川村渇真の「知性の泉」

浮遊思考記録−2004年07月


●2004年07月31日

作文のコツはシステム設計から得た

 今まで何度か、作文のコツを尋ねられたことがある。その際には、作文のコツが習得できた理由を、できるだけ説明するようにしている。他の人のことはよく知らないが、私の場合は、システム設計から大きなヒントを得た。その内容を簡単に紹介しよう。

 作文の能力を本当に身に付けたいと思ったのは、お金をもらって原稿を書く機会が生じたときだ。最初の原稿は、あるショップの会員誌に載せる評価記事だった。ショップの会員誌とはいえ、編集しているのは月刊誌の編集を経験した人で、プロの編集者だった。そのため、鋭い指摘がビシバシと飛んでくる。
 最初に書いた原稿は、詳しくは覚えていないものの、相当にひどかった。あまりにもひどいので、全面的に書き直させられた。それでもダメで、再び前面書き直しをされられた。同じ内容を3度も書いたのである。3度目の原稿で、大枠だけは整った。それから細かな内容を何度も直され、本当の苦労して本番の原稿が仕上がった。
 こうした経験をしたにもかかわらず、次の原稿でも相当に苦労した。全体の書き直しこそなかったが、ある部分に説明を追加したり、もっと分かりやすい説明に直したり、いろいろな面で修正を求められた。
 このようになったのは、その編集者が真剣に仕事をしていたからである。少しでも良い会員誌を作りたいと思い、妥協しないで原稿を作り上げようとしていた。報酬をもらう最初の執筆が、こんな編集者と一緒だったのだから、今考えると相当に幸運だったのだろう。

 書き直しが繰り返されたことで、作文に関して、何か大事な点に気付いてないのだと思うようになった。追加や修正の少ない原稿を、どうすれば最初から書けるのか、真剣に考えてみた。自分で考えるだけでは解決できそうもないので、その編集者と飲みながら、何度か検討を続けた。その編集者が、私と同じ飲んべえだった点も、幸運であった。
 いろいろと検討しているうちに、システム設計の視点を、作文に持ち込んだら解決するのではと思うようになった。システムの場合、構築する目的があり、利用者、期待される効果なども含めて検討する。
 考えてみると、作文も同じだった。原稿には目的があり、想定される読者、期待される効果なども含めて検討しなければならない。それらが明らかになった後、それに沿って含めるべき要素や構成が決まる。原稿には、製品レビュー、使いこなしの解説、コラムなどがあり、それぞれ目的や想定読者が異なる。
 システム設計の視点が一番役立ったのは、原稿の要素や構成を考えるときだ。目的を達成するために、どのような要素が必要で、それらをどの順序に並べたら理解しやすいのか、まさにシステム設計と同じように考える。そうすると、最適な要素と構成が導き出される。
 こうした視点に気付いてからは、原稿を書く際に迷うことがほとんどなくなった。迷うのは、原稿を書く前の材料集めのときぐらいだ。材料さえ集まってしまえば、たいていはスムーズに原稿を書き終わる。そうならないのは、書きながら疑問点や問題点が発覚したときだけだ。

 システム設計の視点を取り入れて、作文の能力を向上させると、原稿以外の面でも目に見える効果が得られる。文章を書く必要性は、企画書、設計書、メール、電子会議室での発言、宴会や撮影会などの案内、個人サイトの内容など、いろいろなところにある。これらの全部で、作文の能力が生かせる。
 文章を書くのが上手になると、企画書、設計書、メール、会議室での発言などが、分かりやすく書けるようになる。それぞれの目的に応じて、対象読書者を定め、必要な要素を求め、その並び順まで考える。それぞれの目的に適する形で、要素や構成を求めるわけだ。
 一度考えた要素と構成順序は、同じパターンを持つ内容なら、そのまま利用できる。そのため、要素や構成順序を考える必要性は段々と減り、蓄積した資産を利用して書けるようになる。そうなると、書くのも早くなってくる。

 以上のような視点を持ちながら、今まで数多くの原稿や企画書を書いてきた。おかげで、文章を書くのが相当に早くなった。この“文章を書く早さ”というのは非常に重要で、無駄な時間を費やさない効果が得られる。
 書く早さを最大限に高めるのには、1つの大きなポイントがある。それは、考えながら書くことだ。書きながら考えると表現した方が良いかも知れない。とにかく、考えながら書き進むことで、書く時間を考える時間の中に埋め込み、余計な時間を生じなくする。
 書くのが早くなると、書く内容を考えている時間の方が長くなる。考えている間は手を使っていないので、その間に各作業を行なうというわけだ。書くことで考えている内容も整理できるし、考えながら原稿も出来上っていく。もっとも効率的な方法であろう。

 前述のように、書く対象は幅広い。これら全部に対して、考えながら書く方法を適用すると、作業効率が一気に高まる。無駄な時間を生じさせないことで、考えるのに多くの時間を割り当てられる。
 もちろん、常に成功するとは限らない。誰でも使える時間は限られていて、重要度の低い作業には多くの時間を割り当てられない。時間をかけられないために、期待したレベルに達しないこともあるだろう。だとしても、こうした方法を利用しない場合に比べれば、効率よく作業できているはずだ。使える時間が限られているのだから、重要度の低い作業は割り切って、そこそこのレベルで終わらせた方がよい。

 当サイトを読んでいる人の中には、システム設計を仕事としている人も多いだろう。該当する人は、企画書や設計書を書く機会も多いと思われる。もし作文に苦労しているなら、今回の内容が大きなヒントとなるのではないだろうか。
 システム設計の視点を作文に使ってみたら、作文能力の向上に道が開けるはずだ。ある程度練習すれば、苦労せずに文章が書けるようになるだろう。そうなったら、作文の経験を積み上げ、書く速度を少しずつ増していけばよい。


下の飾り