川村渇真の「知性の泉」

世間をなめた宣伝文句


どうやっても商品が売れないと、とんでもない広告を打つ企業が出てくる。企業が必死で頼めば、広告業界は何でもやってくれるからだ。当然、腰を抜かしそうな内容になりやすく、多くの消費者は付いていけない。そんな風に世間をなめた宣伝文句を、片っ端から集めてみた。これを見て“広告業界の発想”と“必死になる企業の気持ち”を理解しよう。これでアナタも、広告のプロになれるっ!


●タバコ会社:体に悪いことビシバシしようぜ

タバコが体に悪いことは、生まれる前の赤ん坊でも知っている事実となった現代。今までは体に悪くないと主張し続けてきたが、誰にも信用されなくなったので、ついに方向転換した。今度は、開き直った広告だ。「体に悪いことビシバシしようぜ」とのメッセージで始め、「健康に良いことばかりじゃ、生きてて面白くないだろう」と続けている。タバコの煙は、間接喫煙のほうが体に悪いので、嫌いな人の近くで吸うようにも推奨している。「できるだけ人混みで吸って、みんなを道連れにしよう。この方法なら、吸ってる人のほうが安全だ〜」と。健康志向の強い人からは、最後の悪あがきと言われているが、この広告のおかげで喫煙人口は増えているという。何はともあれ、近づいてくる喫煙者には注意しよう。

●紳士服販売:スーツさえ着てりゃ真面目に見える

日本の社会では、口では実力社会と言っているが、たいていの企業では外見だけで人を判断しがち。その中でも、服装が非常に重要だ。社会人の男性なら、スーツを着ていれば、変な目で見られることはない。ところが、フリーターやSOHOの台頭により、売り上げが落ちて困っている紳士服業界。起死回生のために、スーツを買ってもらう新しい広告を登場させた。メッセージ性の強い「どんな悪(ワル)でも、スーツさえ着てりゃ真面目に見える」だ。テレビCMも過激で、「銀行へ強盗に入るときも、誰かを殺すときも、スーツを着てれば安心。誰からも無罪に見え、警察に逮捕されることはありません」と、最初からブッ飛んでいる。その道の専門家によると、ある程度は当たっているらしいので、人から信用されない人は、風呂に入るときも寝るときもスーツを着て生活しよう。こんな簡単な方法で、誰もが真面目な人に生まれ変われる。す、す、す、凄すぎる〜ぅ。

●病院:たまに手術が失敗するけど怒らないでね

医療ミスの追求が厳しくなってきたので、病院側は以前から強力な対策を探していた。ミス自体はそう簡単にはなくならないと判断し、ミスしても怒られない方法を採用することにした。それが「たまに手術が失敗するけど怒らないでね」だ。失敗しても責任を取らなくて済むよう、患者と家族が訴えられない誓約書を手術前に書かせる。おかげで、かたくなに拒み続けていたカルテも公開するようになり、手術中の様子もテレビで見られる状況へと変化した。医者も正直に変わり、テレビ中継されている手術中でも「あれっ、ミスっちゃったー。死んじゃうけど、ごめんねー」と明るく告白する。あまりの軽いノリに、患者の遺族も笑って済ませるしかない。責任を取らなくてよいので、手術の腕が向上しなくなって失敗は増えたようだ。しかし、新しいタイプの理想的な病院として、日本中の医療関係者から注目されている。こんな病院ばかりになったら、どうしよう。

●酒メーカー:酔って出勤すればリストラも怖くない

好きな人はたくさん飲むが、嫌いな人はまったく飲まないのがアルコール。飲まない人には売り込めないので、飲める人の酒の量を増やそうと考えた。しかし、さすがに働いている時間は飲まない。そこを飲ませようとしたのが、この広告だ。リストラの恐怖を酔って追い払おうと、出勤前にも飲むように奨励している。オフィスビルの前にビールの自動販売機を何台も設置するなど、環境面の整備にも力を入れた。また、その自動販売機では、午前の7〜10時の3時間だけ、特別に2割引きで売っている。おかげで、出勤前に飲む人が少しは現れた。しかし、酔って出勤してクビになった人が何人も出て、多くの人は出勤前に飲むのをやめた。最初から相当に無理があるキャンペーンで、残ったのは酔ってクビになった人だけ。もはや昔のシラフ生活には戻れないので、酔った状態でも働ける職場を探しているらしい。


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