川村渇真の「知性の泉」

浮遊思考記録−2000年01月


●2000年1月9日

年とともに成長する思考能力

 個人の能力や成果に関して、世の中ではいろいろなことが言われている。その1つに、重大な研究成果は若い頃に出すという説がある。新しい発想は若い時代でないと思い付かない、という考え方が基礎にあるのだろう。個人的には、この考え方に異論がある。人それぞれに、生きてきた環境、能力の成長の進み具合、トリガーとなる刺激との遭遇時期などが異なるからだ。全体を総括できるような法則はないと思う。
 それとは別に、能力の高め方も重要だと考える。できるだけ汎用的な思考能力を高めることが、良い成果につながるという発想だ。汎用的な思考能力とは、分析、評価、設計、改良など、どんな対象にも適用できる能力を指す。この種の能力を高めることで、年齢に関係なく良い成果が出せる。
 もう1つ、質の高い成果に必要なのはヒラメキである。ヒラメキに関しては、少し説明が必要だろう。良いヒラメキを得るためには、問題の中身を適切に把握しなければならない。そのためには、分析などの汎用能力が必須だ。また、分析や評価の作業の中でも、小さなヒラメキが求められる。こうした組み合わせによって、大きな成果が得られる。
 以上のようなことを、かなり若い頃から考えていた。何種類かの仕事を経験したが、システム設計という仕事こそ、汎用的な思考能力を高めるのに最適だった。考える機会だけでなく、実践する機会をも与えてくれた。おかげで、だんだんとだが汎用的な思考能力が高まったと思う。
 35歳を過ぎたあたりから、自信を持って仕事ができるようになった。どんな問題に対しても、ある程度のレベルを満たした結論が出せるようになったからだ。以前なら、こちらが良いだろうと“何となく”決めていた。しかし今なら、どういう理由で、どの程度、どちらが良いのか“きちんと”説明できる。分析、評価、設計などの能力が身に付き、きちんと利用できるようになったからだ。もちろん、判断が難しい問題もあり、それには自信を持った結論が出せない。それでも、どこがなぜ難しいかを説明できるようになった。
 ヒラメキに関しても、良いヒラメキを上手に求める方法をいくつか持てた。問題の中身を整理してから適用すると、実際に役立つヒラメキが得られることも分かってきた。今後の課題は、対象テーマとヒラメキ手法の適切な組み合わせを求めることだろう。
 もう1つ面白いのは、以上のような能力が年とともに高まっている点だ。分析、評価、設計などの能力が少しずつ向上しているためだと思っている。また、本サイトを作るために、様々なテーマについて深く思考した結果、思考の経験数が増えたことも大きい。おかげで、6年前より3年前が、3年前より今のほうが、同じ問題に対して良い結論を出せる。しかも、結論を導いた過程や理由を、より明確に説明できる。その差を自分が実感できている。
 最初の話題に戻るが、分析でも設計でも、汎用的な能力を高めることによって、年齢に関係なく良い成果が得られる。重要となるヒラメキでさえも、上手な方法を身に付けると、年齢に関係ないと考えている。さらには、汎用的な思考能力を使って、新しい分析方法やヒラメキ手法を検討すれば、さらに能力は高まる。ここが一番面白い。
 以上のような成果を紹介する目的で用意したのが「頭の使い方を良くする思考のヒント」だ。しかし、コーナーを数多く用意したため、更新の少ないコーナーになってしまった。今年こそは、このコーナーに力を入れたいと思う。

●2000年1月30日

官僚の思考能力の低レベルさを見事に表す資料

 話題になっているので読んだ方もいると思うが、通産省と博覧会国際事務局(BIE)との愛知万博に関する会合の議事録(愛知万博●BIEと通産省の会議録全文)が公開されている。我が国の現状を理解するのに役立つ内容なので、1人でも多くの国民にぜひとも読んでほしい。この話題のトップページからは、朝日新聞に掲載された関連記事もたどれる。
 会議録全文で気付くのは、通産省側の発言内容の低レベルさだ。BIE側では、環境保護や採算性への確証が持てるように、証明する資料や具体的な行動を求めている。しかし、通産省側では、その場だけを何とか切り抜けようと、抽象的な表現や別な言い回して逃れようとしている。BIE側から見てマトモな回答になってない点が、会議録の随所に見受けられた。それも1回だけではない。BIE側が同じような指摘を何度も繰り返し、そのたびに答えになってない返答を続けている。マトモな回答が得られないから、指摘を何度も繰り返したのだろう。通産省側の発言内容は、本当に情けない。
 論理的な思考能力が少しでもあれば、今回の通産省のような対応はできるはずがない。相手が求めている内容を理解し、その範囲内で回答を返すのが、論理的な対話の基本中の基本だからだ。それすら満たしていないので、相当にレベルが低いと判断せざるを得ない。会議録全文を読んでいて、通産省側の面々を“思考能力が相当に低いアホ”と思ってしまった。
 同じような感情は、BIE側の参加者も感じたに違いない。「マトモな返答が、何で返ってこないんだ」などと。会議録全文を読むと、その様子が伝わってくる。期待した回答が得られないので、同じ指摘を何度も繰り返しており、それでもマトモな返答が一度も得られなかった。
 今回の通産省の発言内容は、官僚に共通する一般的なものといえる。公共事業の無駄さなど、何かを指摘されたとき、論理的で科学的な回答をすることは非常に少ない。後で直すつもりだと言ったり、話をそらすといった方法で、その場だけしのごうとする。そして、本当に直すことは少ない。まさに、子供だましレベルの返答である。それでも何とか済んでいるのは、マスメディアが鋭く指摘しないことと、官僚たちが自分で権限を持っているためだ。
 国内では問題ないが、自分たちが権限を持たない世界を相手にすると、今回のようにまったく通じず、低レベルさが明らかになってしまう。表面的に取り繕うだけでは、世界に通用しないのだ。国内で通じているため、外国人相手にも同じように反応し、情けなさが強調される結果となる。
 こういった議事録は、どんどん公表してもらいたい。加えて、その内容をマトモな人が評価し、評価結果を公表してほしい。そうすれば、官僚の思考能力の低レベルさが、もっと明らかになるだろう。我が国の悪い部分を根本的に直すためには、現状を正確に知る機会が必要で、改善への圧力を強める効果がある。子供だましレベルの言い訳が通用する日本の現状を、1日でも早く良くしたい。
 そうなるまでは、今回の議事録のように、論理的でない発言内容が繰り返され、日本の恥を世界に向けて発信し続けるだろう。あまりにも悲しすぎる状態だが、こういった過程を通らないと改善されないのかも知れない。


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