川村渇真の「知性の泉」

論理的な表現ルールの集まりなので、訓練で習得可能


論理的な表現ルールで構成する

 説明技術は、材料を集めて全体の構成を決める部分と、材料を個別に表現する部分に分けられる。どちらも、論理的なルールとして体系化することが可能だ。これが最大の特徴であり、もっとも重要な点でもある。
 全体の構成を決める部分では、伝えたい内容や目的に加えて、伝える相手の知識や状況も考慮する。その検討結果から、必要となる材料を選び出す。考えられる材料は一覧表の形で用意し、そこから選択できるように整える。また、各材料ごとに、作成のポイント、利用して良い条件、適した表現方法などを定義する。これらを守ることで、適切な表現が可能となる。
 材料を個別に表現する部分では、表現方法ごとにルール化する。文章を作るためのルールは作文技術として、図を作るためのルールは作図技術として体系化する。それぞれの表現方法で、細かな表現ルールを数多く用意し、それを分類して利用しやすく整理する。それと同時に、利用してよい条件なども明記する。
 表現ルールには、特定の使用目的に特化したものもある。基本となる表現ルールをもとに、その目的だけに使える内容に改良したものだ。たとえば、作図技術の基本ルールをもとに、「分かりやすい地図を描くルール」を作成するという具合に、用途もハッキリと明示する。目的を限定した分だけ、目的に適した具体的な表現ルールとなる。これは、使用目的の数だけ作れるので、作成していくとキリがない。とはいうものの、具体的な分だけそのまま使える度合いが高く、容易に使いこなせる。だから、代表的な使用目的だけを選び出し、用意することも必要である。

作業手順も説明技術の重要な一部

 説明技術の中には、表現ルールに加え、それを用いるための作業手順も含める。手順を示すということは、その手順にしたがって作業を進めることで、比較的容易に使いこなせることを意味する。手順がなければ、試行錯誤で作ることになり、出来上がりの質が安定しない。安定してきちんと使えるためには、作業手順が必須といえる。
 とくに重要なのが、全体の構成を決める部分だ。この部分に関しては、どのような手順で作業を進めるかは、もっとも重要な内容といえる。個別の表現ルールなら、それを守るだけである程度の内容を作れる。しかし、全体の構成を決める段階では、単純なルールとしては定義できない。構成を決めるときのガイドラインみたいな内容と、それを活用するときの作業手順を含めて、一定のレベルを満たした技術になる。
 個々の表現技術に中にも、作業手順が含まれる。構成を決める部分ほどではないが、ここでも手順を示し、表現ルールを適切に活用できるようにする。作業手順は、表現ルールを上手に活用するための潤滑油として役割も果たす。

訓練で習得が可能

 説明技術が論理的なルールと作業手順の集まりであるから、それを知っただけで活用できる人もいる。しかし、たいていの人は、知ったからといって使いこなすことはできない。他の技術と同じように、何度か練習するうちに使いこなせるようになるのが普通だ。
 もっとも理想的な訓練方法は、マスターした人に添削してもらうことだろう。どんな内容を伝えたかったのかを話し、作成した内容が話と一致しているかどうかを評価する。そのうえで、どのように直したら的確に伝えられるかを指導する。このような訓練を繰り返せば、効率よく説明技術をマスターできるだろう。

教育カリキュラムも必要に

 マスターした人が教える方法は、一度に教えられる人数が限られるため、教える側から見ると、どうしても非効率になりがちだ。そのような人は人件費も高いだろうし、コスト面でもバカにならない。
 その点を少しでも改善するためには、自習式の教材を用意するしかない。たんに教材を作るだけでなく、きちんとした教育カリキュラムを最初に設計し、それに合わせた形で教材を作成する。各勉強段階での学習内容を明確にし、それがマスターできたかどうかの自習試験も加える。暗記中心の学習内容と違って、教材や試験を作るのは難しいだろうが、無理な話ではない。
 教材で自習してもマスターできない人だけ、人に教えてもらうことにすれば、より多くの人が効率的に説明技術を覚えられる。このような面で充実させることも、説明技術のように将来にわたって重要視すべき分野では大切なことだ。

(1995年6月29日)


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