川村渇真の「知性の泉」

(衆議院議員の選挙制度を検討)
問題点ごとの対処方法の検討


対処方法の検討の準備:変更可能な箇所の洗い出し

 問題点と原因を検討し終わったので、原因を少しだけ参考にしながら問題点への対処方法を考える。その前に、選挙制度のどんな点が変更可能なのかを明らかにして、対処方法を導き出す際のヒントに利用する。衆議院議員の選挙制度の場合は、次の5点となった。

選挙制度の改善で修正できる箇所
・投票で指定できる候補者の範囲(現状では選挙区)
・投票で指定できる投票タイプ
  (政党、候補者、主張タイプなど幅広く)
・投票で記入する内容
・当選者を決定する方法
・各議員に与える議決投票権

 「投票で指定できる候補者の範囲」は、現状では小選挙区も比例区も選挙区であり、地域に分かれている。しかし、地域で区切る必要はない。もっと別な区切り方まで含めて検討し、幅広い価値観で選べるようにする。
 「投票で指定できる投票タイプ」とは、どんな対象に投票するかを表す。候補者以外にも、政党、主張のタイプなどが考えられる。これは次の「投票で記入する内容」に大きく影響する。候補者へ投票するなら、記入する内容は候補者名になる。政党へ投票するなら、記入する内容は政党名になる。主張のタイプなら、主張のタイプを表す言葉となる。ただし、主張のタイプを言葉で書くよりも、希望する主張のタイプを重視する候補者の名前を書く方が、現実的な方法といえる。
 「当選者を決定する方法」は、「投票で記入する内容」に大きく関係し、投票した内容に基づいて、当選者を決めるルールと手順を規定する。「各議員に与える議決投票権」とは、議会で議員が決議に投票するときの票の大きさのこと。現在は、議員ごとに1票だが、それ以外でも構わない。こうした箇所の変更を組み合わせて、より良い選挙制度を検討する。

対処方法の検討(1):1票の格差の是正

 これから、具体的な対処方法を求める。問題点ごとに検討した方が考えやすいので、1つずつ順番に見ていこう。
 1票の格差の是正は、前提条件として設定した「議決投票権を得票数にする方法」で決まりだ。中身は、「その議員が得票した数だけ、議決投票権を与える」という対処方法である。これは格差を小さくするというのではなく、格差を一気にゼロにしてくれる。しかも、選挙区における投票権の格差ではなく、議員の議決投票権から見ての有権者の1票の格差をゼロにする。
 この方法は非常に素晴らしく、選挙区の有権者数にどれほど差があっても、そうした影響を受けない。国勢調査による選挙区の区割りや当選者数の変更が遅れても、その影響を受けにくい。
 ただし、重大な欠点が1つある。現状の小選挙区制のように、死票が極端に多い場合は、かなりの数の投票が無効になって、得票数を議決投票権する意味を軽くしてしまう。死票を限界まで減らす仕組みと併用しないと、本当の価値を生かせない。その意味で、死票の現象は必須となる。

対処方法:1票の格差の是正
・議決投票権を得票数にする方法
 (必須条件:死票を相当少なくする方法との併用)

 別な方法も改めて考えてみたが、上記方法があまりにも素晴らしく、これに匹敵する方法は思い浮かばなかった。そのため、1票の格差の是正に関しては、対処方法の候補を1つだけにする。

対処方法の検討(2):様々な価値観で投票を可能に

 今回の検討で一番難しいのが、この問題点の解消である。既存の選挙制度である小選挙区制と政党比例制では、かなり修正を加えたとしても、この問題点を解消できない。まったく新しい方法が必要となる。
 では、どのような方法なら解消できるであろうか。論理的に考えていこう。必要な条件として、候補者ごとに重視する点を表明してもらわなければならない。1つだけでも複数でも構わない。複数の場合は、優先順位を付けて表明してもらう。重視する点を表明するだけだと、複数の候補が同じ内容を表明したとき、どんな点が違うのか分からず、選択に困ってしまう。そこで、重視する点に加えて、具体的な実現方法も表明してもらう。複数の重視点を表明したなら、それぞれについて実現方法を明らかにする。
 このような形で表明してもらえば、投票する候補者が選べるようになる。自分が重視してほしい点によって、候補者を何人かに絞り込む。その候補者の表明内容から、具体的な実現方法や他の重視点を比べて、投票する一人を選べばよい。
 この方法を採用した場合、選挙区の区割りはどうすればよいのだろう。選挙区を小さくして、そこに立候補した候補者からしか選べないと、価値観がマイナーなほど該当する候補者が見付からず、投票できない。それを考えると、選挙区で分けずに全国区にするのが一番良い。
 比較する対象という意味で、全国を数個の地方区に分ける方法を挙げておこう。地域の区分け方としては、数個の分割という条件を満たしながら、地域の一般的な区切りを採用するということで、現在の比例区の区割りと同じにする。
 別な対処方法は考えられないだろうか。いろいろと考えたが、残念ながら思い付かなかった。そのため、対処方法の候補は以下の2つとする。

