川村渇真の「知性の泉」

レビュー可能な形式の構成要素


報告書の形式を定めるだけでは不十分

 レビュー可能な形式を採用する最大の目的は、組織の運営内容を、可能な限り適切な方向へと導くことにある。レビュー可能な形式で報告する形だと、自分の好き勝手に決めることが非常に難しくなるため、いろいろな面で適切に行動する圧力がかかる。
 しかし、実際の組織運営を考えた場合、報告する形式を決めただけでは、期待した効果が得られない。報告書だけ上手に書くとか、規定を都合良く解釈するとか、何とか誤魔化すことができるからだ。そんな要素をできるだけ排除し、組織を適切に運営するためには、報告する形式以外に、決めなければならないルールがある。
 では、どのような条件を満たしたら、本来の目的である適切な運営が可能になるのだろうか。その代表的な要素を挙げたものが、以下の表だ。

レビュー可能な形式での報告の成功に必要な要素
・活動自体に直接関わる要素
  ・レビュー可能な形で、重要な作業の工程を規定する
  ・工程ごとに、必要な作成物の形式を規定する
  ・最終的な報告書の形式(資料も含む)を規定する
  ・報告書の公開方法(期間なども含む)を規定する
  ・対象となるものの評価方法を規定し、事前に公表する
  ・評価担当者の評価結果の評価方法も規定し、毎回実施する
・適切な運営をフォローする要素
  ・適切に運営されているか、たまに抜き打ちで検査する
  ・公開された報告内容に関し、問題点の受付組織を用意する
  ・適切な問題指摘方法を規定して、指摘者に守らせる
  ・指摘された問題点への回答方法を規定する
  ・不適切な行動への対処方法を規定する

 活動自体に直接関わる要素と、それが適切に運営されているかフォローする要素に分けてある。どれも大切な要素なので、続けて順番に解説しよう。

報告書だけでなく、重要な作業の工程と成果物も規定する

 活動内容をレビュー可能な形式で報告する目的は、活動自体を適切にすることにある。あまりにも好き勝手に活動したのでは、レビューできる報告など不可能になる。その意味で、その組織の中心的な作業に関しては、作業内容を規定して守ってもらうしかない。
 作業内容の規定では、全体を複数の工程に分割し、工程ごとに作成物を規定する方法が基本となる。分割する最大の目的は、作業が適切に行われているか、調べやすくすることにある。工程ごとに決まった作成物を作らせ、前後の工程と作成物を突き合わせ、論理的におかしな部分がないか検査する。このように整合性を調べる形だと、自分の好みで勝手に決めるような行為は、後で発見されるため、非常にやりにくくなる。
 ここで言う工程分割は、それほど難しくない。作業の適切さを検査するのが目的なので、節目となる作成物ごとに分ければよいだけだ。後でレビュー可能な作成物が残るように、途中での作成物を中心に置きながら工程を切り分ける。
 当然ながら、作成物単体でも必要ならば検査する。規定された形で作られているか、書かれている内容(つまり活動内容)が適切であるか、後で調べればよい。総合すると、作成物を単体でも検査できるし、工程間の作成物の整合性でも検査できるわけである。
 最終的な報告書では、各工程での作成物を資料として利用する。最後の工程の作成物が、作業全体での結論となる場合がほとんどなので、作業が終わった時点で結論は明らかになっている。後は、個々の作成物を見ながら、全体をまとめて解説するだけだ。すべての作成物を添付資料として付ければ、第三者によるレビューが可能な報告書に仕上がる。このような形で作るように、報告書の形式を規定すればよい。
 レビュー可能な報告書を作っても、世間に公表しなければ、レビュー可能にした意味はない。組織の適切な運営を確保するためには、報告書の公表方法も規定しておく。誰もが読める方法を選ぶとともに、公開する期間も相当長く設定する。

