川村渇真の「知性の泉」

ごまかすのではなく、正確に伝える技術


内容の欠点も、そのまま伝わる

 上手な説明技術と聞くと、内容をより良く見せるための技術だと勘違いする人が多い。これは大きな間違いだ。説明技術の基本は、どのように表現したら内容を的確に伝えるかである。だから、より正しく伝えるための技術であり、説明内容が持つ欠点まで含めて、明確に伝わる。けっして、ごまかすための技術ではない。  この特徴は、よく考えてみると理解できる。実際の内容より良く見せるのは、巧妙に内容をぼかして、ごまかす技術だ。ぼかすための方法は、説明技術と相反するものである。説明技術では、内容をきちんと理解できるように表現するのであるから、内容の良い面も悪い面も出てしまう。分かりやすさに加え、正確さも説明技術の重要な点だからだ。内容が悪ければ、どの程度悪いのかまで含めて、的確に表現してしまう。

相手のごまかしを見破りやすくなる

 上手な説明技術を知ると、誰かに説明された内容が理解できないときに、説明方法が悪いのだと気付くようになる。その場合、適切な方法で説明し直すように求めることもできる。すると、改善した方法での説明によって、内容をより正確に分かるようになる。
 適切な説明方法を指示できるようになると、相手がごまかそうとしているときに、だまされにくくなる。内容が分かりにくいなら、別な方法で説明するように指示するからだ。説明技術を教えながら、まとめ直させることで、相手が伝えたい内容の欠点も見えるようになる。
 説明のし直しを相手が拒んだり、理解しにくい説明を何度も繰り返す場合は、ごまかそうとしているなと疑うようにもなる。「それは表現方法が悪いから、内容を正確に読みとれません。○○の方式で表現し直すと、こうなると思いますが、これでいいんですか。もし違うなら、あなたが○○方式で表現してみてもらえませんか」などと議論を進められる。また、相手の言いたいことがまったく理解できない場合でも、相手への的を射た質問により、相手の質問内容を聞き出しながら、説明技術を用いて自分がまとめ直せる。それを見せながら、内容が合っているかどうか尋ねることも可能だ。きちんとした説明技術で表現し直すことで、ごまかそうとした内容の欠点も浮き彫りになるため、上手に使えば、相手のごまかしを見破れる。

話のトリックも見破れる

 自分にとって都合のよい方向へ話を進めるために、言葉のトリックを用いるケースがある。これを見破るのにも、説明技術が役立つ。
 説明に用いる材料の例として、比喩を考えてみよう。説明技術では、比喩を上手に作る方法に加えて、比喩を利用してよい範囲も明確に定義する。比喩を用いる目的は、理解しやすく説明することだ。もとの対象物に関する説明だけでは理解しにくいとき、比喩を用いてイメージが持てるようにする。このような理由から、比喩を用いるときは、あくまで理解を助ける目的だけに限定すべきである。
 ところが、多くの人は、物事を評価する目的にも比喩を用いる。もとの対象物の特徴を説明するために比喩を持ち出し、次に比喩の特徴を評価することで、もとの対象物の良し悪しまで評価を下す。これこそ話のトリックの1つで、自分に好都合な結論を導くために、多くの人が用いている。もとの対象物の評価を良くしたい人は、比喩として評価が良くなるものを選び、比喩の特性を誉めることで対象物の評価を上げる。逆に評価を悪くしたい人は、別な比喩を用いることで対象物の評価を下げる。もし比喩の利用方法や限界を知っていれば、「それは比喩の特性であって、もとの対象物の特性ではありません。もとの対象物自体を評価しないと、その話は論理的に成り立たちませんけど」と反論できる。
 このような形で、話のトリックが見破れるわけだ。これは比喩の例だが、同じようなことは他の材料にもいえる。説明技術により、何種類もの材料の使い方をマスターすれば、より多くのケースで話のトリックを見破れるようになる。

質の高い議論を実現できる

 説明技術によって、物事を分かりやすく伝えられるため、議論も的を射たものになりやすい。また、前述のように、話のトリックでごまかそうとする人を見破れるので、議論が悪い方向へ進むのも防げる。この両者の効果によって、より質の高い議論が可能だ。説明技術のマスターは、議論にも大きなメリットをもたらす。

(1995年6月29日)


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