対処方法:様々な価値観で投票を可能に
・候補者による重視点の表明
  +全国区で好きな人に投票
・候補者による重視点の表明
  +大型地方区で好きな人に投票

 この方法を採用した場合、特定地域の利益を優先してほしい候補者はどうすればよいのだろうか。立候補者に、具体的な地域範囲を指定しながら、その地域の利益を優先すると表明してもらったうえで、有権者がその人に投票すればよいだけだ。表明することで一定以上の得票するが得られる間は、そういう候補者が現れる。たとえば、「私は青森県の利益を優先して活動します」と公約に載せればよい。重点地域をもっと狭めて「私は青森県の利益、とくに八戸市の利益を優先して活動します」と公約することも可能で、得票数が期待できればそうする候補が出るだろう。というわけで、特定地域の利益を優先する投票も大丈夫だ。
 実は、それだけではない。特定地域の利益を優先する投票に限っても、既存の選挙制度より優れている点がある。現在の小選挙区制だと、その地区に住んでいる(住民票がある)人しか投票できない。しかし、この方法を採用すれば、別な地区に住んでいる人でも投票可能だ。将来は出身地に戻る予定なので、出身地の利益を優先してくれる人に投票しておこうとか、将来住もうと思っているので、出身地ではないけど、その地域の利益を優先してくれる人に投票するといった行動も取れる。さらに、単に利益を優先するだけでなく、候補者が表明した実現方法を見て判断できるのも、新しい点である。
 特定の政党を応援したい場合はどうだろうか。その政党に属する議員の中で、一番応援したい議員を指名すればよいだけだ。つまり、政党重視の投票方法にも問題なく対応できる方法である。
 特定地域の利益重視と政党重視の投票方法を紹介したが、これら以外のどんな価値観であっても、候補者が登場する限り、投票することが可能となる。将来生まれる新しい価値観にも対応できるため、選挙制度を継続的に変更する必要もない。こうした柔軟な特性を備える制度なのだ。
 当選人数の決め方だが、全国区の場合は、衆議院の人数と同じにして、得票数の多い順から当選とする。大型地方区の場合は、投票前の一定時点の有権者数を求め、その数から各地区の投票者数を求める。有権者数が調べられるので、国勢調査を参考にする必要はない。この方法の方が、より正しい情報で投票者数を決められる。

対処方法の検討(3):死票の削減

 死票がかなり多く出ることは、現在の小選挙区における重大な欠陥である。これは極めて重要なので、最優先で改善しなければならない。
 もっとも大きな原因は、小選挙区制という制度にある。これを採用しないだけで、死票は大きく減る。前述のように、「候補者による重視点の表明」を採用すると、全国区でも大型地方区でも、死票の数は極端に減る。
 ただし、候補者が非常に多い場合は、死票がどうしても増えてしまう。これを救うのは、地方議会議員の選挙制度の検討でも採用した、複数の候補者を記入する方法だ。最初に指定した候補者が落選しても、次に書いた候補者が有効になり、それがダメなら次の候補者へと続く。少なくても3名、できれば5名の候補者を指定できるとよい。こうすると、死票が限界まで減る。得票数が議員の議決投票権になるので、死票にならない価値は大きい。
 地方議会議員の選挙制度の検討でも紹介したように、複数の候補者の名前を書く方法で難しいのは、当選者の選び方である。これも、同じように2種類の方法を挙げる(同じ内容なので、詳しい解説は省略)。
 死票を減らす別な方法を考えてみたが、上記の方法に匹敵するような方法は思い付かなかったので、対処方法は以下のように2つとする。

対処方法:死票の削減
・優先順位付きで複数の候補者名を書く
 +1番目の名前で当選確定する方式
 (前提条件:議決投票権を得票数にする方法の採用)
・優先順位付きで複数の候補者名を書く
 +最下位から順に落選させる方式
 (前提条件:議決投票権を得票数にする方法の採用)

対処方法の検討(4):投票率の向上

 地方議会議員の選挙制度の検討と同じように、ここまで出た対処方法は、投票率の向上に役立つ。同じ対処方法である「議決投票権を得票数にする方法」や「優先順位付きで複数の候補者名を書く」などだ(詳しい説明は同じなので省略)。
 また、衆議院の選挙制度の検討で新たに登場した「候補者による重視点の表明」も、投票率の向上に貢献する。有権者が重視したい点を考えながら投票できるため、「投票したい候補者がいない」といった問題が発生しにいからだ。
 これらが全部揃えば、そこそこの効果が期待できる。他に新しい対処方法を思い浮かばなかったので、まとめると以下のようになる。

対処方法:投票率の向上
・議決投票権を得票数にする方法
・候補者による重視点の表明
  +全国区で好きな人に投票
・候補者による重視点の表明
  +大型地方区で好きな人に投票
・優先順位付きで複数の候補者名を書く
 +1番目の名前で当選確定する方式
 (前提条件:議決投票権を得票数にする方法の採用)
・優先順位付きで複数の候補者名を書く
 +後から順に落選させる方式
 (前提条件:議決投票権を得票数にする方法の採用)

 以上で、問題点への対処方法をひととおり出し終わった。

(2001年6月7日)


下の飾り