川村渇真の「知性の泉」

浮遊思考記録−2001年09月


●2001年09月28日

日本のプロ野球報道が人気低下を手助け

 今日、読売巨人軍の長嶋監督が、今期限りでの監督辞任を発表した。辞任を残念がる意見が多いようだが、自分としては、日本のプロ野球にとって良い出来事だと思う。どうしてそう思うのか、簡単に説明しよう。
 ここ数年のプロ野球報道では、長嶋監督が大きく取り上げられ続けていた。春のキャンプはもちろん、試合が始まるペナントレースに入ってもだ。巨人軍が勝っても負けても、テレビでの試合後の一言は、長嶋監督の場合が圧倒的に多い。このように、実際にプレーする選手よりも、監督の方を大きく取り上げるなんて、何を考えているのだろうか。
 長嶋監督の記事を読みたいのは、現役時代の活躍を知っているファンが中心となる。そうした人は、プロ野球の以前からのファンであり、新しく入ってきた人ではない。こういうファンはどんどん高齢化して、少しずつ数は減っていく。プロ野球全体としてファンを増やすには、新しい人が入ってくる必要がある。
 新しいファンを増やすためには、選手が素晴らしいプレーを見せるしかない。みんなを魅了するようなプレーを目にしたら、また試合を見たいと思うだろう。逆に、監督のことをいくら大きく取り上げても、素晴らしいプレーを見せるわけではないので、新しいファンは増えにくい。また、監督が取り上げられる分だけ、選手を取り上げる数が減り、素晴らしい選手をファンが知る機会まで減らす。プロ野球界にとっては、どう考えてもダメな行為といえる。
 日本のプロ野球報道のもっとも悪い点は、素晴らしいプレーをキチンと取り上げないことだ。たいていは巨人軍を中心に置き、それ以外のチームの選手は、相当に目立つ活躍をしない限り大きくは取り上げられない。それどころか、本当に素晴らしい活躍をしても、マトモに取り上げられない選手もいる。
 その代表例は、今年メジャーリーグへ移って活躍しているイチロー選手だ。その走攻守に渡るハイレベルなプレーぶりを、メジャーリーグの中継で初めて知ったファンも多いのではないだろうか。そんな書き込みを、イチロー選手ファンの掲示板でいくつも目にした。当然だが、メジャーリーグへ行く前、イチロー選手は野球をやってなかったわけではない。日本のプロ野球で活躍し、偉大な記録を残している。ただ、マトモに(つまり、プレーのレベルに相応しい形で)取り上げられなかっただけなのだ。では、その間、どんなことを記事にしていたのだろうか。やはり長嶋監督の発言や行動なのだろうか?
 インターネットを通じて「日本のプロ野球のために、長嶋監督には今後も(辞任せず)頑張ってほしい」といった意見を何度となく目にした。日本のスポーツ記者も同じように考え、選手より長嶋監督を大きく取り上げているのかもしれない。しかし、そんなことを続けていたら、新しいファンの増加を妨げ、日本のプロ野球はますますダメになってしまう(他にも改善すべき点は多いが、ここでは省略)。
 もう1つ、スポーツ記事の質に触れないわけにいかない。米国のスポーツ記事の翻訳が数多く読まれたことで、日本人記者のスポーツ記事と比較される機会が増えた。イチロー選手ファンの掲示板では、日本人記者の記事の質が低いとの意見を何度も読んだ。数字ばかり追っていて、プレーの良さを言葉で上手に表現するような記事が少ないという。日本人記者の中にも素晴らしい記事を書く人は少しだけいるが、全体的としては、この傾向が当たっていると思う。この点も改善すべきだ。
 いろいろなところで、日本のプロ野球の人気が低下しつつあると言われている。メジャーリーグで日本人選手が活躍したことが、大きな原因だそうだ。しかし、それ以外の大きな要素として、上記のようなスポーツ関連メディアの報道姿勢も見逃せない。人気の低下を手助けするような報道ばかりでは、存在そのものが問われても仕方がない。飯の種であるプロ野球人気を向上させなくて、どうするつもりなのだろうか。今後、日本の素晴らしい選手は、メジャーリーグを目指す可能性が増すため、改善の時間的な余裕はあまりないと思うのだが……。


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