川村渇真の「知性の泉」

(地方議会議員の選挙制度を検討)
対処方法の組み合わせと最終評価


対処方法の組み合わせ作成:有効な組み合わせは2種類だけ

 対処方法の検討と評価が終わったので、対処方法の有効な組み合わせを求める段階だ。今回の検討では、無駄な説明を減らすために、あまり有効でない対処方法を取り上げなかった。また、課題そのものが簡単だったため、対処方法は以下の3つしかない。この中から、有効な組み合わせを作ることになる。

対処方法の一覧
・議決投票権を得票数にする方法
・優先順位付きで複数の候補者名を書く
 +1番目の名前で当選確定する方式
 (前提条件:議決投票権を得票数にする方法の採用)
・優先順位付きで複数の候補者名を書く
 +最下位から順に落選させる方式
 (前提条件:議決投票権を得票数にする方法の採用)

 後半の2つは、前提条件として「議決投票権を得票数にする方法」の採用がある。そうなると、有効な組み合わせは、以下の2つしかない。

対処方法の組み合わせ
名称:新制度基本型
・議決投票権を得票数にする方法
・優先順位付きで複数の候補者名を書く
 +1番目の名前で当選確定する方式
名称:新制度改良型
・議決投票権を得票数にする方法
・優先順位付きで複数の候補者名を書く
 +最下位から順に落選させる方式

 単純に組み合わせるだけなら、「議決投票権を得票数にする方法」のみも可能である。しかし、死票の減少を放棄することになるので、最良解を求めるという検討の方針から外れるため、あえて含めなかった。もし含めたいなら、ここで入れておき、組み合わせの評価で落とす手もある。
 各組み合わせに名前を付けないと扱いづらいので、簡単な名前も付けた。2つしかなく、どちらも新しい制度なので「新制度」の言葉を用いている。2つ目が改良したほうなので「改良型」と、改良前を「基本型」として区別した。

組み合わせの評価:相違点が少ないので簡単に済む

 組み合わせが2種類しかなく、内容が似ているので、評価は非常に簡単だ。最初に挙げた問題点を中心に、評価項目を並べて、組み合わせごとの評価結果を明らかにする。組み合わせの評価結果は、評価項目ごとに個別評価結果を参考にして求めるが、今回は重複する評価項目が少ないので、ほぼそのままで済んだ。まとめた結果は、以下のとおり。

対処方法の組み合わせの評価結果
重要度評価項目新制度基本型新制度改良型
1票の格差の是正
死票の減少
投票率の向上△〜○△〜○
より適切な当選者選び○+
△−開票の手間▲−
特徴開票の手間が少ないより適切な当選者が選べる

 簡単に説明すると、「新制度改良型」は「新制度基本型」に比べ、より適切な当選者選びができるものの、開票の手間が少し増えることになる。また、どちらの組み合わせも、既存の選挙制度と比較して、1票の格差の是正や死票の減少などの面で、非常に優れている。既存の選挙制度は、劣りすぎていて比べるのが可哀想なほどだ。
 2つの組み合わせのどちらが良いかは、評価基準に依存する。より良い当選者選びの方が重要なら「新制度改良型」で、現状の開票作業との親和性を重視するなら「新制度基本型」となる。評価項目の重要度で示しているように、良い当選者選びの方が重要なので、ベストは「新制度改良型」である。

結論となる最終評価:最低でも新制度基本型の採用が必須

 ここまでの検討内容を整理して、検討の結論を出してみよう。前述のように、最も優れた選挙制度は「新制度改良型」であり、これを結論とする。
 しかし、2つの組み合わせはどちらも、既存の選挙制度より遙かに優れている。どちらを採用したとしても、現状よりは格段によい制度に改良できる点を考慮すると、もう少し説明を加えるのが適切だろう。
 2つの組み合わせは、開票での当選者の決め方以外は、同じ内容になる。議会での投票方法などは、まったく変わらず同じ機材が使える。また、期待される改善効果のほとんどは同じで、どちらも優れている。
 だとしたら、次のような2段階の移行方法も考えられる。開票の手間が少ない「新制度基本型」をまず導入し、それが定着してから「新制度改良型」へ変更するという手順だ。「新制度基本型」の方が、開票作業の手間が少ない分だけ、最初に導入するのが容易となる。それに慣れながら、新しい選挙制度の理解、有権者の意識の向上といった環境を整備する。その後に、「新制度改良型」へ移行すればよい。
 以上を総合すると、最低でも「新制度基本型」の採用が必須であり、できれば「新制度改良型」のほうがよい。とりあえず「新制度基本型」を導入しておき、時間が経過してから「新制度改良型」へと移行する手順もありえる。これを結論としておく。

実施においての考慮点:候補者の情報を詳しく提供など

 新しい選挙制度を実施すると、選挙への関心が今までよりも向上する。より良い投票をしたいと思う有権者は、候補者の詳しい情報を求めるだろう。そんな要望に応えられるように、情報提供の仕組みを整備すべきだ。
 候補者の情報提供で重要なのは、プライバシーの保護に配慮するとともに、有権者の判断に役立つ内容を与えることだ。公約する内容だけでなく、その人の過去の実績など、少し詳しく明らかにしてもらう。どんな項目があったら判断の材料になるのか、項目を洗い出すとともに、書き方を規定した方がよい。それに合わせて書いてもらい、有権者に公表する。現在はインターネットがあるため、今までよりも低コストで伝えられる。
 書いた内容がウソだった場合の対処も、事前に決めておきたい。当選が無効になるなど、厳しい対応が望ましい。また、ウソを指摘する窓口を設け、積極的に情報を集める。ただし、落選させようとするニセ情報も入ってきやすいので、根拠となる情報も一緒に付けてもらう。こうした窓口があるだけでも、ウソの記述を防止する圧力となるはずだ。
 これ以外でも、より良い選挙に改良できる工夫があれば、どんどんと採用する。継続的に改善し続ければ、有権者も政治家も意識が高くなり、最終的には行政の質の向上につながる。選挙制度は、有権者が意見を表明できる数少ない機会なので、少しでも良くすることは非常に大切だ。

(2001年5月7日)


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