川村渇真の「知性の泉」

ずるい行為の可能な余地を限界まで減らす


サジ加減の余地を大きく残す仕組み

 日本の行政が担当する許認可では、とんでもなく多量の書類を作らせたり、認可の合否が決まるまで長い時間がかかったり、拒否されたときに理由が示されなかったり、申請する側から見ると到底納得できない状況が数多く見受けられる。こうした状況が改善されず、延々と続くのはなぜなのだろうか。
 許認可する側は絶対に肯定しないだろうが、そうした側にとって得する、次のような理由がある。自分たちの思いどおりできる余地、つまりサジ加減の余地を大きく残しておくためだ。具体的には、以下のような行為に利用できる。
 まず、基本的な状況作りとして、通常時の許認可作業を面倒にしておく。作成する書類が多いとか、合否の判定まで時間がかかるとか、いろいろな点を複合して面倒くささを向上させる。そうすると、認可を受ける側の人は、何とかして速く処理してほしいと願う。当然ながら、依頼する側の態度は極端なほど丁寧になる。その中には、裏から手を回して、接待などをしてくれる人も現れるだろう。全体的には、許認可を与える側にとって美味しい仕組みに仕上げられる。
 もう1つ、気に入らない相手を邪魔する目的にも使える。もっとも単純なのは、そうした相手にだけ許可を与えない方法だ。それだと露骨すぎる場合は、合否の判定を出すまでに極端に長い時間をかけたりする。意地悪するのが一番の目的なので、いろいろな形で認可しないように努力する。
 サジ加減の余地を大きく確保しようとするほど、適切な行為から外れるため、多くの人から批判されやすい。そうした意見の多くは正しいので、反論するのが難しい。そこで、厳しい批判が出にくいように仕組みを作っておく。具体的には、合否の判定理由を絶対に公開しない。また、合否の判定基準も公開しないし、判定作業は完全な密室で行う。こうして多くの要素を非公開にすることで、相手に情報を与えず、厳しく批判されるのを防ぐ。サジ加減の余地が大きな仕組みの多くが、判定理由や判定基準などをまったく公開しないのは、こうした理由なのである。
 もちろん、以上のような行為を常にしているわけではない。しかし、こういった余地を大きく残しておくのが、基本的な目的になっているため、一向に直そうとしない。それどころか、裏側で必死に維持しようとしている。
 該当する仕組みはいくつもあるが、代表的なものは外国人による日本国籍の取得だ。有名人だと2年ぐらいで取得できるが、そうでない人だと10年かかったりする。このような極端な差は、マトモに仕事をしていれば生じるはずがない。もし書類の不備があったら、その箇所を親切に教えてあげてれば、すぐに直せるからだ。上記のような別な意図があるからこそ、極端な差となって現れてしまう。

サジ加減の余地を減らすと良い仕組みに変わる

 サジ加減の余地を大きく残しているほど、相当に悪い仕組みといえる。今の世の中は、公正、公平、情報公開などを求めているが、それとは正反対の内容だからだ。悪い点を洗い出しながら、どのように直せばよいのかを整理してみよう。
 最初の公正というのは、適切な判断基準で処理することを意味する。自分の好き勝手で判定を変えられるなら、公正とは呼べない。公正さを確保するためには、判定基準を明確に決めておき、それに従って判定させることが基本となる。それが実現できるように、判定基準を事前に公開しておき、判定結果の理由まで相手に伝える必要がある。
 2番目の公平というのは、誰に対してでも同じように対処することだ。相手によって判定基準が変わったり、判定にかかる時間が違ったのでは、とても公平とはいえない。判定基準を事前に公開する以外に、判定にかけてよい最大時間も規定して公開する。非常に特殊な理由がない限り、この最大時間を守るようなルールにする。
 最後の情報公開は、公正や公平を実現するための有効な方法である。前述のように、判定基準や判定最大時間に加え、判定結果と理由も相手に伝えることで実現する。不正だけでなく判定ミスまで調べられるように、判定に参加した担当者の名前も公開すべきだ。
 以上のように整理すると、サジ加減の余地を残す仕組みが、いかに悪いのか見えてくる。完全に時代遅れであり、先進国としては非常に恥ずかしい。早急に改善しなければならない。

実際に運用できるレベルの改善点

 実際に使えるレベルで改良するためには、もう少し考慮すべき点がある。不正行為を発見しやすくとか、行為の良し悪しを判断できやすくする工夫だ。それらを含めると、改良点は以下の項目になる。

