川村渇真の「知性の泉」

浮遊思考記録−2000年06月


●2000年6月2日

顧客の気持ちを考えない商売人

 よく通る道の途中に、家族経営と思われる小さな本屋がある。その近くにコンピュータ関連の学校があるためか、規模が小さい割にはコンピュータ系の雑誌を多く置いている。だから以前からよく利用していた。購入するのは仕事関連の雑誌なので、領収証をもらわなければならない。黙っているとレシートすらくれないので、いつもわざわざ言ってもらっている。
 つい最近、この本屋でイヤな思いをした。店長が店番をしているときだった。いつものように「領収証をください」と言ったら、露骨にイヤな顔をされた。それだけではない。きちんとした領収証を作ろうとしなかったので、それではダメだと何度も言わなければならなかった。レジに並んでいるのは自分だけなので、次の客を待たせたくないと考えたわけでもない。おそらく、領収証を書くのが面倒だと思っただけだろう。
 この店長はかなり悪い態度だったが、こんな風に領収証を作るのを面倒くさがる店長や店員というのに、ときどき出会う。それにしても、どうしてこのような態度をとるのであろうか。相手は、自分の商売に直結している顧客なのだ。その人に悪い印象を持たれたら、得られる利益の一部を失ってしまうと考えないのだろうか。
 領収証を要求された場合、作らずに済ませることはできない。もし作らなければ、顧客は買わないと言って帰るだけだからだ。絶対に作らなければならないものなら、顧客に良い印象を持ってもらうように、適切な態度で接するのが賢い行動である。態度だけなら余分な費用もかからないので、やらない理由は見付からない。
 領収証作成でイヤな顔をしたのは、氷山の一角であろう。顧客を大切に考えていないので、似たような行動をいろいろとしてしまう。それが積み重なると、多くの顧客に悪い印象を与え、儲ける機会をどんどんと失う。
 この本屋だが、業界の現状から考えて、かなり厳しい状況にあると推測できる。それだけに、顧客への態度はきちんとしなければならないはずだ。しかし、そのように行動してはいない。その大きな原因は、顧客の気持ちをほとんど考えていないからではないだろうか。
 顧客の気持ちを考えるというのは、商売の基本中の基本である。成功している店の多くは、顧客が気持ちよく買い物をしたり、買って良かったと思わせるように工夫している。自分の店が厳しい状況にあるにもかかわらず、店長自らそうしないとは何という商売人だろうか。どうしたらもっと売れるだろうかと考えたら、簡単にたどり着きそうな結論の1つなのに。
 何年もやっていてそこまで気が回らないとしたら、商売には根本的に向いてないのかも知れない。さっさと廃業してもらって、もっと親切な店に出てきてほしい。そう思うので、今後はこの本屋からは何も買わないことにした。
 良い店を注意深く観察すると、商売の基本となる挨拶からきちんとできている。領収証を渡すときも、何も言わずに差し出すのではなく、「お待たせしました」などと言いながら渡す。一部の店員だけでなく、すべての店員がそうしている。つまり、経営者が気付いていて、きちんと教育しているのである。
 その意味で、業務の改善を勉強する材料は世の中にかなりある。どうやったら印象が良くなるか分からない人は、別な業種でも構わないから、質の高い店を細かく観察してみるとよい。改善のヒントがきっと見付かるはずだ。そういった店が増えれば、世の中の多くの人にとって、買い物がより楽しくなるだろう。