評価方法も規定し、常に改良し続ける

 以上は、作業全体の流れを中心に見たときの要素である。それ以外の重要な要素として、評価方法も取り上げなければならない。
 ここでの評価方法というのは、前述の作業内で用いる評価方法を指す。作業内容が公共事業の選択なら、採用する公共事業を選ぶための評価方法を規定する。必要度、費用、予想される評価、副作用の有無と大きさなどが含まれる。また、提出された企画書の内容が適切かどうか検査する点なども、必要に応じて加える。都合の良い数値ばかり並べている企画書を見付けて排除するのも、評価方法の大切な役割である。
 公共事業の候補を受け付けるような作業だと、事業企画書自体もレビュー可能な形式で書かれていないと、適切な評価は難しい。このような書類の書き方も必要なら規定し、適切な評価が実施できる環境に整える。
 評価方法で大切なのは、事前に公表することである。シドニー五輪での日本水連のように、選手の選考が終わってから評価方法を公表する方法だと、自分に都合の良い評価項目を自由に加えられるので、担当者が簡単に悪用できてしまう。そんな行為を許してはいけないし、できないようにするのが賢明な方法だ。
 評価方法を公表することで、評価方法に注文を付ける人も現れるだろう。それは非常に良いことで、評価方法を改善するきっかけになる。改善案は積極的に出してもらい、少しでも良くするように努力すべきだ。
 組織の活動内容によっては、評価担当者の能力によって評価結果が左右されることもある。代表的なのが研究費の配分で、どの応募者が高い研究成果を達成するのか、実際に研究した結果を見てみなければ分からない。そんな組織では、評価担当者の評価結果も評価するルールを規定する。この評価でも、評価方法および評価結果の公表方法を規定する必要がある。
 評価結果が悪い評価担当者に関しては、入れ替えなどのルールも決めておく。事前に決めて公表することで、後から文句が出るのを防げる。この種の評価は相対評価となることが多いので、評価結果が最低の担当者だけ入れ替える、といった方法を採用する。
 評価方法、結果の公表方法、担当者の入れ替えルールなどが規定されていることで、評価担当者は緊張感を持って行い、それが評価の質の向上につながる。

適切な運営を検査したり、改善意見を取りまとめる検査組織も必要

 以上のようなルールを決めても、適切に運営しない人がたまに現れる。そんな人を見付けて取り除くためにも、運営に関するルールを規定しなければならない。また、公開された報告書や評価方法を見て、問題点を指摘する人もいるだろう。それを取り上げ、調査したり改善に結びつける役割も必要だ。そのため、これらを実施する検査組織を用意し、その運営ルールも規定する。
 まずは、対象組織への抜き打ち検査だ。これも好き勝手に行うのは困るので、どんな点を検査すべきか、どんな結果なら悪いと判断するかの評価方法、評価結果の公表方法なども規定し、事前に公開する。検査組織側の活動も、好き勝手にはできないようにするわけだ。
 公開された情報に対する意見は、受付方法を規定して運営する。出される意見の中には、とんでもない内容が含まれる場合もあるため、まず意見の書き方を規定する。どの部分がどのように良いのか悪いのか、明確に意思表示できる形式にだ。加えて、出された意見および返答も、すべて公開する形で規定する。こうすると、とんでもない意見は出しにくくなるとともに、受け付ける側でも適切な対応を求められる。全体としては、かなり良い状態に落ち着くはずだ。
 抜き打ち検査や第三者からの指摘で、対象組織の不適切な行動が明らかになったとき、どのように改善すればよいかが問題になる。これも事前に規定しておけば、好き勝手な手心の加えや不当処分を防止できる。具体的には、考えられる不適切行為を洗い出し、それぞれの対処または処分方法を決める。それ以外の行為も考えられるため、一般的な対処方法も最後に規定しておく。これも事前に公表することで、検査組織の不適切行為が難しくなる。
 検査組織全体として、これ以外にも重要な情報を公開するようなルールにする。それも規定して公開すれば、検査組織にとって、適切に運営する圧力となる。
 何でも疑うなら、検査組織を対象とした検査組織など、何重にも組織を用意しての検査も考えられるが、そこまでする必要はないだろう。対象組織と検査組織の両方の各部で、レビュー可能な形式を採用した運営ルールを決めてあるので、そう簡単には不正ができないからだ。

ルールのひな形を作り、参照する形が現実的

 以上のような内容だと、実際に運営する場合、決めなければならない規定が多い。最初に作るのは、かなり大変なはずだ。
 個々の組織で個別に作るのは無駄なので、基本となるルールを最初に作成し、それをひな形として利用するのが現実的だろう。ひな形の使い方を説明した資料も用意することで、上手な改良方法も伝える。
 評価方法などは、評価対象によって内容が異なる。ひな形として用意するだけでなく、いくつかの実例を示して参考にしてもらう形のほうがよい。実例の説明では、どんな点を注意しながら設計したのかと、どんな条件を満たした組織に適するのかも記述する。こうして、適切な実例を選んだり、それを自分で改良する手助けとする。
 ひな形を利用する組織が増えれば、ひな形の改良点や、実例として示せる資料も増えるだろう。どんどんと利用してもらい、その結果を反映させながら改良すると、ひな形の質がだんだんと高まる。
 既存の組織に適用する場合は、ひな形を参考にしながら、段階的にルールを規定し、徐々に移行する方法が使える。最終的な完成時期を決め、それに向かって数段階で達成すると、一気に実施するより達成しやすい。

(2000年8月29日)


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