川村渇真の「知性の泉」

浮遊思考記録−2003年3月


●2003年3月20日

主な内容を短期間で習得できる資料が少ない

 私の専門であるソフトウェア業界では、他の業界に比べると、技術の移り変わりや追加が非常に激しい。新しい技術が次々と登場し、技術者は追いまくられる感じになっている。勉強するのに苦労している人がほとんどだと思う。
 過去の代表的な技術を習得していれば、新しい技術も効率よく習得できるはずだ。しかし、実際にはそう簡単にはいかない。困ったことに、対象技術の主な内容(概要ではなく、実際に使えるようになるための中心的な内容)を上手に説明した資料が、ほとんどないからだ。
 仕方がないので、初心者向け資料やリファレンスを斜め読みしながら、主な内容を読み取っていく。こんな方法だと、習得するのに余計な時間を費やす。過去の経験から導き出した個人的な感覚だが、良い資料が用意されてる場合に比べて2倍から5倍の時間がかかる。つまり、良い資料が揃っていれば、同じ時間で2倍から5倍の技術を身に付けられるわけだ。

 では、どのような資料を用意すればよいのだろうか。この点こそ重要なので、あらためて整理してみた。含めるべき主な要素は、次のとおりだ。

短期間で習得するための資料に必要な要素
・外部仕様と設計意図
  ・主な機能:含まれる代表的な機能とその特徴
  ・守備範囲:機能や役割がどこまでカバーしているのか
  ・設計意図:どんな点を重視して設計したのか
・内部仕様
  ・内部構造:含まれる主な要素とその構成
  ・要素特徴:主な要素の特徴
・操作方法(利用方法)
  ・基本操作:基本機能を使う際の具体的な操作方法
  ・重要操作:重要な機能を使う際の具体的な操作方法
  ・調査方法:それ以外の操作方法の調べ方
・上手な使い方
  ・要注意点:使用する際の代表的な注意点
  ・活用視点:上手に活用するための視点やコツなど
  ・設計実例:注意点やコツを利用した設計例(利用例)
  ・実値資料:実際に使って得た主な実データ
(通常は、この順に並べて解説すると理解しやすい)

 まず最初に、外部仕様と設計意図を説明する。外部仕様では、どんな機能があり、どの範囲までカバーしているのかを明らかにする。その際には、対象となる内容のより広い全体像を示し、カバーしている範囲を明確に示す。カバーしていない範囲も明らかにし、その部分で何を一緒に用いるかも説明する。これらと設計意図を示せば、対象内容の位置付けが理解しやすい。
 続けて、内部仕様を紹介する。含まれる主な要素とその構成を示すことで、内部の構造を明らかにする。その後、主な要素ごとの特徴も解説する。構造が分かっていれば、具体的な操作方法や利用方法も適切に理解できるからだ。先に基本操作を簡単に示し、続けて重要な操作を取り上げる。その他の操作方法に関しては、調べ方を説明すればよい。
 ここまでで、ひととおりの使い方と構造を紹介できるはずだ。最後に、上手な使い方に役立つ解説を加える。代表的な注意点では、設定や設計でミスしやすい点を示す。活用の視点やコツでは、上手に設計するための手順やポイントを取り上げる。できれば、それらを使った設計例も付けた方がよい。また、性能設計などに役立つ実測データもあるとかなり重宝するので、できる限り用意したい。
 以上が、短期間で習得するための資料に必要な要素である。外部仕様と設計意図から始まり、段々と内部の説明に入って、実際の操作方法や利用方法へと移る。この流れなら、途中で他の要素を調べずに習得が進められるはずだ。

 当然のことだが、書き方も重要となる。基本的な他の技術については理解しているという前提で書き、細かな説明は省略する。そうしないと、余計な説明が増えて、本題の内容がぼけてしまうからだ。
 加えて、できる限り体系的に解説することも重要。操作方法の説明なら、操作方法としてどのような種類があり、それぞれの特徴も示す。その中から一番良いものや基本的なものを選んで、具体的な操作方法の説明に移る。どんな要素の解説でも、全体像と要素の位置付けを正しく理解できる形にする。
 さらに、体系的な全体像の説明を少しでも理解しやすいように、体系、構造、全体像などの表現方法も工夫する。全体像を図で表したり、階層的な箇条書きを積極的に利用して。このような工夫は、理解に必要な時間を大きく減らす効果がある。また、時間が経ってから見たときに、前に読んだ内容を思い出す効果も大きい。

 上記の「資料に必要な要素」を、もう1段上の視点から眺めてみよう。挙げた事柄と順序は、どのような内容をどんな順に説明したら、もっとも効率的に理解できるかを検討した結果である。汎用的な内容として作ったため、どんな説明対象にでも当てはまるとは限らない。
 説明対象の特徴によっては、もっと別な事柄や順序が適する場合もあるだろう。大事なのは、説明対象ごとに最適な事柄と順序を考えることだ。そうすれば、より適した説明内容が作れる。


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