川村渇真の「知性の泉」

より良い仕組みやルールの条件を最初に求める


仕組みやルールを改善できない現状は困りもの

 いろいろな法律、省庁の構成や役割、地域の分割、選挙制度、役所の役目など、現在の社会における仕組みやルールは、きちんとした分析や設計をして作られたものではない。過去からの惰性で続いていたり、特定の人にとって都合の良い形に裏のほうで決めているものばかりだ。新しく作られる仕組みやルールも同じで、マトモな分析や設計をしていない。
 世の中の変化は、昔に比べて大きくなっている。変化の大きさは、時間の経過とともに増加するので、古い仕組みやルールが陳腐化する速度も早まっている。以前から続いている仕組みやルールは、時間とともに現実に合わなくなっていく。それを修正しないままだと、ダメな度合いが増え続け、どんどんと悪くなるばかりだ。
 仕組みやルールを変更したり新しく作る場合にも、その方法に問題がある。どうやって選ばれたか分からない人が、密室に集まって検討しながら案を作り、最後にはほぼその内容で決まってしまう。役所や関係業界の既得権が尊重されすぎて、国民の幸福からほど遠い内容になりがちだ。決められた内容を見る限り、既得権を持つ人にとって都合の良いように決めているケースが多い。
 こんなやり方ばかりなので、社会の仕組みやルールは、ほとんど改善されない。変わらないままだと、変化する現状とのギャップが増すため、全体的に見れば悪くなっているといえる。こんな風なので、国民のイライラも時間の経過とともに増加する。非常に困った状況だ。

仕組みやルールもきちんと設計すべき

 このような状態になっているのは、仕組みやルールの作り方に根本的な原因がある。誰かが密室で決めるような方法を改め、きちんとした分析を経て、マトモに設計すべきだ。コンピュータのシステムを設計するときと同じように、論理的で科学的な手法で設計しなければならない。
 社会の仕組みやルールを設計するので、それに適した設計手法を確立する必要がある。組織や人間の特性を理解し、長所を生かしながら短所を補う方法を見付け出す。その際には、我々の過去の経験が大いに役立つ。世界全体を見たとき、いろいろな国や企業が様々な形式の組織を運営してきた。失敗した例も成功した例も数多くあり、両方とも参考になる。マネジメントに関しては、ビジネス上のノウハウとして体系化され、いくつかの方法が生き残っている。このような貴重な財産を活用しない手はない。
 設計手法として確立するので、現在のシステム設計手法と似た特徴を持つ。最初の工程では、組織やルールの目的を規定する。続く工程では、その目的を満たすような条件を見付ける。このように論理的に分析を進め、最後には仕組みやルールを導き出す。設計手法なので、設計した内容が最初の目的に合っているのか検査する工程も含める。検査することで設計ミスを発見でき、設計内容の質を高められるからだ。
 設計手法の中には、設計した内容を評価するための基準も含まれる。複数の候補の中から、どれが良いかを判断するときに用いるためだ。その評価基準は、既存の仕組みやルールにも適用できる。つまり、現在の仕組みやルールがどの程度のレベルなのか、複数の数値で表すことが可能になる。もちろん、これから採用しようとするものに関しても、そのレベルを評価できる。こうした行為は、社会に大きなインパクトを与えるだろう。現在のように、悪い仕組みやルールを好き勝手に採用できなくなるからだ。その結果、より良い社会へと向かう可能性を高める。

仕組みやルールが満たすべき条件を最初に洗い出す

 確立した設計手法を用いる場合と、現在の作り方を比べると面白い。その業界の専門家が集まってはいるが、知っているのは業界の知識だけで、仕組みやルールの作り方に関しては素人なのだ。つまり、現在の作り方は、必要な知識の半分に関しては何も知らない素人がやっているのに等しい。この点を、きちんと理解しなければならない。
 仕組みやルールの設計手法を確立した段階では、仕組みやルールを設計する専門家が、対象となる業界の専門家と一緒に作ることになる。異なる専門家が協力するのは、設計内容の質を高める効果も生む。
 仕組みやルールの設計手法といっても、全体の工程はシステム設計手法と似ている。大きく異なるのは、分析や設計の際に考慮すべき条件である。仕組みやルールを良い内容に仕上げるのには、どんな条件を満たしたらよいのか、きちんと規定しなければならない。そこが一番重要であり、仕組みやルールを良くするための中心部分だ。
 設計手法の工程などに関しては、現在のシステム設計手法が利用できる。そうなると、あと必要なのは、良い仕組みやルールが満たすべき条件だ。これを求める作業では、前述のように、我々の過去の歴史が大いに役立つ。といっても、かなり昔ではなく、ここ50年ぐらいが中心となるだろう。というわけで、最初の作業は、良い仕組みやルールが満たすべき条件を求めることだ。

(1998年11月21日)


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