川村渇真の「知性の泉」

柳の下の二匹目のドジョウ本


ある本がベストセラーになると、同じ路線を狙ったマネ本が必ず現れる。俗に「柳の下の二匹目のドジョウ本」と呼ばれるものだ。ヒットした元本と間違って買うのを狙ったり、続編だと思わせたりと、姑息な手段でヒットを期待する。しかし、元本を上回るほどヒットした例は1つもなく、ドジョウ本のほとんどは、まったく売れないまま姿を消す。ここでは、比較的話題になったドジョウ本を集めてみた。気に入った本があったら、古ドジョウ本屋で探そう。


◎ヒット元本:心の社会
◆ドジョウ本:心の社会の窓
ドジョウ本の内容:小心者が強い心を持つための本。元本の“心の社会”を読んで人間の思考を分析し、ようやく開発できたという。訓練方法がユニークで、社会の窓を開けたままで生活しようと提案している。最初のうちは人に笑われたりバカにされたりするが、しだいに慣れてきて、強い心が得られるそうだ。そのうち、社会の窓を開けておくのが“最高の快感”に変わり、黄色いシミの付いたパンツをわざとはいて見せ、周りに愛嬌を振りまくことも可能になる。さらに上達すると、社会の窓から見えるパンツの一部に「ここだけ元気」と書くとか、社会の窓に花を生けるとか、新しい楽しみを発見できて、生き生きした人生に変わるという。実際の試した人は、「社会の窓が開いてるよ。超なさけね〜」などと徹底的にバカにされた。また別な人は、上司から「社会の窓に花を生けているとは、何を考えとるんだ〜。えーい、課長からヒラに降格だ〜」と言われ、悲惨な結果に終わった。多くの人が厳しい体験を経て、前よりもひどい小心者になり、本の評判もガタ落ちした。

◎ヒット元本:知的人生案内
◆ドジョウ本:チカン人生案内
ドジョウ本の内容:知的な人生の実現をあきらめた人向けに、新しい生き甲斐を与える本。しかし、与えたのはチカンとして生きる人生。本書の助言を素直に実行して逮捕された人が、「この本にマインド・コントロールされて、やっただけだ。悪いのはこの本だ」と証言した。そんなチカンが続出したことにより、すぐに発禁となった。

◎ヒット元本:物書きがコンピュータに出会うとき
◆ドジョウ本:恥かきがコンピュータに出会うとき
ドジョウ本の内容:普段から恥をかき続けている人が、コンピュータを使い始めたときの様子を、書き連ねた本。コンピュータを使うのは難しく、トンチンカンな質問を何度もしたため、前以上に大きな恥をかいた。それ以来コンピュータが嫌いになり、うっぷん晴らしの方法ばかり考え始めた。モニタの筐体を便器代わりに使うとか、他人のパソコンのフロッピー挿入口に犬のフンを詰めるとか、動作中のハードディスクを思いっきりブン回すとか、正常とは思えない行為ばかりを提案している。情けないだけの内容で役に立たたないため、まったく売れなかった。

◎ヒット元本:ちょっとピンボケ
◆ドジョウ本:ちょっとピンサロ
ドジョウ本の内容:うだつの上がらない写真家が、起死回生を狙って出版した写真集。自分の趣味を最大限に生かし、テーマにピンサロを選んだ。自分好みのオネーチャンばかりを狙って、「えーで、えーで」と言いながら撮り集めたという。ただし、オネーチャンとの遊びにばかり夢中で、写真のほうはおそろかになった。写真の過激さが足りなかったのに加え、出版直後にヘアヌードブームが始まり、泣かず飛ばずで消えていった。ヘアヌードに対抗するために、第2弾としてモロヌードを提案したが、警察から出版許可が得られず、結局は発行できなかった。

◎ヒット元本:メディア・ラボ
◆ドジョウ本:めでてゃあラボ
ドジョウ本の内容:メディア・ラボを参考にして、日本最高の研究機関を名古屋に作ろうとした話。優秀な人材を日本中から集めようとしたが、一人も集まらなかった。そこで仕方なく、世間から“おめでたい奴”と呼ばれている人々を集めた。その結果、まったく研究成果があがらず、地元で「めでてゃあラボ」と物笑いの種にされた。あまりのバカバカしさに、まったく売れなかった本。

◎ヒット元本:ゲーデル、エッシャー、バッハ
◆ドジョウ本:ゲロ出る、よっしゃー、バケツ
ドジョウ本の内容:タクシードライバーの悩みといえば、酔っぱらった客がゲロを吐くこと。その解決方法を、人工知能技術を駆使して解決しようと試みた本。酔っぱらいの行動をつぶさに観察していて、吐きそうになったらバケツを差し出すという方法なので、たいていは間に合わずにゲロさせてしまった。タクシー業界から「ゲロ臭くなった車を洗って返せ」との強い批判が出て、自主的に本を回収する結果になった。ドジョウ本の著者は、タクシーに乗るのが今でも恐いという。

◎ヒット元本:人を動かす
◆ドジョウ本:人を驚かす
ドジョウ本の内容:どんなに努力しても人を動かせない管理者に、救いを与える本。人を動かそうとせず、驚かせて操るべきだと説いている。その方法が尋常ではなく、驚いてショック死する人が続出した。社会的な大問題に発展しそうだったが、著者自身も友人に驚かされてショック死するという情けない結末に、多くの人がシラケてうやむやになった。ドジな奴が書いた本として、多くの人の記憶には残っているようだ。

◎ヒット元本:エクセレント・カンパニー
◆ドジョウ本:屁くせぇ連中・カンパニー
ドジョウ本の内容:急速に躍進する企業の秘密を明かしたビジネス書。創造的な成果を上げるには、屁くせぇ連中が必要だと説いている。屁くせぇ連中とは、何日も風呂にも入らず、トイレで猛烈に仕事をこなす人々だという。そんな連中に最高の成果を上げさせたいなら、社長以下の全社員が、屁くせぇ連中と同じ生活をしなければならないと主張している。それを信じて実行したある社長は、社内をトイレだらけにして、「全員で屁くせぇ連中になろう」キャンペーンを始めた。社員全員の体がむちゃくちゃ臭くなって、誰からも取引してもらえなくなり、最後は倒産した。倒産時点では、社内中が異様な臭いで充満し、近所の住民から立ち退きを要求されていたという。ほとんどのビジネスマンは、本のタイトルを見ていやになり、読みもしなかった。

◎ヒット元本:超整理法
◆ドジョウ本:腸整理法
ドジョウ本の内容:これといった病気でもないのに、なんとなく元気がない人の原因を究明した本。健康がすぐれないのは、腸の配置が悪いからだと説いている。強健を求めるなら、腸の配置を整えるしかないということで、理想的な腸の配置も一緒に紹介した。それを読んだ人の一部が、自分で腹を切り裂いて、腸の配置を整えようとし、結局は救急車で病院へ運ばれた。その人々は「くそ〜、だまされた〜。よけい具合が悪くなったぞ〜。もとの体に戻せよな〜」と怒っていた。自分で腹を切り裂くほうが悪いのだが、この事件のために本は売れなくなった。


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