川村渇真の「知性の泉」

(地方議会議員の選挙制度を検討)
対処方法の副作用改善と個別評価


副作用の検討(1):議決投票権を得票数にする方法

 検討で考え出した対処方法の中には、新たな問題(副作用と呼ぶ)を発生させるものもある。対処方法を評価する前に、副作用を洗い出して、可能な改善方法まで検討しなければならない。こうした作業は、対処方法の検討の一部だが、理解しやすいように分けてみた。
 まず最初は、「議決投票権を得票数にする方法」の副作用の検討だ。真っ先に考えられるのは、1人の候補者に得票数が集中した場合。もし1人で過半数を超えてしまったら、その議員が賛成または反対するだけで多くが決まってしまうので、そんな状況だけは避けたい。1人の議員が獲得できる最高得票数を制限して、それを越えた分は別な当選者に配分する形に改善する。  制限値となる最高得票数は、全投票数の一定割合として表し、半数から2割削減した40%が妥当だと思う。あまり低くすると、民意の反映に逆行するので、過半数から遠くない値が適すると考えたためだ。40%を持つ議員に、10%以上を持つ他の議員が賛成すれば、過半数になって支配できる。そんな状況で良くないのは、民意に逆らって暴走する場面だ。しかし、もともと民意を反映して議決投票権を与えているので、民意に逆らって暴走する状況は起こりにくい。もし起こった場合の対処は、議決投票権を制限するのではなく、以外の仕組みとして用意する。たとえば、議決投票権での決議内容に対して、議員数の2/3以上が決議に反対したときは、決議内容をいったん保留にし、住民投票で決めるという具合に。通常の議決は、可能な限り民意を反映する形に保つべきである。なお、阻止する場合に住民投票を含めるのは、得票数の少ない議員の反対が、民意を反映している可能性が低いからだ。
 最高得票数の制限を越えた分の配分も、できるだけ民意を反映させる。対象議員への投票で2番目の名前を調べ、その比率に比例する形で、残りの当選議員に配分する。この方法なら、配分する分も民意に近い形となる。
 もっと極端なケースとして、40%を越える当選者が二人出ることもあり得る。こうした場合は、最高得票数をもう少し低く設定するように、制度を設計しなければならない。二人の得票率の差まで考慮する必要もあるため、少し難しい設計となる。詳しく説明すると長くなるので、ここでは省略しよう。
 次の副作用は、議会での投票結果の計算が面倒になる点だ。これは、電子化した投票システムを導入することで、簡単に解決できる。各議員の座席に「賛成」、「反対」、「棄権」といったボタンを付け、それを押すと集計結果が前に表示されるシステムで十分だ。各議員の投票内容が外から確認できるように、ボタンの横に投票内容の表示ランプでも付ければよい。議員の議決投票権を変更可能に設計しておけば、開発費用が最初の1回だけで済む。この程度の機材なら、普通に競争入札すれば費用はそれほどかからないので、民意が反映されることを考えると、安いものである(豪華な役所の建物や不要な施設の建設費に比べたら、微々たる金額)。こうした投票システムを用意しない場合でも、パソコンの表計算ソフトに計算式を入れておき、各議員の賛成反対値を入力するだけで結果が出るようにしておけば済む。
 議員の議決投票権が異なると、無記名投票では、誰がどちらに投票したのかバレやすい。投票用紙に議決投票権の点数が書いてあるので、誰の投票用紙か一目瞭然だからだ。それを防ぐには、1点券、10点券、100点券のような共通の投票用紙を用意して、持ち点分だけ渡せばよい。こうやっても、最終の集計値から逆算して、誰がどちらに投票したのか調べられる可能性が残っている。そこで、1点券を30枚以上、10点券も30枚以上、100点券も30枚以上という具合に、わざと細かな点数を多めに入れて渡す。バレたくない議員は、それを反対意見側に投票することで、カモフラージュができる余地を残しておく。ここまでやれば万全に近い。
 もう1つ、議員の報酬に関しても、「得票数に比例させるべきでは」との話がでるだろう。これは単純には賛成できない。たとえ得票数が少なくても、議員として十分に活動してもらわなければならず、一定以上の報酬は必要となる。ただし、得票数が多いほど、期待されている活動も多くなるため、少しは多く与えたい。両方の考え方を満たすために、既存の報酬の60〜80%を固定分に割り当てて、残りを得票数に比例する方式がベストと思われる。
 純粋な副作用ではないが、選挙違反への対応も一緒に変更した方がよい。選挙違反が発覚したら、違反内容が影響を及ぼす投票者数を調べる。その分だけ、得票数から差し引いて当否を決める。選挙違反という悪い行為であるし、違反の抑止力として働かせるために、違反内容から得られた投票者数をそのまま差し引くだけでは不十分だ。得られた違反得票数の10倍といった高倍率で差し引く方法を採用し、違反すれば大きく損する条件を整える。
 以上が「議決投票権を得票数にする方法」に関する副作用と改善方法の中身だ。これらをまとめると、次のようになる。

