川村渇真の「知性の泉」

地方議会議員の選挙制度の設計例


複数の当選者を選ぶ選挙が大変

 社会の代表を決める選挙といっても、いくつかのタイプがある。タイプによる特徴の違いは、当選者の数により大きく2種類に分けられる。ただ1人の当選者を選ぶタイプの知事や市町村長の選挙と、何人かの当選者を選ぶタイプの国会議員や地方議会議員の選挙だ。
 この2種類のうち、ただ1人の当選者を選ぶタイプの選挙制度は簡単だ。有権者は、候補者の中から1人だけ選んで投票し、もっとも多くの得票を得た候補者が当選する。誰にでも分かりやすいし、選挙制度自体には文句を言う人がいないだろう。その意味で、選挙制度の当否判定方法の部分には、改善の余地があまり残されていない。任期や当選回数制限などは改善の対象となり得るが、現状においては比較的小さな問題なので、ここでは取り上げない。
 複数の当選者を選ぶタイプは、いろいろな形の選挙制度が考えられる。過去の検討を知っている人なら、中選挙区制と小選挙区制という言葉を聞いたことがあるだろう。これは、選挙区ごとの当選者数の違いである。複数の選挙区に分ける方法なので、選挙区の区分け方法も規定しなければならない。各選挙区の当選者数や選挙区の区分けなどは、国勢調査のような人口の推移と連動させ、格差が大きくならないように工夫する必要もある。他に、政党による比例区を設ける方法も使われている。こちらも、選挙区の区分けや当選者数があり、人口の推移と連動して修正する。
 複数の当選者を選ぶタイプの中には、地方議会議員のように、選挙区が1つしかないタイプもある。こちらは、決められた人数だけ当選する方法なので、選挙区の区分け方法に悩む必要はない。その分だけ検討が容易なので、こちらの選挙制度の改良案を先に設計する。

複数の工程に分けて検討を進める

 選挙制度の設計に検討手法を適用するため、検討手法に関しても少し解説しておこう。今回用いるのは、検討を複数の工程に分け、工程内での検討内容を整理した一覧表を作る方法だ。これだと、検討の過程まで明らかにできて、検討者が自分で検査しながら進められる。また、第三者が検討内容をレビューするのも容易となり、検討内容の最終的な質を高くできる。
 検討の質を左右するのは、検討の工程分けである。選挙制度の改善のように、現状に問題があって改善方法を検討する場合は、問題解決の工程分けがそのまま使えるため、工程分けで迷うことはない。具体的には、以下のような流れになる。

検討手法を用いて選挙制度を設計する手順
・現状把握:現状の選挙制度を把握するために情報を整理する
・問題点:現在の選挙制度の問題点の洗い出し
・原因:洗い出した問題点の原因を明らかにする
・対処:問題点ごとの対処方法(改善案)を導き出す
・副作用:対処方法の副作用を洗い出し、改善方法を検討する
・対処評価:対処方法を個別に評価してみる
・対処組合せ:対処方法の良い組み合わせを選ぶ
・組合せ評価:組み合わせを総合的に評価する

 今回は検討のサンプルという役目もあるので、最初に現状を把握する工程を入れて、より分かりやすくしてみた。また、対処方法の副作用の検討を、対処方法の検討の外に出して、検討過程を少し分かりやすくした。こうした手順に従って検討を進めた結果が、次のページからの内容である。
 なお、実際の検討作業では、入れ忘れた事柄に途中で気付き、前の工程に戻ってやり直すことがよくある。しかし、検討結果の説明では不要なので、大事な戻りを除いて省略した。また、課題が簡単なので、面倒な部分を省きながら検討している。これらの点を頭に入れながら読んでほしい。

重要度は記号で表現する

 検討作業では、洗い出した事柄に重要度を明らかにする。より重要な事柄ほど優先的に対応して、結論の質を高めるためだ。重要度を記号で表示した方が、表を見やすく仕上げられる。そのため今回の検討では、以下のような意味で記号を用いている。

重要度の記号の意味
・☆:極めて重要(絶対に解決する)
・◎:かなり重要(特別な理由がない限り解決する)
・○:まあまあ重要(できるだけ解決する)
・△:少し重要(もし余裕があったら解決する)
・×:無視して構わない

 括弧内の簡単な説明は、解決すべき度合いに照らし合わせて作ってある。複数の事柄でどちらか片方しか実現できないとき、重要度の高いほうを選ぶという具合に、より良い選択を手助けする。
 同様に、対処方法の効果に関しても、記号による表示を用いる。こちらも、効果の大きさを言葉で表現してみた。

効果の記号の意味
・☆:極めて有効(完璧または完璧に近く解決できる)
・◎:かなり有効(かなり解決できる)
・○:まあまあ有効(そこそこの効果はある)
・△:少し有効(少しの効果は期待できる)
・×:ほとんど効果なし

 重要度でも効果でも、良いと判断できる方に、良い意味の記号を割り当てた。こうすることで、記号の意味が読み取りやすくなる。
 対処方法の中には、改善効果をもたらすと同時に、現状より低下させる面を持つものがある。こうした悪影響も記号による表示を用いて、見やすく表現する。ただし、良い方の評価と同じ記号を用いたら、値を見誤る可能性が高いので、まったく別な記号を使って表現しなければならない。今回は、以下のように表現してみた。

悪影響の記号の意味
・*:悪影響なし
・▲:少しの悪影響がある
・●:かなりの悪影響がある
・★:大きな悪影響がある

 以上のような記号を用いながら、検討内容を箇条書きまたは一覧表で表現する。

(2001年5月7日)


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