サジ加減の余地を限界まで減らすための改良点
・規定すべき内容
  ・合否の基準を、詳細にかつ明確に規定する
    ・個人的な解釈で判定が変わらないように作る
    ・個々の判定基準ごとに、その理由も明示する
    ・判定基準にない理由では拒否できない
     (必要なら、判定基準を変えるのが当たり前)
  ・判定基準の変更方法を規定し、議論の過程も公開する
  ・作成書類の形式を明確に規定する
  ・合否判定などの返答形式も規定する
    ・拒否した場合、その理由を明確に記述する
    ・理由の中で、該当する基準を参照する
  ・書類不備や合否判定の返答最長期間を規定する
    ・不備の種類ごとに、最長期間を規定する
    ・書類の不備などは、かなり短い期間で返答する
    ・非常に特殊な理由でのみ、期間を示して延長可能
    ・期間延長の決定方法も規定する
  ・申請者のウソ記述などに対する罰則を規定する
  ・担当者の不適切行為に対する罰則を規定する
  ・以上の内容を事前に公表する
・適切に運用するためのルール
  ・受け付け番号を発行し、主な担当者も決める
  ・検査役の担当者も付け、勝手な判定を防止する
  ・受け付けたとき、回答期限を明示した受け付け票を渡す
  ・期間延長などでも、理由を記述した書類を渡す
・問題が発生したときのフォロー
  ・異議申し立ての受け付け組織を用意する
  ・対象となる組織とは、完全に独立した組織にする
  ・異議の内容を評価して、必要なら処理の改善を求める
  ・判定結果は、決められた書式で提出する
  ・すべての異議判定に、複数人が参加する
  ・異議の内容を、管理者と担当者の評価に用いる
  ・こちらの運営ルールも規定して公表する(内容省略)
・その他の工夫
  ・改善などの要望を常に受け付ける
  ・受け付けた要望の評価結果を公表する

 全部の詳細を説明すると大変なので、いくつかの点だけ補足しよう。異議を受け付ける組織だが、いろいろな仕組みごとに用意するのではなく、共通の組織を1つだけ用意するほうが、費用を軽減できて現実的だろう。異議を判定するのに必要な専門家も、非常勤で何人か用意すればよい。異議の判定でも担当者を決め、判定結果を公表することで、正しく判定する圧力として利用する。
 すべての判定基準に理由を付けるのは、後々の改善を考慮してのことだ。社会の状況が変わると、基準として意味がなかったり、適切な判定を邪魔したりする。判定基準の存在理由を書いておけば、必要がなくなったとき人々が気付きやすく、より素早い改善につながる。また、理由を明確にすることで、不適切な判定基準が盛り込まれるのも防げる。判定基準を広く公開するのだから、変な基準は入れにくくなるはずだ。
 不正な行為として、受け付けを拒否することもあり得る。他に、書類の修正すべき個所をまとめて指摘せず、何度も直させて時間を引き延ばす行為もある。これらは悪質な行為なので、素早い解雇といった厳しい罰則を定めておく。こうした考えられる不正行為を網羅し、事前に罰則を規定する方法は、不正防止に大きな効果がある。

公正かつ公平だけでなく、作業効率も向上

 以上のような改良を実施すると、公正さや公平さが格段に向上する。人によって合否判定までの時間が極端に違うといった、既存のダメ行為が極めてやりづらくなる。
 そればかりではない。申請する側と判定する側の両方で、作業の効率が大きく向上する。申請する側は、判定基準を満たしているかどうか事前に判断できるため、無駄な申請をしなくて済む。もし申請する場合でも、提出すべき書類と形式が決まっているため、それに合わせて作ればよいだけだ。合否の判定も短期間で出るし、訳が分からず再申請する無駄も生じない。
 判定する側でも、判定基準が明確に決まっているため、余計に悩む必要はない。必要な書類が揃っているか、記述の形式が適切か、書いてある内容が本当かなど、順番に調べていけばよい。事実を調べる以外の作業は、かなり短時間で終わるはずだ。全体としては、今よりも相当効率的に判定できる。
 判定基準の作り方だが、できるだけ外部の仕組みを利用する。たとえば、日本語が喋れるかどうかの判定なら、適切な検定試験のレベルを選び、それの合格を判定基準にする。こうすると、判定の作業が容易になるだけでなく、勝手な解釈も難しくできる。担当者が調べる内容であっても、調べやすい形で記述形式を決めると、余計な作業を減らせる。たいていのことは、工夫しだいで改良できるものだ。

 こうした改良の対象は、行政の仕組みだけではない。オリンピック選手の選考方法でもめた日本水連のような、スポーツ関連組織も対象となる。ここで説明した点を改良すれば、一番文句の出ないルールが作れる。その場合、もっとも重要なのは判定基準の良し悪しになるので、それを常に改良し続ければよい。

(2000年12月16日)


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