「議決投票権を得票数にする方法」の副作用と改善方法
・特定の候補者に得票が集中する
  ・改善方法:最高得票率で制限する
・投票結果の確認に計算が必要
  ・改善方法:議員投票システムを用意する
・無記名投票での投票結果がバレやすい
  ・改善方法:細かな投票権値の投票用紙を用いる
・議員の報酬は得票数に比例しなくて構わないか
  ・改善方法:一部だけ得票するに比例する形に
・選挙違反への対応(一緒に変更した方がよい)
  ・改善方法:違反を得票数に換算して数倍を差し引く

副作用の検討(2):優先順位付きで複数の候補者名を書く方法

 続けて、「優先順位付きで複数の候補者名を書く方法」の副作用と改善方法を検討する。こちらは、「1番目の名前で当選確定する方式」と「最下位から順に落選させる方式」の2つのバリーエーションがある。どちらも共通の副作用があるので、まとめて検討する。
 もっとも大きな副作用は、前にも述べたように、開票の手間が増える点だ。ただし、増えると言っても、とんでもなく大変になるわけではない。作業として増える分は、2番目以降の候補者名を調べる部分だけで、全部の票について調べるわけではない。別な候補者に配分する票に限られる。地方議会議員の選挙では、当選者数が多いため、該当する票はそれほど多くない。しかも、選挙のときだけ発生する作業なので、通常は数年に1回である。死票を減らす効果を考えたら、デメリットといえるだけの手間とは到底思えない。特別な改善方法は不要と判断した。なお、将来、投票が電子化されたときには、開票の手間はほとんど不要になり、副作用は完全に消えてしまう。
 複数の名前を書くので、投票者がこの仕組みを理解できるか心配だと言う人もいるだろう。しかし、世の中の人はそれほどバカではない。これぐらいの仕組みは、容易に理解できる。もちろん、事前に丁寧な説明は必要だ。また、投票表紙を工夫することで、理解を手助けできる。たとえば、名前を記入する各欄に次のように言葉を入れる。1番上の欄には「もっとも当選させたい人の名前を書く」と、2番目の欄には「もし上の人が落選したとき、次に当選させたい人の名前を書く(いないなら書かなくても構わない)」と、3番目の欄には「もし上の二人ともが落選したとき、当選させたい人の名前を書く(いないなら書かなくても構わない)」という風にだ。たったこれだけの説明でも、仕組みの概略が伝わってくる。それでも理解できない人がいたら、1人の名前だけを一番上の欄に記入してもらえばよい。また、2番目以降の欄に間違って記入した場合も考慮し、空欄は自動繰り上げして解釈するルールも一緒に規定する。ここまでやれば、問題となるほどの混乱は発生しない。
 その他の副作用は見付からなかったので、この辺で切り上げる。上を整理すると、以下のとおり。

「優先順位付きで複数の候補者名を書く方法」の副作用と改善方法
・開票作業が増えて、手間や時間が以前より多くかかる
  ・改善方法:作業回数が少ないので無視して構わない
・投票者が仕組みを理解できるか心配
  ・改善方法:丁寧な説明や投票用紙に工夫など

 通常の検討作業では、副作用の改善方法が見付からず、却下される対処方法が出ることもある。今回は、それに該当するものがないため、すべて採用として検討作業を続けよう。

対処方法の効果の個別評価(1):議決投票権を得票数にする方法

 副作用の洗い出しと改善方法が決まったので、副作用と改善方法まで含めた形で、対処方法を個別に評価してみよう。これは、最終的な評価を手助けするための、事前の評価という位置付けになる。
 この評価では、最初に挙げた問題点ごとに、どれだけの改善効果があるかを判断する。まったく関係なくて効果がない(×印)から、問題点を完璧に消してしまうほどの絶大な効果(☆印)までの間で、どこに位置するのか判断する。
 先に「議決投票権を得票数にする方法」だ。「1票の格差の是正」に関しては、格差をゼロのする効果があり、完璧な対処方法といえる。そのため最高の「極めて有効:☆印」を付けた。「死票の減少」については、まったく関係ないので「ほとんど効果なし:×印」を付けた。「投票率の向上」に関しては、ある程度の効果が期待できる。ただし、それが「少し有効:△印」なのか「まあまあ有効:○印」なのかは、簡単には判断できない。また、地方ごとの現状に左右され、まだ投票率が低下しているほど、より大きな効果が期待できる。いろいろ悩んだ末に「△〜○」と判断した。
 以上の評価結果をまとめると、以下のようになる。なお、評価結果が見やすいように、記号を前側に付けてある。