●2000年6月29日

本サイトも今日で5周年

 本サイトを最初に公開したのは、1995年の6月29日。つまり、今日で5周年を迎えた。ほとんど更新しない時期が少しだけあったものの、全体としては地道に更新してきたと思う。残念ながら、今年に入って更新頻度が低下している。仕事が忙しいのと、身内が他界したのが大きな理由だ。今後は、何とか時間を確保して、更新頻度を以前のレベルに戻したい。
 自分のサイトを持っている人なら分かるだろうが、すべての中身を自分で作っている場合、定期的に更新するのは大変である。おまけに本サイトでは、書く内容を濃くしているため、作成には多くの時間がかかってしまう。自分のライフワークだと思うからこそ、何とか続いているのだろう。よほどのことがない限り、書けなくなるまで続けるつもりだ。
 良い機会なので、内容を作る際の流れを紹介しよう。どのページでも、連続した一区切りの時間で一気に書き上げるわけではない。何日かに分けて内容をブラッシュアップし、ある程度の内容に仕上がると確認したら書き始めている。大まかには、次のような手順となる。まず、書くテーマを決めたら、それに必要な材料を集める。ある程度の材料が集まったところで、大まかな構成を決める。この段階まで、箇条書きのメモ形式で作り進む。構成が決まったら、時間を見付けて一気に書いてしまう。こういった手順なので、1つのテーマが仕上がるまでに、開始から最低でも数日が経過する。その間に何度か見直し、内容を改善していくわけだ。
 扱っているテーマが重いだけに、最初からきちんとした内容で公表しなければならない。そう思って、こういった手順を踏んでいる。

 実は今年になって、外国の研究所に勤める日本人研究者から、とても重要なメールをいただいた。その内容を要約すると、次のようになる(個人的な解釈も一部あり)。世の中にとって非常に重大な内容を論じているので、日本語で発信していてもダメだ。日本の政治家や官僚はもちろん、多くの企業人も、その価値を分からないだろう。同じ内容を英語に訳して発信し、米国の重大な組織や人物に対して、売り込んだりアピールすべきだ。理解できる人が必ずいるから。そうしなければ、日本の中で埋もれてしまう。
 自分でも普段から思っていたことだが、重大な点を突かれたと感じた。しかし、非常に紳士的で情熱のあるメールだったので、同時に勇気もわいてきた。今は忙しくて時間を確保できないが、近いうちに英訳を開始しようと思っている。
 英語版を作らなかったのは、英語が苦手なのが最大の理由だ。技術文書に関してなら斜め読み程度はできるが、英訳となると途端に固まってしまう。幸い現在は、日英翻訳ソフトが低価格で売られている。それを利用して、何とか英語に訳したい。最悪の場合、機械翻訳した結果をそのままか少し直して公開するだけでも、説明量が多いので要点ぐらいは伝わるのではないかと考えている。
 英訳の対象コーナーだが、とりあえず「思考支援コンピュータを創る」と「新しい時代の教育」の2つを選択した。どちらも世界レベルで重要な研究成果であり、世の中を変えるだけのインパクトがあると思うからだ。「思考支援コンピュータを創る」に関しては、ユーザーとの対話方式や内部構造の説明が不足しているので、その部分は書き足す必要があり、できるだけ早目に実施したい。また、このテーマの研究はここ数年停止していたが、この機会に再開するつもりだ。2つ以外のコーナーに関しても、重要なものは順次英訳していきたい。「建設的な結論を得るための議論手法」や「頭に栄養を与える設計ノウハウ」が次の候補となる。
 英訳したことで、すぐにどうにかなるとは思っていない。実現に向けて何かが始まるとしても、最短で3年とか5年とかかかるだろう。それまでの間に、本サイトの日本語ページも英語ページも、徐々にだが充実しているはずだ。英訳を試みることで、英語の力が少しは伸びることも期待している。ともかく、さらに前へ進むだけだ。

 この5年で、ページ数もコーナー数も格段に増えた。しかし、書きたい全内容の10%も書けておらず、未だに「準備中」が多い。このペースだと、現在頭の中にある内容ですら、全部を書けないまま終わる。それでも、できる限り内容を増やしていきたい。
 作り始めた頃は、現在のような姿を思い描いてはいなかった。もっとこぢんまりしていて、雑然とした状態になるのではと、何となく考えていた。しかし、作り進むうちに、少しずつ改良していった。コーナーを切り替えやすくするとか、コーナー内の整理などにより、サイト全体が把握しやすくなったと思う。
 あと5年頑張ったら、どんな風になるだろうか。書いてある内容を充実させるのはもちろん、実際に役立てられる何かを提供できればいいのだが……。そんなことも考えつつ、5年後の発展した姿を目指して、地道に更新し続けたい。


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