川村渇真の「知性の泉」

浮遊思考記録−2003年9月


●2003年9月22日

悪質コンテンツの影響を調べる際の考慮点

 かなり以前から取り上げられる課題の1つに、「悪質なコンテンツ(ゲーム、映画、テレビ番組、ウェブページなど)が子供達に与える影響」がある。かなり影響があると主張する人から、あり得ないと主張する人までいる。
 この課題に関して研究している人がいて、そのドキュメンタリー番組を以前にテレビで見た。明確には覚えていないが、影響があるという結論のようだった。ただし、そう結論付けた根拠が不明確だと感じ、何となく納得できなかった点だけは覚えている。
 最近では日本でも、小中学生による殺害事件が起こるようになった。そんな事件を耳にする度に、悪質コンテンツの影響が思い浮かぶ。影響の判断をする際に一番大事なのは、その調べ方であろう。自分でも考えたことはあるが、かなり難しいと思う。有効な調査方法は思い付かなかったが、考慮すべき点だけは1つ思い付いた。意外に大事な点だと思うので、ここで紹介しよう(該当分野の研究成果を調べられなかったので、当たり前と認識されているかも知れないが)。

 着目したのは、影響を受けて犯罪に達する率である。中学生による殺人が起こったといっても、何十人とか何百人も出てきたわけではない。単純に人数だけ見ると、1桁でしかない。つまり、中学生全体から見た比率としては、極めて少ない値なのだ。この比率こそが、調べる方法を求める際に極めて重要ではないかと思う。
 おおよその比率を求めるために計算してみよう。現在の中学生の人数は、2002年度で約386万人だという。桁数だけで考えると、数百万人に数人なので、百万分の1という比率になる。中学校には3年間通うので3倍すべきだが、高校や小学校分も考慮し、計算しやすいように10年分を合計しても、10万分の1にしかならない。すごく少ない比率だ。
 もちろん、殺人に至らなかった犯罪もあるので、影響を受けて罪を犯した人数は、殺人犯の人数よりは何倍も多い。多めに数えて、100倍としよう。それでも1000分の1でしかない。
 こうした比率が正しいのであれば、1000人の生徒で影響を調べたとしても、その中に1人しかいないことになる。そして、その1人が誰なのか、発見するのは難しいだろう。

 大事なのは、比率の数値ではない。このように比率が低い対象を調べる際、無作為に選んだ人を単に調べているだけでは、有効な調査にならないのではないかという疑問である。何しろ、ほとんどの人は、犯罪に達するほどの影響を受けないのだから。
 おそらく、普通の人よりも影響を受けやすい条件(たとえば、前頭葉の発達が遅れているとか)があって、その条件を満たした人が強く影響を受け、犯罪に達するのではないだろうか。この仮説が正しいとすれば、普通の人への影響をいくら調べても、期待した研究成果を得るのは非常に難しい。
 それよりも、犯罪を犯した人に共通する特徴を先に調べた方がよい。それと同じ特徴を持つ人を調査対象に選び、影響があるか調べた方が、もっと効率的かつ明確に研究が進むのではないだろうか。もちろん、共通する特徴を調べるのが簡単ではないかもしれない。それでも、特徴を追求した方が、普通の人への影響を調べるよりは、研究成果が先に得られると思う。

 この種の研究は、有効な成果を得るのは非常に難しいものの、その成果は世の中にとって大きな価値がある。それだけに、関係者の皆さんには頑張ってほしい。もっと住みやすい世の中を実現するためにも。


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