川村渇真の「知性の泉」

浮遊思考記録−2000年07月


●2000年7月17日

バカから金取れという商売方法?

 本物の味にこだわっていて、食に関して非常に詳しい友人から、驚くべき話を聞かせてもらった。メールで受け取った内容をほとんど変えずに要点だけ掲載すると、次のようになる。
 「最近の商売成功のキーワードは『バカから金取れ』だそうです。うまい物を知らない味音痴から、『うまいよ』とウソを付いて売るファーストフード。物の相場を知らない若者に売る似非ファッションでは、渋谷の学生に金を握らせて『コレ流行っているよ』と言わせて儲ける。今業界ではこれを『仕掛ける』と言うのだそうですが、私には詐欺のように見えます」と言っている。
 また、「食の話でも『ファッション』と『本当に良い物』との競争は、短期的に見るといつも『ファッション』の勝ちなんです(歴史的に長い目で見ると必ずしもそうではないんですが)。新宿○○○の○○○パンは、結構本格的に不味いんです。色粉等も使っているようですし。しかし、テレビのおかげで大ブレイクし、数億円の大儲けです。本当に美味しいパン屋より、洒落た店構えの不味いパンの方が売れるんですね。本物と偽物、第三者に理解させるには結構難しいです。見分けるにも訓練がいるんですよ。前に言っていた『バカに売るのが一番儲かる』のフレーズが真実みを帯びてきます」とも言っていた。
 この話を聞いたとき、驚いた面もあったが、半分は「やっぱり、そうだったのか」と思ってしまった。自分が普段から感じていることと、見事につながったからだ。最近の店作りの傾向である。
 その代表格はレストランで、店舗の装飾に多くの資金を投入し、肝心の料理の味の方は手を抜く店が最近増えた。料理に関しては、パッと見だけは良くしておき、美味しくする工夫をほとんどしていない。さらに、店員の格好や対応も、店の装飾に合わせて見かけの高級感を出している。総合的に見ると、店舗、店員、料理の見栄えは揃って良いのだが、“料理の味だけ”が格段に悪い(もっと正確に言うなら、店舗や店員も本当の高級ではなく、素人から高級そうに見えるだけ)。にもかかわらず料金は高めなので、料理とのバランスで評価すると、食べて損する店としか言いようがない。
 こうした店は、女性誌を中心としたマスメディアが大きく援護する。店の装飾が高級そうだとか、料理の見栄えが良いだけで取り上げられ、どんどんと評判を上げてくれる。料理の味は評価しないようで、価格に比べて料理が不味くても、悪く書かれる心配はほとんどない。
 雑誌を読んだ読者は、それを信じて来店する。ここでも料理の味は重要視されず、店の雰囲気だけに満足して、常連客になってくれる。料理の味に関しては、不味くなければよいのであって、美味しい必要はほとんどないようだ。
 こういった店を開いている人は、相当に分かってやっていると推測した。店舗の装飾も、店員の雰囲気も、料理は見栄えだけを良くすることも、すべて意識してやっていると思う。まさに「バカから金取れ」の方針を最大限に守って。そうでなければ、料理の味だけ特別に手を抜くのは難しいだろう。
 世の中で「バカから金取れ」が成功する背景には、物事を自分で判断しない人の存在があるのではないだろうか。美味しい料理に関してなら、高級店でなくても、いろいろな店の料理を自分で食べ、真面目に比べてみることで、美味しく作ろうと努力している料理が見えてくる。そうしない人は、何の疑問を持たずに雑誌の記事を信じ、「バカから金取れ」の店にとって“美味しいお客”になってしまう。
 以上の話を知って、「バカから金取れ」を実践するのは自由だ。ただし、この方法には重大な欠点が1つある。本物を見極められる人から、まったく相手にされなくなる点だ。そんなことを気にしないのであれば、成功する儲け方の1つと言えるだろう。もちろん、個人的に相談されたら、絶対にやらない方がよいと助言するのは間違いない。そんなセコイ商売している人とは、付き合いたくないからだ。


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