川村渇真の「知性の泉」

(衆議院議員の選挙制度を検討)
対処方法の副作用改善と個別評価


副作用の検討(1):議決投票権を得票数にする方法

 検討で考え出した対処方法の中には、新たな問題(副作用と呼ぶ)を発生させるものもある。対処方法を評価する前に、副作用を洗い出して、可能な改善方法まで検討しなければならない。こうした作業は、対処方法の検討の一部だが、理解しやすいように分けてみた。
 まず最初は、「議決投票権を得票数にする方法」の副作用の検討だ。これに関しては、地方議会議員の選挙制度で検討済みなので、相違点だけ取り上げよう。衆議院が地方議会と異なるのは、自分たちの法律を自分で作る点である。地方議会であれば、国家が規定した法律の範囲内で活動するため、何でも自由にできるわけではない。あくまで法律内での活動に限られる。しかし、衆議院の場合は、その決定を規制する上位機関がない。また、国家の活動に影響を与えるため、暴走したとき「失敗しました」で済まされない。その分だけ、安全度を高く設定する必要がある。
 「議決投票権を得票数にする方法」では、特定の候補者に得票が集中したときの対処が関係する。一部の議員の暴走の影響を押さえるのが、安全度を高めるために必要なので、地方議会よりは低いレベルで最大得票数を制限しなければならない。どんなに多くても全得票数の10%に押さえたい。この制限値なら、過半数を獲得するのに、最低でも6人の議員の賛成が必要となる。それでも安全度が足りないと思うなら、5%までは低くする手もある。ただし、あまり低くすると、民意の反映という重大な条件を壊すので、あまり低すぎるのは賛成できない。10%ぐらいにして、暴走の停止は別な方法を用意すべきだ。別な方法の停止効果が大きいほど、最大得票数も大きく設定できる。
 それ以外の点に関しては、地方議会の場合と同じで構わない。整理すると、以下のようになる。

「議決投票権を得票数にする方法」の副作用と改善方法
・特定の候補者に得票が集中する
  ・改善方法:最高得票率で制限する
・投票結果の確認に計算が必要
  ・改善方法:議員投票システムを用意する
・無記名投票での投票結果がバレやすい
  ・改善方法:細かな投票権値の投票用紙を用いる
・議員の報酬は得票数に比例しなくて構わないか
  ・改善方法:一部だけ得票するに比例する形に
・選挙違反への対応(一緒に変更した方がよい)
  ・改善方法:違反を得票数に換算して数倍を差し引く

