川村渇真の「知性の泉」

信じられないドツボな業界ルール


どんな業界でも、外から見ると変なルールがあるものだ。業界の中にいる人は普通だと思っているだけに、何年も続いてしまう。そんなルールの中から、一般人には信じられない奇妙なものを集めてみた。業界の体質を知るうえで貴重な資料となるので、興味のある業界なら特徴をよく理解しよう。


●テレビ局内の優遇制度:高視聴率なら殿様行為もOK

 テレビ局といえば、視聴率が絶対的な価値を持つという非常に特殊な世界。各人の待遇は、担当している番組の視聴率で決まるという、視聴率至上主義を細部にまで徹底している。
 まず給料だが、視聴率が係数になっているため毎月激しく変動する。高視聴率になるとドーンと上がるが、低視聴率だと情けないほど少ない。視聴率が半分になると給料も半分になる厳しいルールなのだ。福利厚生も視聴率と連動し、高視聴率の人ほど休日が多くて、豪華な保養所を利用できる。逆に視聴率が低い人は、用事がなくても休日出勤しなければならない。社内の便所掃除などは外部の業者に頼まず、視聴率が一番低い番組のスタッフが行う。
 視聴率の差は人間関係にも及ぶ。自分たちより視聴率の低い番組のスタッフは、いろいろな用事にコキ使うことができる。昼飯やタバコを買いに行かせたり、駅前で恥ずかしい歌を歌わせたり、近くの川や池に飛び込ませたり、靴を磨かせたり、汚れた下着を手で洗わせたりと、情けない作業をやらせる人が多い。まさに殿様行為だ。視聴率が逆転すれば誰もが反撃に出るので、社内全体では醜い争いが日常茶飯事となっている。各人の視聴率を明らかにするために、スタッフ全員が最新視聴率バッチを付けていて、これが争いを助長させる役目を担う。
 このように、テレビ局で一番重要なのは視聴率なのだ。少しでも低下すれば悲惨な生活になるため、0.1%でも上げようと全員が死にものぐるいで働く。視聴率を高めるためなら、女性のヌードでも何でも登場させるし、プライバシーの侵害なんてのも気にしない。そんな番組が世の中に多いのは、こういった事情が背景にあるからだ。

●役所の野球大会:何が何でも前例重視

 役人の特典は、税金を使って大っぴらに遊べること。役所の野球大会もその1つで、宿泊費や宴会代までも税金でまかなってしまう。役人ならではの特徴は、自分で費用を出さないことだけではない。野球のルールが、一般の人とは大きく異なるのだ。その基本方針は、役人が得意な「前例がないと何でも認めないこと」で、前例のないプレーはすべて無効になる。
 たとえば、1試合で一人が3本のホームランを打つと、今までの最高が一人2本なので、3本目はアウトになる。エラーの場合も同様だ。1試合で一人が4つ目のエラーをしても、前例が3つまでなので、4つ目以降はエラーでなくヒットとして扱われる。デッドボールでも同じで、1試合に一人で3つ目を受けると、3つ目からは普通のボールとして扱われる。面白がって、わざとぶつけるピッチャーまで出る始末だ。個人記録以外にも、チームで何個までとか、試合全体で何個までとか、すべてのプレーが前例と参照される。
 ちょっとでも前例がないと思ったら、審判に文句を言って調べさせる。たとえば、ホームランを打って3塁ベースを踏まなかったら、普通の野球だとアウトになって当然。しかし、打ったチームが「おいおい、前例があるのかっ」と審判に詰め寄り、審判がその場で調べて前例がないと判明すれば、アウトでなくホームランに戻す。こんな進め方に慣れていないと、役所の野球大会の審判は務まらない。
 業界ルールを知らない普通の審判がたまに混じることもあり、「こんなの野球じゃないですよ」と言ってしまう。しかし、役人は「住民が死のうが困ろうが、自然環境が破壊されようが構いません。前例が一番大事なんです」と言い切る。この考え方は、行政にも野球大会にも反映されるので、普通の審判はあきらめて去るしかない。日本の役人の考え方に付いていくのは、普通の人じゃ無理なようだ。

●政治家と官僚の野球大会:問題はすべて先送り

 同じ野球大会でも、政治家と官僚の組み合わせになると、別な特殊ルールが使われる。最大の特徴は、どんな問題でも先送りして傷口を広げることだ。そんな特徴が、野球の試合にも現れる。
 投球がストライクかボールが、デッドボールか当たってないのか、アウトかセーフか、ファールかフェアか、ボークかそうでないのかなど、小さな点でも意見が合わないと、その回は保留として次の回へ移る。たいていは多くの回が保留になるため、次のような結果で終わることがほとんど。

チーム123456789結果
政治家0?0??1?0??
官僚?1??0?1?0?

 こんなスコアなので、最終的にはどちらが勝ったのか不明なのだが、どちらもチームも「今回も本当はウチが勝ったな」と宣言する。どんなに失敗しても負けを認めない点は、普段の仕事はもちろん、野球の試合にも見事に現れている。さすがに、日本の政治家と官僚だ。


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