川村渇真の「知性の泉」

浮遊思考記録−2003年1月


●2003年1月14日

主要な領域で現状を問い直してみる

 以前に購入して放っておいた「ウォー・フォー・タレント」という本を読み始めた。マネジメント人材の強化と育成という、非常に面白い内容を紹介している。多くの企業にとって、極めて重要な内容だろう。
 取り上げたいのは、この本で述べられている内容ではない。この本が提供する効果を1段上(より正確にはメタ)から捉え、他の領域にも通用する本質的な視点として考え直してみた。

 この本の中に「企業は人材育成競争に気付いていないわけではない。〜(中略)〜。しかし、それを実現するために、具体的な手を打っている企業は少ない」とある。つまり、重要性は気付いているのに、今までと同じ方法を繰り返しているというわけだ。
 本で取り上げているのは企業内の人材だが、それ以外の領域にも目を向けてみたらどうだろうか。たとえば、顧客、商品、取引先、世間の人々の目などだ。これらを、マネジメント人材の強化と同じ考え方で問い直してみる。重要な顧客を大事にすると日頃から言ってるが、本当に大事にしているのだろうか。今やっている方法で、顧客を大事にしていると本当に言えるのだろうかと。取引先であれば、重要な取引先を大事にすると言ってるが、本当に出来ているのだろうかと。
 こういった問いかけに対する良い回答を得るのは、そう簡単ではない。時間もかかるだろう。だからこそ、本当に重要な領域を厳選し、集中して考える必要がある。また、どんな方法なら成果を生むのか、実現が可能かどうかなど、実施して効果が高い点を重視しなければならない。
 たとえば、重要な取引先を重視するなら、どんな方法が可能か検討する。現在は手形で支払っているが、中小企業だと現金払いに変更したら喜ぶだろうか。現金払いが無理なら、手形の期間を大幅に短くできないか。経営面や技術面での助言を喜ぶだろうか。制限を設けずに考えれば、様々なアイデアが出てくるだろう。その中から、重要な取引先が一番喜ぶ方法を選ぶ。また、複数の選択枝を用意して、取引先ごとに選ばせるアイデアもありだ。
 こうした領域の検討では、取引先の重要度を判定する方法も必要である。これも大事なテーマで、どんな取引先なら重要なのか考えるきっかけとなる。その意味でも、判定方法を求めるような作業は、率先してやるべきだ。
 多くの人は、この種の課題だと、暗黙の制限を設けてしまいやすい。そのために思い付くアイデアが貧弱になって、選択枝を大幅に狭める。結果として、魅力的な選択枝を提供できない。それを打ち破り、「ウォー・フォー・タレント」の内容のように、かなり突っ込んだ内容に仕上げることが大切だ。一部の先進的な企業だけは、この辺を深く理解して、様々な領域で改善方法を作り上げているだろうが。とくに商品や顧客に関わる領域で。

 一般的な傾向として、何かが重要だと思っても、深く検討して改善方法を求めることは少ない。その重要度を正確に理解していなかったり、改善方法を真剣に求めたりしないためだ。
 しかし、「ウォー・フォー・タレント」のような本が登場すると、その重要性に気付くのに加え、改善方法も知ることになる。この種のきっかけがないと、気付かない人が圧倒的に多い。
 注目すべきなのは、この本が教えてくれる内容の生まれた状況だ。教えてくれる内容は、本の著者達が自分で1から考えたものではなく、綿密な調査によって得られたものである。考えたのは、マネジメント人材の強化を上手に行っている企業の人々だ。つまり、重要性に気付いた人が真剣に考えて求めた結果が、本の内容となっている。
 というわけで、重要性に気付き、真剣に検討すれば、改善方法を求められる可能性がある。大事なのは、どの領域を改善対象にするかだ。これは難しくなく、意外と簡単に見付かるだろう。企業に含まれる様々な要素を洗い出し、1つずつ見直してみれば。

 この種の改善が成功するかどうかは、決めた内容の実行力に加え、どれだけ素晴らしい改善方法を出せるかで決まる。そのためには、既存の制限を無視し、幅広く考えながらアイデアを出すことが求められる。日頃から常識を信じない意識が、意外に大切だ。この意識は、何か勉強して身に付くのではなく、日頃から常識を疑う思考を続け、時間をかけて身に付けるしかないと思う。


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