川村渇真の「知性の泉」

浮遊思考記録−2004年08月


●2004年08月31日

流行中の犯罪を上手に防げる社会に

 いつの世でも犯罪はなくならず、運悪く損する人が後を絶たない。最近で有名なのは、オレオレ詐欺だろう。また、盗んだ通帳を使って、銀行で簡単に預金が下ろせたりもしている。この種の事件が報道されても、被害に遭う人がなかなか減らない。社会として、有効な防止手段を実行できないものだろうか。事件の報道を聞く度に、社会の幼稚さを感じてしまう。
 もっとも不思議なのは、テレビや新聞で報道された後も、被害が出続ける点だ。社会として有効な対策が打てないでいるために、被害が広がっていると見なせる。かなり情けない社会といえるだろう。

 では、有効な対策が打てないのだろうか。そんなことはない。たとえば、盗んだ通帳で預金が簡単に下ろせる問題では、銀行による本人検査を強めるだけでも、かなり効果がある。本人確認をより慎重に行なう以外にも、防ぐ方法は考えられる。代理で引き出すとか、一定以上の金額を引き出す際には、引き出す人の写真撮影を求めるとかだ。プライバシーの問題もあるが、犯罪防止という効果を期待できる以上、犯人でない人も少しは我慢するしかないだろう。もちろん、写真の利用範囲や保管期限や廃棄方法なども明確に決めて、プライバシーの面で悪影響が出ないように配慮する。写真を撮る際には、なぜ撮るのかを説明する。それにより、たまたま頼まれて引き出しに来ただけの人が、犯罪者に利用されることも減る。こうした方法を組み合わせると、全体としては、第三者が預金を勝手に引き出すことがかなり難しくなるだろう。
 オレオレ詐欺の方は、防止が難しい。それでも、何か対策は打てる。渡すお金は、銀行で引き出したり、銀行から振り込んだりする。オレオレ詐欺について知らせる機会を、銀行の場所で用意する方法はどうだろう。また、オレオレ詐欺だろうと知らせても振り込む人もいるので、オレオレ詐欺の手口を説明したビデオを用意して、振り込む前に見てもらう方法も考えられる。また、詐欺だと知らせても振り込んだ場合に限り、引き出す相手を追跡できる仕組みを用意するというのも可能だろう。頭を働かせると、いろいろなアイデアが出てくるものだ。
 被害を少しでも減らすためには、2つの視点が必要となる。1つ目は、こうした犯罪の防止方法を素早く実施すること。2つ目は、こうした犯罪の存在を少しでも早目に知ること。より早く知ることで、対策の実施時期を早められる。今の世の中はインターネットがあるので、早目に知ることは容易になっている。犯罪の情報を知らせてもらうサイトを政府が用意して、情報を集めればよい。同じ犯罪の数が多いほど、流行り始めている犯罪だと分かるはずだ。

 こうして考えていくと、有効な防止策が打てないのは、そのように行動してないからだと分かってくる。国民の安全や財産を守ることに、政治家や官僚は関心がないのであろう。業界の利益を守ることには、とても熱心なのに。国民に良くしても、接待は受けられないし、天下り先を提供してもらえないし、政治献金ももらえないのだから、仕方のないことかも知れないが。非常に困った状況だ。
 こうした状況へ陥ったのには、マスメディアの情けなさにも原因がある。犯罪を知らせる報道ばかりで、それを防止するために社会として何が出来るのかを考えていない。被害者を少しでも減らすために、どのような方法が考えられるのか、その方法はどの省庁や業界が実行すべきなのかを明らかにして、視聴者に知らせなければならない。さらには、素早く実施するように圧力をかける役目も、マスメディアは持っている。
 政治家、官僚、マスメディアなどが有効に機能しないほど、犯罪者にとって美味しい社会となる。同時に、被害にあって不幸になる人が増える社会にもなる。

 与党議員や官僚には期待できないので、野党議員に頑張ってもらうのが、成功の可能性が一番高そうだ。たとえば、民主党。自民党と差別化するための方法として、積極的に動いてみてはどうだろうか。次のような方法で。
 まず最初に、委員会のような簡単な組織を作る。組織の目的は、国民の幸福を邪魔する重要問題を常に探し出し、それへの有効な対策を素早く策定してから、関連する省庁や業界へ実施を迫ること。本当に実施されるまで、強く圧力をかけ続ける。
 重要問題を集めるために、情報提供の窓口をインターネット上に設ける。大変なら、電話による窓口を設けなくても構わない。ファクスぐらいは用意した方がよいだろうが。また、消費者センターなどからも情報をもらう。こうして集めた情報を整理し、被害の件数や金額などを総合して、重要度の高い問題を選び出す。
 選んだ問題ごとに、委員会が責任を持って、対策案を作成する小委員会を作る。個々の小委員会では、本当に有効な対策を設計できる、優秀な人材を集めることが極めて重要だ。また、解決案の中身では、最終的な対策案の説明だけでなく、検討した範囲や過程まで入れる。そうすることで、対策案の根拠や有効性が明らかになるし、第三者によるレビューが可能にもなる。
 対策案は、関連する省庁や業界に伝えるだけでなく、マスメディアに発表し、インターネットでも公表する。被害を少しでも減らすためには、素早い実施が欠かせない。実施案の進捗も含めて、インターネット上で公開する。進捗が把握しやすいように、実施案を複数の工程に分け、工程ごとに期日を設定する。作業期間の長い工程は複数に分割し、進捗状況を把握しやすくする。もちろん、工程内の作業は、関連する省庁や業界ごとに分けて、どれが遅れているのか分かりやすくしておく。また、担当する作業ごとに、担当する部署や組織を明らかにすれば、実施への圧力となりやすい。
 遅れた場合は、納得できる理由を求める。取って付けた理由を述べたり、理由を明らかにしない相手に対しては、理由とその評価まで含めて、インターネットで公表するとよい。こうした活動は、実施への強い圧力となって、実施を早める効果が得られ、最終的に被害者を減らす。

 国民にとって身近な犯罪や問題を常に解決しようとする試みは、多くの国民から歓迎されるはずだ。それは、民主党が目指している方向とかなり一致するとともに、自民党と一番異なる部分だと思うのだが。
 おそらく、民主党が本腰を入れて動き出すと、自民党も黙ってはいないだろう。似たような仕組みを作って、そのまま真似する可能性がある。だとしても、犯罪への対策が早目に実施されることは良いことだ。誰が行なっても、良い社会へ近付くことであれば歓迎したい。

 科学が進歩し、教育水準も昔より高まっているというのに、こうした問題に対して有効に対策を打てない社会というのは、どのように評価すればよいのだろうか。科学は進歩したが、社会が本当に進歩しているのだろうか。
 残念ながら、大事な部分ではほとんど進歩してない。何度も繰り返すようだが、大きな原因は教育にある。現状では、高等教育機関でさえ知識しか教えてないため、こうした状況になるのは仕方がない。今後は、教育内容、とくに高等教育機関の教育内容を、知的能力が高まるものに変更する必要がある。


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