 なお、最高得票率の制限値が低いため、複数の候補者が最高得票率の制限値を越えた場合でも、同じ値を適用する。

副作用の検討(2):候補者による重視点の表明

 次の検討対象は、「候補者による重視点の表明」によって、有権者が投票する人を選ぶ方法だ。民意を高く反映するための重大な仕組みなので、少し突っ込んで検討してみよう。
 真っ先に挙げられるのは、表明した重視点と異なる行動を、当選後にやってしまう問題だ。重視点の表明を公約として位置づけても、現状の議員のように守らない人が多くては意味がない。とくに問題となるのは得票数が多い議員で、もし表明内容と反対の行動を取られたら、数多い有権者をだましたことになる。得票数が多いだけに、ウソを付いたでは済まされない。
 仕方がないので、表明内容を公約とみなし、公約を守っているかどうか検査する機関を設置する。有権者からの調査依頼を受けたら、公約に反して行動しているかどうか調査して、結果を公表する。その公表方法だが、第三者がレビュー可能な形式にして、あいまいさを排除する。この方法だと、あいまいな検査はバレるし、質の高い検査にイチャモン(非論理的で不適切な批判)を付けるのが困難になり、検査の質が大きく向上する。
 もっとも難しいのが、公約違反かどうかの判定基準だ。どの程度までをクロと判定するかは、慎重に検討して、その結果を厳密な規則に仕上げなければならない。また、実際に運用した結果を反映させながら、最初のうちは改良し続ける必要がある。評価基準などの設計が得意な専門家に任せ、質の高い判定基準を設計する。
 検査結果の扱いだが、検査でクロと判定されたとき、公約に違反した議員は辞任させるしかない。逆にシロと判定された場合は、そのまま議員として活動できる。難しいのは、判定が出るまでの間だ。もし短期間で判定が出せる場合には、そのまま活動を続けさせる。裁判などになった場合、検査機関がクロと判定したときに限り、活動できな保留状態とするのはどうだろうか。議員にとっては困るが、その代わりとして、シロに覆ったときには、保留期間の2倍の議員期間を保証すればよい。
 このように、一時的に損した人に、損した以上の得を与える手法は、特定の人の活動をワザと邪魔する勢力を弱める効果がある。こうした制度を悪用する人から、仕組みを守るための方法といえる。実際には、第三者がレビュー可能な形式などの多面的な組み合わせ採用によって、レベルの低い行動が成功しにくくなり、それほど起こらないだろう。
 こうした行動で問題となるのが、会議での決議である。公約違反の行動によって決定した内容が、そのまま採用されたら大変な事態となる。いったん決議された内容でも、公約違反の指摘が出されたら、短期間で調査して決議をやり直す。この改善方法には、いったん決議されても、いつ無効になるか不安という副作用がある。そのため、指摘できる期限を設け、決議後の1週間程度に限定する。また、公約違反の指摘は特定議員となるため、その議員の議決投票権を差し引いても決議結果が変わらない場合は、決議内容を有効とする。その場合でも、公約違反の行動だけは調査が続行される。
 起こりそうな他の問題として、有名人が立候補し、多くの得票を集めることが挙げられる。これも民意の反映なので、それで構わないかも知れないが、国家の活動のレベル低下を招いたら大変なので、ある程度の改善方法は必要だ。考え方としては、当選する前の対処と、当選後の対処の2つがある。当選後の対処に関しては、前述の検査期間が有効に働く。それよりも当選前の対処が重要なので、それには公約の表明を利用する。有権者が表明内容を読むことで、有名人だから投票するという行為が起こりにくくなる。
 立候補者が多くなるため、各人の違いを見極めるために、表明していない分野の考え方を知りたいと思う有権者が多く出る。その要望をかなえるために、有権者から聞きたい質問を募集し、上位の質問に関しては、候補者全員に回答してもらう。この結果も表明に含め、公約として扱うようにする。こうすれば、ウソを言うのは難しい。
 重視点を表明しても、それを実現できるかは別な問題だ。有権者としてみれば、過去の実績を調べて、投票の参考に利用したいだろう。そこで、表明内容の中に、関連する過去の実績を書いてもらう。何も書かないときは、実績なしと判断されるため、実績のある人は書くはずだ。ここにもウソを書く人が現れるので、書いた内容が本当かどうか、マスメディアや有権者に調べてもらい、ウソを指摘できるようにする。
 表明した内容にウソが含まれていたときは、発覚した時点で立候補の無効や議員の辞職といった、厳しい対応を事前に規定しておく。こうすれば、ウソを書く人が極端に減るはずだ。
 立候補者が多いので、有権者が希望する人を見付けるのが大変となる。それを手助けする仕組みも用意する。今ならインターネットが一番効果的で、立候補者が重視した点ごとに分類した一覧表や、立候補者ごとの細かな表明内容も見れるようにする。データベースを利用すれば、かなり凝った機能も簡単に実現できる。「特定地域の利益を優先」や「地方自治の推進」など、何種類もの索引から調べられるようにする。インターネットが使えない人のために、紙の紹介資料も用意し、役所などの掲示板に貼り付けておく。また、投票当日の投票所にも貼り付けておき、投票前に見れるようにしたい。
 いろいろと検討してきた限りでは、このような副作用と改善方法が考えられる。まとめると以下のようになる。

「候補者による重視点の表明」の副作用と改善方法
・当選後、表明した内容どおり行動しない
  ・改善方法:表明を公約と見なし、検査機関を設ける
・検査機関が勇み足で特定議員を邪魔する
  ・改善方法:指摘内容の公開方法と、失敗への対処で防ぐ
・有名人が立候補して高得票率を得る
  ・改善方法:表明と検査機関を利用する
・表明していない分野の考え方を知りたい
  ・改善方法:有権者から質問を集め、上位質問の回答を求める
・過去の実績を判断して決めたい
  ・改善方法:実績を自己申告してもらい、誰かが検査する
・候補者が多いと、希望する人を見付けづらい
  ・改善方法:分類した候補者情報を幅広く提供する

 以上の改善方法の中には、完全にうまくいくとは限らないものも含まれている。その場合は、新たな改善方法を見付けだすか、既存の改善方法を改良することで、何とか対応できるはずだ。「候補者による重視点の表明」は、選挙制度の中でもっとも重要な部分なので、この方法を維持するように努力すべきである。
 改善方法の中には、議員の辞職も含まれている。辞職した際の対応も事前に決めておかなければならない。投票用紙に複数名を記入する方法を採用していれば、追加の選挙を行う必要がない。辞職議員への投票を集めて、次に書いてある立候補者の数を調べ、その人たちに議決投票権を割り当てればよい。
 余談だが、追加の選挙というのは適切ではない。辞職した議員に投票した有権者が不明なので、その分の投票が不可能だからだ。