「議決投票権を得票数にする方法」の効果の個別評価
・☆:1票の格差の是正
・×:死票の減少
・△〜○:投票率の向上

対処方法の効果の個別評価(2):優先順位付きで複数の候補者名を書く方法

 次は、「優先順位付きで複数の候補者名を書く方法」の効果を評価する。対象となる問題点は同じだが、関連を持った箇所があるので、別の順番で評価する。
 まず「死票の減少」だが、かなりの改善効果があるので、「かなり有効:◎印」とした。ただし、投票者が使い方を理解した場合の効果なので、理解を深めるための活動を続けたり、投票表紙の工夫を繰り返すなど、最初のうちは行政側の努力を期待する。さほど難しい内容ではないので、3回ぐらい繰り返せば、ほとんどの人が理解できるはずだ。
 「1票の格差の是正」は、一見すると関係ないように見える。ところが、死票の減少という効果があるため、今までなら死票になっていた人の1票を助けて、有効な票に変える機能も持つ。全員の票が有効になることこそ、本当の意味での格差のない状態なので、これも格差の是正といえる。ただし、地方議会議員の選挙の場合は、全体の投票するから見た割合が少ないので、「少し有効:△印」と判断した。
 「投票率の向上」は、死票の減少を通じて、ほんの少しの効果があると予想される。「少し有効:△印」よりも弱いので、マイナス記号(−印)を付けた。
 ここまでの検討で、1つの疑問が生じてくる。「優先順位付きで複数の候補者名を書く方法」には、「1番目の名前で当選確定する方式」と「最下位から順に落選させる方式」の2つがある。これらの違いが、対処方法の個別評価に現れないのはなぜだろうか。もし現れないとすれば、2つの方法を取り上げる価値はない。
 現れない理由は、評価項目が不足しているからである。評価項目は、最初に挙げた問題点から持ってきているが、これは主な事柄しか含んでいない。対処方法を考え出す段階で、より小さい事柄まで取り上げ、それに対処するための方法も考え出す。今回もそうで、「投票内容をより反映した当選者選び」を実現するために、最下位から順に落選させる方式」を追加した。というわけなので、評価項目に「より適切な当選者選び」を追加する。
 評価の結果だが、改良前に相当する「1番目の名前で当選確定する方式」は「まあまあ有効:○印」とした。改良後の「最下位から順に落選させる方式」は、大きな改善とまではいかないので、「まあまあ有効:○印」にプラス記号(+印)を付けることにした。
 追加すべき名のは、良い点ばかりではない。2つの対処方法には、開票作業の面倒さに差がある。とくに「最下位から順に落選させる方式」ほうは、現在行われている複数場所での開票作業では、途中で何度も連絡を取り合うか、投票用紙を一カ所に集めて開票するかの対応が求められる。こうしたマイナス面の差も、評価に加えなければならない。
 評価項目は「開票作業の手間増加」とした。評価の結果だが、「1番目の名前で当選確定する方式」は「少しの悪影響がある:▲印」とした。「最下位から順に落選させる方式」は、もう少し作業量が増えるので「少しの悪影響がある:▲印」にマイナス記号(−印)を付けた。
 以上の評価結果を整理すると、以下のようになる。

「優先順位付きで複数の候補者名を書く方法」の効果の個別評価
「1番目の名前で当選確定する方式」の場合
・△:1票の格差の是正
・◎:死票の減少
・△−:投票率の向上
・○:より適切な当選者選び
・▲:開票作業の手間増加
「優先順位付きで複数の候補者名を書く方法」の場合
・△:1票の格差の是正
・◎:死票の減少
・△−:投票率の向上
・○+:より適切な当選者選び
・▲−:開票作業の手間増加

 なお、「より適切な当選者選び」と「開票作業の手間増加」の評価項目は、前の「議決投票権を得票数にする方法」にも追加しなければならない。どちらも関係ないの項目なので、それぞれ「ほとんど効果なし:×印」と「悪影響なし:*印」を付ける。

(2001年5月7日)


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