川村渇真の「知性の泉」

浮遊思考記録−1999年05月


●1999年5月15日

的を外した質問を防ぐ方法はないか?

 もう何ヶ月か前の話だが、クローン牛の研究を取り上げたテレビ番組を見た。その中でレポーターは、卵子を操作している研究者に次のような質問をした。「命だと意識することはありますか?」と。尋ねられた研究者は、「普段は感じないが、生まれるときには少し感じる」と答えた。
 長いレポートの中での1つの質問ではなく、短いレポートにおける中心的な質問だったので、ちょっとした違和感を持った。その原因が何なのか考えていたら、レポーターにぜひとも尋ねてみたい、1つの質問が思い浮かんだ。「あなたは牛肉を食べるとき、命だと意識しますか?」というものだ。この質問に、レポーターは何と回答するだろうか。人間が食べるために牛を殺すのは良くて、クローン牛を作るのはダメだとでも答えるのだろうか。そんな風には絶対に答えないだろう。この比較にあえて答えを出すなら、どちらが可哀想かと言えば、クローン牛を作るよりも、食べるために殺すほうだと思う。
 これも含めていろいろと考えていくうちに、違和感の原因が少し見えてきた。この質問内容が、特集の狙いとはあまり関係ないのではないだろうか。クローン牛の問題は、別なところにあって、もっと適切な質問をする必要があるのではないかと。
 もし何か別な意図で質問したのだとしたら、質問文の作り方が悪く、マスメディアのレポーターとしては失格と評価するしかない。適切な質問文を用いなければ、尋ねたい回答が得られないからだ。ましてや、マスメディアの立場で代表して質問しているのだから、素人のように失敗しましたでは済まされない。
 実は、この種の「的を外した質問」は、レポーターに限らず、ときどき耳に入ってくる。質問内容に違和感を感じる場合は、たいていそうだ。特にひどい質問の場合には一発で気付き、「おいおい」と突っ込みたくなる。
 思考を1歩進めて、「的を外した質問」を防ぐ方法はないだろうかと考えてみよう。今回の例を参考にするなら、同じ質問を別な状況(この例では牛肉を食べる)に適用してみる方法もある。他に、本当に尋ねたい内容は何なのか、じっくりと考えて整理してみる方法も挙げられる。もう1つ、質問から得られる回答をいくつか予想してみて、それらに意味があるのか考えてみる方法も有効だろう。
 このテーマを考え続けたが、体系化して整理できるようなレベルの結論は導き出せなかった。あとで再び検討してみたい。

●1999年5月24日

定食の食べ物選びにもシステム設計の視点が重要

 住んでいる場所の近くに、トンカツ屋が何店かある。その中の1店では、トンカツ定食の味噌汁として必ず豚汁を出す。「トンカツ屋だから豚汁」という安易な発想で定食を組み立てているようだが、これが最悪なのだ。
 理由を簡単に説明しよう。どんなに良い材料を使い、上手な味付けができたとしても、何口も続けて食べたら美味しさが低下する。同じ味が続くと飽きてしまうからだ。ところが、途中で別なものを食べると、前の食べ物が美味しく感じるようになる。
 このとき重要なのが、食べ物の組み合わせ。中心となる食べ物がトンカツなら、途中に入れる食べ物として、脂っこいものは適さない。脂っこさを消すとともに、肉とは異なる味の食べ物がよい。お新香も良い選択だろう。白菜でも構わないが、より水分の多いキュウリの浅漬けのほうが、トンカツの味をクリアーできる。味噌汁も同様で、豚汁のように油分を含んだものではなく、もっとあっさりした具を入れたものがよい。
 つまり食べ物の組み合わせが大切で、中心となる食べ物を生かすようなものを選ばないと、食事全体として美味しさは低下する。近所の別なトンカツ屋では、シジミの味噌汁を必ず出すが、こちらのほうがトンカツを美味しく食べられる。別な定食屋では、うな丼の定食に、お新香と冷や奴と味噌汁が付いてくる。ウナギも脂っこいので、お新香と冷や奴のようにあっさりした食べ物が合う。きちんと考えた組み合わせだ。
 適した組み合わせの定食が出たときは、食べ方も注意したい。うな丼に付いてくる冷や奴なら、濃い味のウナギを食べた舌を、最初の状態に戻す役目があるため、しょう油を多くかけるのはまずい。かけるとしたらほんの少しだけにするか、まったくかけずに食べる。そうすると、ウナギの濃い味を消して、ウナギの次の一口が美味しく感じられる。
 もう1つ、日本の定食は、すべての食べ物が一緒に出てくるのが普通だ。この方式は、前述のように交互に食べられるので、美味しく食べるために必要なシステムだとも捉えられる。急いで食べないと冷めてしまう欠点はあるものの、かなり良い方式であろう。
 食べ物の組み合わせは、美味しく食べるための基本だ。最初に紹介したトンカツ屋は、それをまったく分かっていない。他の店でも、出てきた食べ物の組み合わせを見れば、この基本を理解しているのか簡単に判断できる。どんなに良い材料を使って、上手に調理したとしても、上手な組み合わせの基本を知らなければ、せっかくの調理技術を大きく損しているのに等しい。そんな店が、意外に多かったりするから不思議だ。その意味で、食べ物の組み合わせを評価することは、店のレベルを判断する評価基準として使える。そんな基本的な条件は、多くの店で満たしておいてほしいのだが。
 以上の話をシステムとして捉えると面白い。個々の食べ物の作り方は細かな技術に当たり、食べ物の組み合わせはシステム設計に相当する。やはり食事も、システム設計が良くなければ美味しく食べられないようだ。


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