社会進歩:民意を反映できる選挙制度 |
対処方法の検討と評価が終わったので、対処方法の有効な組み合わせを求める段階だ。今回の検討では、無駄な説明を減らすために、あまり有効でない組み合わせを取り上げない。
まず最初に、ここまで登場した対処方法を整理してみよう。数が少ないため、一覧表にしても以下の5つしかない。これから選んで、有効な組み合わせを作ることになる。
対処方法の一覧 ・議決投票権を得票数にする方法
・候補者による重視点の表明
+全国区で好きな人に投票
・候補者による重視点の表明
+大型地方区で好きな人に投票
・優先順位付きで複数の候補者名を書く
+1番目の名前で当選確定する方式
(前提条件:議決投票権を得票数にする方法の採用)
・優先順位付きで複数の候補者名を書く
+最下位から順に落選させる方式
(前提条件:議決投票権を得票数にする方法の採用)
1番目の項目は必須であり、2番目と3番目は詳細タイプで、4番目と5番目も別な詳細タイプとなる。どちらの詳細タイプも、問題点を解決するために不可欠なので、詳細タイプの選び方が有効な組み合わせになる。その数だが、2×2で4つしかない。名前を付けて整理すると、以下のとおり。
対処方法の組み合わせ 名称:全国区1番名型
・議決投票権を得票数にする方法
・候補者による重視点の表明
+全国区で好きな人に投票
・優先順位付きで複数の候補者名を書く
+1番目の名前で当選確定する方式名称:全国区最下名型
・議決投票権を得票数にする方法
・候補者による重視点の表明
+全国区で好きな人に投票
・優先順位付きで複数の候補者名を書く
+最下位から順に落選させる方式
名称:地方区1番名型
・議決投票権を得票数にする方法
・候補者による重視点の表明
+大型地方区で好きな人に投票
・優先順位付きで複数の候補者名を書く
+1番目の名前で当選確定する方式名称:地方区最下名型
・議決投票権を得票数にする方法
・候補者による重視点の表明
+大型地方区で好きな人に投票
・優先順位付きで複数の候補者名を書く
+最下位から順に落選させる方式
これらの組み合わせでは、組み合わせることによって特別な問題が生じないので、このまま評価へと移る。
4つの組み合わせを比べやすいように、表形式で整理する。組み合わせの中での優劣が見やすいように考慮し、下部に「特徴」を追加した。組み合わせの中での優劣を示すために、「優:○印」と「劣:×印」に分けてある。こうしてまとめた結果は、以下のとおり。
対処方法の組み合わせの評価結果 重要度 評価項目 全国区
1番名型全国区
最下名型地方区
1番名型地方区
最下名型☆ 1票の格差の是正 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 様々な価値観での投票 ☆ ☆ ◎+ ◎+ ◎ 死票の減少 ◎+ ◎+ ◎ ◎ ○ 投票率の向上 △〜○ △〜○ △〜○ △〜○ ◎ より適切な当選者選び ○− ○− ◎ ◎ △− 開票の手間 ▲ ●+ ▲ ●+ 特徴 ☆:価値観での投票 ○:良い ○:良い ×:少し劣る ×:少し劣る ◎:死票の減少 ○:より減少 ○:より減少 ×:減少 ×:減少 ◎:当選者選び ×:やや不適切 ○:かなり適切 ×:やや不適切 ○:かなり適切 △−:開票の手間 ○:少ない ×:より多い ○:少ない ×:より多い
4つの組み合わせであるが、「候補者による重視点の表明」と「優先順位付きで複数の候補者名を書く」のそれぞれでの詳細タイプしかない。こういった場合は、2段階に分けて評価した方が分かりやすい。差が大きい方を先に評価して2つの組み合わせに絞り込み、その2つを最終的に評価するという手順だ。
評価結果に差が大きいのは、「候補者による重視点の表明」である。「地方区」の方が「全国区」より劣っているので、「地方区」が含まれる2つを落とす。すると「全国区1番名型」と「全国区最下名型」が残る。この2つでは、「より適切な当選者選び」で「全国区最下名型」が、「開票の手間」で「全国区1番名型」が優れている。「開票の手間」よりも「より適切な当選者選び」のほうがより重要な問題点なので、「全国区最下名型」が最良の組み合わせになる。これらの違いを詳しく説明しても重複するだけなので、対処方法ごとの個別の評価結果を参照してほしい。
ここまでの検討内容を整理して、検討の結論を出してみよう。前述のように、最も優れた選挙制度は「全国区最下名型」であり、これを検討の結論とする。
衆議院は、国家が進む方向の決定に大きく関係している。それだけに、少しでも優れた選挙制度を採用すべきである。開票の手間が増えるからといった、レベルの低い理由を重視して、最良でない制度を選ぶのは大きな誤りだ。選挙は数年に1度しかないので、開票作業がかなり大変だとしても、その欠点はそれほど大きくはない。
もう1つ重要なのは、選挙制度以外の部分である。公共事業の選択など、特定の人物の意図がまかり通るような、密室での決定をなくさなければならない。募集段階から公開の形で受け付け、評価基準も事前に明示し、評価過程まで含めた評価結果を公表して、好き勝手な選択をできないようにすべきだ。そうすれば、無駄な公共事業が限界まで減る。こうした制度を規定したうえで、地方分権を押し進めれば、行政の質もかなり高まるだろう。同時に、利権目的の政治屋が活動しにくくなり、マトモな政治家が当選して活動できる状態に近づく。
以上のように、関連する仕組みや制度を総合的に見直さなければならない。その際には、ここで紹介した選挙制度の検討のように、キチンと“設計する”ことが極めて大切だ。今までのように何となく決めていたのでは、良い仕組みや制度を得るのは非常に難しい。
国家レベルの選挙制度は、単に制度だけの問題に終わらない。最終的には、投票者である有権者の全体的な意識が重要で、選挙結果に大きな影響を及ぼす。
その意味で、有権者の意識を高めるための継続的な努力が、非常に重要となる。学校教育はもちろん、マスメディア、個人による情報発信など、いろいろな形での意識改革が欠かせない。社会全体として、そういった努力を続けると、質の高い議員が得られる。
ところが現実には、学校教育は知識詰め込みが中心であり、マスメディアのレベルは低く、他の先進国に比べて劣っている。教育分野でもジャーナリズムでも、数少ない一部の個人が頑張って、意識改革を支援している程度だ。こうした状況は、悪い選挙制度と同じぐらい大きな問題といえる。
ここで検討した選挙制度を採用する場合には、こうした点の戦略も一緒に検討するとともに、選挙制度以外の仕組みも変えなければならない。このうち一番重要で効果があるのは、公共事業などの決定方法の改善で、透明性を格段に高めると、好き勝手な不適切行為ができなくなる。これを選挙制度より先に改善すれば、新しい選挙制度による政治の改善効果は、さらに大きくなるだろう。
(2001年6月7日)
衆議院選挙制度:対処方法の組み合わせと最終評価 |