で、実際には実施できない。

複数名を記入する投票なら、民意の反映を実現できる

 こうした問題を解決するには、「優先順位付きで複数の候補者名を書く方法」が極めて有効だ。投票で1人の候補者を書くという現状の方法の代わりに、複数の候補者を書けるように変更する。
 前述の例では、反対派に投票したい人は、反対派候補のどちらか好きな方を1番目に書き、残りの反対派候補を2番目に書く。そうすると、1番目に書かれたのが多かった候補が、賛成派の得票を上回って当選できる。民意を正しく反映した選挙結果となるわけだ。
 この方法は、1回の選挙で、予備選挙まで実施していることに等しい。似たような主張を掲げる候補の間で、1番目に書かれることを争う(正確には、より上位に書かれることを争う)。それに勝った人こそ、その主張を掲げる候補者の中で、有権者にもっとも支持された候補者である。まさに、本選挙の中での予備選挙だ。
 もっと複雑な状況でも、同じ効果を得られる。たとえば、賛成派の候補が3人、反対派の候補が4人も立候補した場合だ。たった1回の選挙で、賛成派の予備選挙も、反対派の予備選挙も、一緒に実施したことに等しい。
 では、どれだけの候補者数まで、予備選挙の効果が保てるのだろうか。それは、投票用紙に書ける人数で決まる。候補者の名前を5人まで書ければ、似た主張の候補が5人立候補しても、正しい予備選挙となり得る。有権者は、5人の候補者の名前を、当選してほしい順に書けばよい。
 ところが、似た主張の候補者が6人以上に増えると、全員の名前は書けなくなり、予備選挙としての完璧さは崩れる。しかし実際には、有力候補が5人を越える状況はほとんどないので、5人まで書ければ十分だ。それでも、現状の制度と比べれば、格段に良い制度である。

当選者の決定は、最下位から順に落選させる方式で

 地方議会議員や参議院の選挙制度の設計例では、「優先順位付きで複数の候補者名を書く方法」に関し、当選者の決定方法を2つ挙げた。「1番目の名前で当選確定する方式」と「最下位から順に落選させる方式」だ。このうち前者は、当選者が1人の場合は適用できない。2番目移行の名前を書いたことが無意味になってしまうからだ。というわけで、当選者を決める方法として後者を選ぶ。その方が優れているので、良い方が残ったことに等しい。
 開票の手間は増えるものの、それによって貴重な情報も得られる。まず、当選者が最終的に得票した数は、最終的に賛成してくれた有権者の数となる。その内訳として、1番目に名前を書かれた票数、2番目に名前を書かれた票数、同じく3番目、4番目、5番目の票数が分かる。2番目以降の票数の合計は、1番で支持しなかった得票数となり、有権者が支持した状況が数字として見えてくる。
 5番目までの合計票数が、投票者の過半数を超えたのか、1番目に投票してくれた票の割合はどれぐらいなのかなど、支持された状況がある程度は見えてくる。とくに過半数を超えなかった場合、当選者は謙虚に仕事を進めるべきであろう。

 以上のように、1人だけが当選する選挙制度でも、民意が正しく反映できる形に改善できる。民意を反映しない選挙結果が、日本の各地で実際に起こっているので、できだけ早急に改善しなければならない。

(2001年6月9日)


下の飾り