川村渇真の「知性の泉」

検討手法で解決方法を導き出す例に


一向に改善されない選挙制度

 政治家を選ぶ選挙制度は、一般市民が政治へ参加する重要な役割を持つ。しかし、現実の制度を見ると、いろいろな問題を抱えていてる。
 もっとも大きな問題は、1票の格差が一向に是正されない点だ。とくに参議院では、約5倍の格差があっても無効とならない。裁判で何回も争っているが、1票の価値倍率が4.98倍もあった1998年の参議院選挙ですら、最高裁が合憲との判断を下した。これこそ民主主義の根幹を揺るがすとんでもない事態で、この国の裁判制度が正常に機能しているのか、非常に疑わしい。
 既存の選挙制度が持つ次の問題は、民意が的確に反映されない点だ。本来なら、当選者の(政党や主義などの)構成は、有権者の投票結果にできるだけ比例する形でならなければならない。しかし、政権交代の容易さを目指したという衆議院の小選挙区制の導入により、以前よりも民意に遠い選挙結果になる制度へと変わってしまった。
 たいていの選挙では、当選者以外への投票が、死票という無効票になってしまう。これを少しでも減らすのが良い選挙制度である。しかし、小選挙区制の導入などにより、以前よりも死票が増える方式への改悪されている。
 投票率の度重なる低下も、深刻な問題だ。選挙制度だけが原因ではないものの、以上のように選挙制度が悪すぎるため、「投票しても無駄だ」と思う有権者が増えている。選挙制度は投票率に関係ないと考えるのではなく、有権者の投票行為を促すような選挙制度はできないのか、改めて考える時期に来ている。

検討手法を用いた設計例の形で示す

 もっとも重要である1票の格差は、本当に是正できないのであろうか。選挙制度だけでなく、関連する制度まで含めて、1票の格差をできるだけ少なくすることはできないのであろうか。この点こそ、改めて検討し直す価値がある。
 実は、かなり容易に実現できるのだ。しかも、四捨五入に相当する1.5倍以内というようなレベルではなく、限りなくゼロに近づけられるのである。それだけではない。上に挙げた他の問題の多くも、一緒に解決できてしまう。
 選挙制度の検討は、今までマトモに実施されてきたいのであろうか。その心配があるため、このテーマはあえて、論理的な検討手法を用いた形で紹介する。検討の結論だけでなく途中経過も見れるので、どんな風に解決方法を求めていくのか、よく理解できるだろう。
 こうした検討過程まで公開しておくと、検討内容に賛成できないとき、どの部分がどのように悪いのか、より明確に反論できるようになる。これまでよりも、より論理的な議論を求めるプレッシャーとして働く。さらに、誰かが選挙制度を検討したとき、ここでの検討内容と比較することで、レベルの低い検討方法や検討結果を見付けやすくする。適切な検討を実現するための有効な資料として使えるはずだ。
 もう1つ、検討手法を用いた形で紹介するのは、選挙制度というテーマが、検討内容としては比較的容易だからである。容易な例を示すことで、検討手法の実例としても役立ち、より多くの人が別なテーマを検討する際に、サンプルとして利用できることも狙っている。
 検討手法としては、「頭の使い方を良くする思考のヒント」コーナーの「論理的な思考に役立つ道具たち」で紹介した手法を用いている。ここでの内容を深く理解するために、こちらも参照してほしい。

(2001年5月7日)


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