川村渇真の「知性の泉」

(地方議会議員の選挙制度を検討)
問題点ごとの対処方法の検討


対処方法の検討の準備:変更可能な箇所の洗い出し

 問題点と原因が分かったので、原因をもとにした問題点への対処方法を考える。その前に、選挙制度のどんな点が変更可能なのかを明らかにした方がよい。その全部を洗い出すせば、対処方法を導き出す際のヒントになりやすいからだ。地方議会議員の選挙制度の場合は意外に少なくて、次の3点しかなかった。

選挙制度の改善で修正できる箇所
・投票の仕方(とくに投票で記入する内容)
・当選者を決定する方法
・各議員に与える議決投票権

 「投票の仕方」は、投票時に記入する内容のことで、複数の候補者を記入するなども考えられる。「当選者を決定する方法」は、「投票の仕方」に大きく関係し、候補者の中から当選者を決めるルールと手順を規定する。「各議員に与える議決投票権」とは、議会で議員が決議に投票するときの票の大きさのこと。現在は、議員ごとに1票だが、それ以外でも構わない。こうした箇所の変更を組み合わせて、より良い選挙制度を検討する。

対処方法の検討(1):1票の格差の是正

 いよいよ、具体的な対処方法を求める。問題点と原因をペアにして検討した方が考えやすいので、1つずつ順番に見ていこう。
 もっとも大きな問題は、議員の議決投票権から見た1票の格差である。この原因は議員の議決投票権なので、解消するには、議員の得票数と議決投票権を比例させるしかない。この2つを同じにするのが一番簡単なので、対処方法は「その議員が得票した数だけ、議決投票権を与えること」になる。
 この方法を採用すると、1票の格差が一気にゼロに達する。何しろ、議員の議決投票権が得票数と同じになるのだから、投票した全部の1票が、物事を決定する議会の決議で、真に平等の価値を持つ。1票の価値比率が1.5倍以内なんて中途半端な改善ではなく、価値比率が1、つまり格差がゼロになるのである。格差をゼロより小さくできないので、格差の是正にとっては最高の改善方法といえる。
 別な方法も考えてみたが、上記方法があまりにも素晴らしいため、これに匹敵する方法は思い浮かばなかった。そのため、1票の格差の是正に関しては、対処方法の候補を1つだけにする。