副作用の検討(3):優先順位付きで複数の候補者名を書く方法

 最後は、「優先順位付きで複数の候補者名を書く方法」の副作用と改善方法だ。これも地方議会と同じで、相違点だけ取り上げる。
 地方議会と異なるのは、「開票作業が増えて、手間や時間が以前より多くかかる」という副作用の大きさである。全国で投票が行われるため、とくに「最下位から順に落選させる方式」を選んだ場合は、全国の開票所で連絡し合いながら開票しなければならない。立候補者の数が多いとき、相当な手間となるだろう。
 いくら何でもこれは大変なので、もっと賢い方法を用いる。すべての投票用紙で、最後の候補者名(5名の記入が可能なら5番目)までの記入内容で、完全に分類してしまう。その数をコンピュータに入力し、中央の集計用コンピュータに送る。すべてのデータが集まったら、あとは一気に計算して、当選者と各人の議決投票権が求まるというわけだ。この方法なら、連絡し合う必要はまったくない。開票の手間は増えるが、数年に1度しかないため、民意を高いレベルで反映できる利点を考えれば、大きな欠点にはならない。
 以上の検討内容をまとめると、新しい事柄が1セット追加されて、次のとおりとなる。

「優先順位付きで複数の候補者名を書く方法」の副作用と改善方法
・開票作業が増えて、手間や時間が以前より多くかかる
  ・改善方法:作業回数が少ないので無視して構わない
・開票作業で、多くの場所が連絡し合わなければならない
  ・改善方法:細かく数えて、結果だけを中央に送る
・投票者が仕組みを理解できるか心配
  ・改善方法:丁寧な説明や投票用紙に工夫など

 コンピュータへの入力作業では、入力ミスが起こり得る(同様に、集計結果の記入ミスも)。これ防ぐために、別な人が同じ作業をして、結果が等しいかどうか検査する仕組みを導入しなければならない。

対処方法の効果の個別評価(1):議決投票権を得票数にする方法

 副作用の洗い出しと改善方法が決まったので、副作用と改善方法まで含めた形で、対処方法の効果を個別に評価してみよう。これは、最終的な評価を手助けするための、事前の評価という位置付けになる。
 この評価では、最初に挙げた問題点ごとに、どれだけの改善効果があるかを判断する。まったく関係なくて効果がない(×印)から、問題点を完璧に消してしまうほどの絶大な効果(☆印)までの間で、どこに位置するのか判断する。地方議会での検討で、問題点以外に2項目を追加したので、ここではその2項目を最初から追加する。
 まず「議決投票権を得票数にする方法」だ。「1票の格差の是正」に関しては、格差をゼロのする効果があり、完璧な対処方法といえる。そのため最高の「極めて有効:☆印」を付けた。次は「様々な価値観での投票」。これには効果がないので「ほとんど効果なし:×印」を付けた。続く「死票の減少」にも関係ないので、同じく「ほとんど効果なし:×印」を付けた。「投票率の向上」に関しては、ある程度の効果が期待できる。その程度は難しいので、いろいろ悩んだ末に「△〜○」と判断した。「より適切な当選者選び」と「開票作業の手間増加」には関係がないので、それぞれ「ほとんど効果なし:×印」と「悪影響なし:*印」を付けた。以上の評価結果をまとめると、次のようになる。

「議決投票権を得票数にする方法」の効果の個別評価
・☆:1票の格差の是正
・×:様々な価値観での投票
・×:死票の減少
・△〜○:投票率の向上
・×:より適切な当選者選び(開票作業)
・*:開票作業の手間増加

