川村渇真の「知性の泉」

ありがた迷惑な熱狂サービス


どんな組織でも個人でも、より多くの人に良い印象を持ってもらいたいもの。そのため、周囲の人に何とか振り向いてもらおうと、いろいろなサービスを考え出す。たいていは魅力的な内容なのだが、中には“ありがた迷惑”でしかない過激なサービスもある。独自の情報網を活用し、日本中から熱狂的なサービスを洗い出してみた。厳選された情報なので、どれも独自の魅力を持っている。もし気に入ったものがあったら、積極的に利用しよう。


●マラソン大会:ゴールを何キロも先に移動する

通常のマラソン大会では42.195kmの距離を走る。しかし、選手を非常に大切にする主催者の中には、走行距離を伸ばすことが最大のサービスだと信じ込んでいる人もいる。ただし、どれぐらい伸ばすかは当日に判断するので、選手には教えない。もうすぐゴールだと思いながら走ってトラックに入ってくると、ゴールの代わりに看板が立っている。そこには「今回は走行距離を20kmもサービスしました。20km先のゴールを目指して、がんばってね」などと書いてある。これで終わりだと思っていただけに、選手は相当にガックリ。しかし、ゴールしないと記録に残らないので、ボロボロになりながら走り続ける。ちなみに、今まで一番悲惨だったのは990kmをサービスした大会で、誰もゴールできなかった。サービスするのはいいが、選手のことも考えて程々の距離にしてもらいたい。

●消防士:火事発生で近所の家にも水をかける

消防士も人の子。火事という特別な状況だと、どうしてもテンションが高くなってしまう。そのため、火が消えても平常心には戻らない。お祭りのような気分になり、「ほーら、水のサービスだ〜。大盤振る舞いだ〜」と言いながら、近所の家にまで水をかけ続ける人もいる。たまらないのは、水をかけられた家の人々。ドアや窓が開いていると、どんどんと水が入ってきて、家中が水浸しになる。「止めてくれ〜」といくら泣き叫んで頼んでも、テンションが高い消防士には通じない。さらに面白がって水をかけ続けるだけだ。この過激なサービスを防ぐ方法はないので、近くで火事があったら、ドアや窓はきちんと閉めて目立たないようにしよう。

●大工:余った木材を外壁に打ち付ける

木をこよなく愛する大工は、どんなに小さな木材でも捨てることができない。新築の家を建てて木材の切れ端が余ったら、捨てずに何とか生かそうとする。そこで思いついたのが、余った木材を外壁や屋根に打ち付ける方法。これで木材を捨てずに済むが、家の外見はボロボロに見える。発注者が文句を言っても、当の大工はいっこうに気にする様子はない。最高のサービスだと信じているからで、発注者がしつこく言うと「どんな材料でも大事に使わなければダメ」と説教するだけ。運が悪かったと、あきらめて住むしかない。こんな家だと、困るのが近所付き合いだ。前衛芸術の家だと説明すれば、変わり者だと思われるかも知れないが、何とか付き合ってもらえるだろう。

●商店街の福引きの景品:ハダカ踊り券

商店街が年末などに実施する特別セールで、1等に採用された景品。大勢の観客の前でお立ち台に上り、素っ裸で音楽に合わせて踊る機会を提供する。可能な限り多くの観客を集めてくれるし、踊っている姿をビデオに収録して商品化する特典も付いている。景品の中身が中身だけに、当たった人は「もらったけど、どうしろって言うんだい」と困惑するばかり。何もしないでいると、商店街の面々から「せっかくの好意を無駄にするのか」と文句を言われ続け、結局は踊る羽目になる。踊ってしまったら最後で、裸踊りのビデオが売り出されるし、知人や親戚にビデオ発売のお知らせが来るしで、悲惨な状況に追い込まれる。2等以下の景品が魅力的なだけに、1等が当たらないように祈りながら福引きを引いている人が多い。

●健康重視のレストラン:お酢の飲み放題

酢が健康に良いと知ったレストランのオーナーが始めた、お酢だけなら何杯でも飲めるサービス。レストラン側では、「ウチでは新鮮なお酢を産地から直送してます」とか、「お酢を毎日飲んでいれば、大病にも負けない体が作れる」と強力にアピールしている。レストランに入ると、コップに入れたお酢が水の代わりに出てくる。注文した料理のほうは、コップの酢を全部飲まないと出てこないので、料理が食べたいなら飲むしかない。多くのお客は「お酢が健康にいいって、誰が言い出したんだ〜」と泣きながら飲んでいる。料理がむちゃくちゃ美味しいだけに、誰もがお酢を我慢して飲んでいるようだ。

●繁盛している居酒屋:店員の無料体験

繁盛している居酒屋が始めた新型のサービスで、飲食した金額に比例してポイントが加算され、一定の値に達すると強制的に店員をやらせるもの。普通の店員と同じように働かされ、休む暇がないほどコキ使われる。繁盛している居酒屋なので、忙しさは半端じゃない。1回体験すると相当に疲れ、次の日は仕事を休んで、家で寝ているしかないという。人件費を抑えるために、お客までタダで使おうというのが見え見えの企画だが、このおかげで料金が極端に安い。もし体験を断ると、次から飲ませてもらえないので、仕方なくコキ使われる人がほとんど。安く飲むのもラクじゃないようだ。

●警察署:一日犯人の体験

市民に愛される警察署になるための運動の一環として始まった、一般市民向けの体験企画。キャッチフレーズは、「有名人には一日署長を、一般人には一日犯人を体験してもらおう」だとか。一日署長なら、メジャーな行事に参加して、美味しいところを体験できる。しかし、一日犯人の場合は、新米警官の訓練に犯人役として参加するため、何も美味しくない。それどころか、大勢に追いかけ回されたり、こん棒で殴られたり、警察犬に噛まれたり、手錠をかけれれたまま引き回されたりと、信じられないぐらい悲惨だ。実状を知らないで参加する人が多く、途中で気付いて「もう止めたいんです。助けてくださ〜い」と泣き叫びながら訴えても、構わずに訓練を続ける。普通の人なら嫌がるが、いじめられるのが好きな人も一部にいて、毎日のように参加しているという。どんなに変わったサービスでも、愛用者が現れるから不思議だ。


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