対処方法:1票の格差の是正
・議決投票権を得票数にする方法

対処方法の検討(2):死票の削減

 次の問題点は、死票の存在だ。これを少しでも少なくできないかが、検討課題となる。しかし、現状のように全議員の議決投票権が1票のままなら、死票を減らすことは無理。落選した議員を当選に変えられないし、当選議員の議決投票権を増やすこともできないからだ。
 ところが、議決投票権を得票数にする方法が採用されたら、状況は大きく変わる。当選しなかった候補者へ投票した人は、絶対にその候補者しかダメなわけではない。別な候補者でも構わないと考える有権者もいるだろう。すると、次のような対処方法が使える。
 有権者が投票するとき、現在のように1人だけの候補者の名前を書くのではなく、複数の候補者の名前を書く方法だ。一番当選させたい候補者を最初に書き、その人が落選したときに当選させたい候補者の名前を次に書く。2番目の人も落選することがあり得るので、3番目の人まで書けるとなおよい。こうして最大5人まで候補者の名前を書ければ、指定した人の全部が落選する可能性はかなり減る。その分だけ、死票が減るわけだ。有権者の多くがこの方法を使いこなすと、死票を限界まで減らすことができる。
 複数の候補者の名前を書く方法で難しいのは、当選者の選び方である。いくつかの選択方法が考えられるので、主な方法を挙げてみよう。
 もっとも単純なのが、1番目に書いた名前だけを利用する方法だ。1番目の名前だけを調べ、その数の大小で当選者を決めてしまう。その後、落選した候補者に投票した分だけ、2番目以降の名前を調べる。2番目以降の名前のうち、最初に登場した当選者に、その分の投票を加えるわけだ。これにより、書いた名前に当選者が含まれなかった投票だけが、死票になる。
 この方法には、残念ながら少し欠点がある。投票で名前を書くパターンとして、次のような状況が考えられる。数多くの人の投票表紙の2番目に、名前が書かれた候補がいる場合だ。この候補を1番目に書く人が少ないと、いくら2番目で大量に書かれたとしても、当選することはできない。結果として、3番目以降の候補者に票が回る。他にも例はあるが、長くなるのでここでは省略。
 こうした欠点は、当選者の決め方を改良することで解消できる。まず最初に、1番目に書かれた名前で集計する。その中で、得票数がもっとも少ない候補者を1人だけ、最初の落選者に決める。続けて、その落選者への投票を調べ、2番目に書かれた名前で集計する。その分の票を、該当する候補者の得票数に加え、得票数がもっとも少ない候補者を、2番目の落選者に決める。こうして、1人ずつ落選させながら、その人への投票分を残りの候補者に割り当てていく。落選してない候補者数が、当選者数と等しくなった時点で、当選者が確定する。
 こちらの方法の方が、最初の方法に比べ、有権者の意志をより正確に反映させられる。ただし、候補者数が多いほど集計の回数も増えるため、開票作業が少し大変になる。また、現在のように開票場所が複数ある場合、連絡しながら開票作業を進める必要が生じ、独立しての開票作業ができなくなる。しかし、選挙は何年に一度の作業でしかなく、可能な限り民意を反映することこそ重要と考える。
 死票を減らす他の方法を考えてみたが、上記の方法に匹敵するような方法は思い付かなかった。というわけで、対処方法は以下のように2つとする。

対処方法:死票の削減
・優先順位付きで複数の候補者名を書く
 +1番目の名前で当選確定する方式
 (前提条件:議決投票権を得票数にする方法の採用)
・優先順位付きで複数の候補者名を書く
 +最下位から順に落選させる方式
 (前提条件:議決投票権を得票数にする方法の採用)

対処方法の検討(3):投票率の向上

 最後の問題点は、投票率の低下だ。投票したらお金を与えるといった方法も考えられるが、姑息な方法は取りたくないので、選挙制度の範囲内で検討する。
 投票者にとって、もっとも重要なのは、投票したことで選挙結果が何か変わることである。ほんの小さなことで構わないから、投票した場合としなかった場合で差があることが大切で、それが確認できれば投票した意味を実感できる。
 ここまで他の問題点の検討で、いくつかの対処方法を挙げてきた。これらをよく見ると、投票した結果が確認できる特性まで含んでいる。最も有効なのは、「議決投票権を得票数にする方法」だ。自分が投票することで、当選した議員の議決投票権が1票増え、自分の投票を実感できる。「あの数には、自分の1票も含まれている」と思え、選挙への自分の参加が形として残った実感を与える。まれにだが、議会の決議が小差で決まった場合、自分の投票が役立ったと思える。これは錯覚でなく、本当のことなので価値が高い。
 もう1つの「優先順位付きで複数の候補者名を書く方法」も、間接的に同じ効果がある。落選した議員に投票した場合、自分の1票が消えてしまって、損した気持ちになる。しかし、複数の候補者の名前が書ければ、死票になる確率が格段に減って、誰かに1票が入る。こちらも、投票率を向上させる効果がある。
 選挙制度に関しては、他の方法を思い浮かばなかった。以上をまとめると、対処方法は次のようになる。

対処方法:投票率の向上
・議決投票権を得票数にする方法
・優先順位付きで複数の候補者名を書く
 +1番目の名前で当選確定する方式
 (前提条件:議決投票権を得票数にする方法の採用)
・優先順位付きで複数の候補者名を書く
 +後から順に落選させる方式
 (前提条件:議決投票権を得票数にする方法の採用)

 以上で、問題点への対処方法をひととおり出し終わった。

(2001年5月7日)


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