 なお、評価結果が見やすいように、記号を前側に付けてある。

対処方法の効果の個別評価(2):候補者による重視点の表明

 続いて、「候補者による重視点の表明」によって、有権者が投票する人を選ぶ方法の効果を評価する。これは2つの詳細タイプがあるが、かなり似ているので、一緒に扱いながら違う点だけ区別する。
 「1票の格差の是正」には関係ないので、両方とも「ほとんど効果なし:×印」。「様々な価値観での投票」は、「全国区で好きな人に投票」のほうは、誰にでも投票できるので「極めて有効:☆印」とした。「大型地方区で好きな人に投票」は、自分の選挙区に立候補していないと投票できないため、少し劣る「かなり有効:◎印」にプラス記号(+印)を付けることにした。「☆印」にマイナス記号(−印)付きでも構わないと思う。
 「死票の減少」は、「候補者による重視点の表明」の点では関係ないものの、「全国区」や「大型地方区」を採用することで減少する。現状の小選挙区制と比べると大きく減少するが、そもそも小選挙区制の方が悪すぎるので、「まあまあ有効:○印」が妥当な評価だろう。選挙区を「大型地方区」に分けた方が、投票したい候補者が見付からない可能性が高いので、「全国区」に比べると減少数は低くなる。というわけで、「全国区で好きな人に投票」は「○印」、「大型地方区で好きな人に投票」は「○印」にマイナス記号(−印)を付けた。
 「投票率の向上」に関しては、まあまあの効果があると予想するが、不確定部分が多いため「△〜○」とした。「より適切な当選者選び」と「開票作業の手間増加」には関係がないので、それぞれ「ほとんど効果なし:×印」と「悪影響なし:*印」を付けた。これらを整理すると、次のようになる。

「候補者による重視点の表明」の効果の個別評価
「全国区で好きな人に投票」の場合
・×:1票の格差の是正
・☆:様々な価値観での投票
・○:死票の減少
・△〜○:投票率の向上
・×:より適切な当選者選び(開票作業)
・*:開票作業の手間増加
「大型地方区で好きな人に投票」の場合
・×:1票の格差の是正
・◎+:様々な価値観での投票
・○−:死票の減少
・△〜○:投票率の向上
・×:より適切な当選者選び(開票作業)
・*:開票作業の手間増加

 詳細タイプによる違いは、「様々な価値観での投票」だけとなる。誰でも予想できるように、「全国区で好きな人に投票」のほうが、より高い評価となる。

対処方法の効果の個別評価(3):優先順位付きで複数の候補者名を書く方法

 続いて、「優先順位付きで複数の候補者名を書く方法」の効果を評価する。これも2つの詳細タイプがあり、かなり似ているので、一緒に評価しながら相違点だけ別々に述べる。
 まず「死票の減少」だが、死票が完全にはなくならないものの、かなり減らせるので「かなり有効:◎印」とした。「1票の格差の是正」は、一見すると関係ないように見える。しかし、死票の減少という効果があるため、今までなら死票になっていた人の1票を助けて、有効な票に変える機能も持つ。別な意味で少しながら効果があると判断し、「少し有効:△印」とした。「投票率の向上」は、現状の選挙制度と比べると、死票の大幅な減少を通じて、少しの効果があると予想される。それでも「少し有効:△印」より弱いと予想し、マイナス記号(−印)を付けた。
 「より適切な当選者選び」に関しては、立候補者の数が非常に多い状況だと、当選者の決定方法の良し悪しが、当選者選びに意外に大きな影響を及ぼす。「1番目の名前で当選確定する方式」でもそこそこの効果はあるが、票の分散状況によっては民意を反映しない結果が起こり得る。そのため、「まあまあ有効:○印」にマイナス記号(−印)を付けた。「最下位から順に落選させる方式」の方は、非常に良い方法なので「かなり有効:◎印」とした。
 「開票作業の手間増加」については、「1番目の名前で当選確定する方式」のほうが少ないので、「少しの悪影響がある:▲印」とした。「最下位から順に落選させる方式」の方は、かなり作業が増えるものの、実際の回数自体は非常に少ないため、「かなりの悪影響がある:●印」にプラス記号(+印)を付けた。
 以上の評価結果を整理すると、以下のようになる。

「優先順位付きで複数の候補者名を書く方法」の効果の個別評価
「1番目の名前で当選確定する方式」の場合
・△:1票の格差の是正
・×:様々な価値観での投票
・◎:死票の減少
・△−:投票率の向上
・○−:より適切な当選者選び(開票作業)
・▲:開票作業の手間増加
「最下位から順に落選させる方式」の場合
・△:1票の格差の是正
・×:様々な価値観での投票
・◎:死票の減少
・△−:投票率の向上
・◎:より適切な当選者選び(開票作業)
・●+:開票作業の手間増加

 2つの詳細タイプで差があるのは、「より適切な当選者選び」と「開票作業の手間増加」だ。「最下位から順に落選させる方式」のほうが、開票に手間はかかるものの、より適切な当選者選びができる。

(2001年6月7日)


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