川村渇真の「知性の泉」

浮遊思考記録−2001年11月


●2001年11月28日

雰囲気だけで説明しようとする意見

 いろいろな会議室を覗くと、様々な意見を読むことができる。内容が論理的で説得力の高いものもあるが、そうでない意見の方が圧倒的に多い。その中で、読み手が信用しやすいのが、雰囲気だけで説明しようとする意見。世の中には論理的な思考に慣れてない人がほとんどなので、意外に多くの人が信じてしまうようだ。
 「雰囲気だけの説明」と言われても、多くの人は分からないだろう。そこで、代表的な特徴をいくつか挙げてみた。

雰囲気だけで説明しようとする意見の特徴
・形容詞や名詞に抽象的な言葉を多用する
  ・抽象的な言葉としてカタカナ語が多い
・表面的な内容が中心となる
  ・細かな部分を説明せず、全体の傾向を語るだけ
・別な表現を用いながら、表面的な内容を繰り返す
  ・説明量がいくら増えても、詳しい内容に進まない
・〜が大事、の段階で終わりがち
  ・解決するための対処方法には触れない
・検討対象の核心から外れた話が多い
  ・話が進むほど、核心から離れる傾向が強い
  ・さして重要でない内容が延々と続きやすい
・自分に都合の良い材料だけを集めがち
  ・対象全体を総合的に評価する姿勢が見られない

 こうした内容を一言で表現するなら、「中身に突っ込んでいない説明」である。表面的な説明を繰り返す最大の理由は、発言者本人が、取りあげた話題に関して“よく分かってない”からだ。だから、発言数が増えても、抽象的な内容ばかり続けてしまう。当然、説得力の高い内容にはならない。
 ところが、雰囲気だけの説明で盛り上がることが多い。同調した別な人が、似たような雰囲気だけの説明を発言し、少しずつ人数が増えていく。最後には、雰囲気だけの説明が数多く出されて、全員が分かったような感じで盛り上がる。単なる錯覚なのだが、本人たちは気付いていない。
 雰囲気だけの説明を信じやすいのは、出された意見を適切に評価できないからだ。「この説明は、説得力のあるレベルだろうか」とか、「具体的に突っ込んだ内容になっているだろうか」などと、疑問を持たない。そして、「この意見の説明によって、自分が本当に理解できただろうか」と考えることはない。そうした姿勢が、雰囲気だけの説明に説得されやすい人間を作る。そして、マトモな検討からは、どんどんと遠ざかってしまう。
 雰囲気だけの説明を見破る方法がいくつかあるので、それを知っておくことも大切だ。まず、対象となる意見に対する反対意見を挙げてみる。対象意見の内容で、反対意見を否定できるなら、雰囲気だけで説明している可能性は低い。このやり方は、物事を総合的に検討する簡易的な方法の1つである。もし総合的な検討ができるなら、そちらの方が良い。次に、対象となる意見の内容を、より具体的な中身に掘り下げてみる。それが難しいのであれば、雰囲気だけで説明している可能性が高い。他に、実際の例に適用してみて、整合性があるか確認する方法も良い。特徴の異なる複数の例に適用してみると、本当かどうか判断しやすい。
 自分で掘り下げるのが無理なら、意見を出した本人に尋ねるのが一番だ。分からない箇所を質問するたびに、どんどんと詳細が明らかにされ、説得力が高まるようだと、発言者は深く理解している。逆に、いつまで経っても抽象的で表面的な言葉しか出てこないなら、ほとんど分かっていない可能性が高い。このように、詳しい内容を説明してもらうのが、もっとも的確に判断できる方法である。
 残念なことだが、雰囲気だけで説明しようとする意見は、“相当に多い”のが現状だ。そして、良い検討を邪魔する大きな原因となっている。それだけに、こうした意見にだまされないことが、物事を適切に検討するのに役立つ。上記のような視点が身に付くと、出された発言内容を読むだけで、雰囲気だけの説明かどうか見極められるように変わる。そうした意見を読んで「それだと説明になってない」と思えるようになったら、論理的な思考能力が高まった証拠だ。少しは自信を持って良いだろう。


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