川村渇真の「知性の泉」

説明技術の基本構成を考える


分かりにくい理由を5つに分解

 説明技術の最大の目的は、できるだけ分かりやすく伝えることである。それを実現するための条件を整理するには、分かりにくい原因を広範囲に分析するのが一番だ。一見すると遠回りのように感じるかもしれないが、いろいろな方向からアプローチした結果、説明技術の基本構成を得るためには、分かりにくい原因の分析がもっとも効果的だった。
 分かりにくいと一言で表現するが、その理由は1つではない。よく考えると、いろいろな原因が複合して、分かりにくさを形成している。それを分解すると、以下の5つに分けられる。

1、ピンぼけ:主旨が明確に絞られていない
      (または、相手が知りたい内容からずれている)
2、要素欠け:説明に必要な要素が揃っていない
3、悪い構成:要素の並び順が悪いために、理解しにくい
4、方法不適:文章や図などの説明に用いた方法が、内容に適していない
5、図文下手:文章や図の使い方が下手で、内容が分からない

 一番上のピンぼけは、書く側の主旨がきちんとまとまってないとか、読む側が希望する内容に沿ってないとかで、説明内容のもっとも重要な部分だ。とくに注意すべきなのは、読む側の要望である。何かをまとめるように求められるとか、知りたいことを尋ねられたときなど、相手が求めている範囲などを的確に把握できなければ、回答としての価値は低くなる。ただし、これは、結論を相手に合わせるという意味ではない。説明する内容の範囲を、相手の要望に合わせるのであって、結論は書く側の視点で決めるべきだ。
 2番目の要素欠けも、基本的な問題の1つだ。どんなテーマであっても、この点だけは触れてほしい項目というものがある。たとえば、新製品の性能を説明する場合、競合製品との比較は必ず入れるだろう。性能の説明ならば、目的を明確にしやすい内容なので、重要な要素が欠けることは少ない。しかし、人権問題などの複雑な問題は、論点をかなり絞ったとしても、どんな要素が必要かを考えるのは難しい。反対意見への反論も1つの要素として考えられるが、これを含めるかどうかは論旨にも深く関係し、簡単には判断できない。どんな要素が必要かは、誰に対して説明するかでも異なるだけに、判断をより難しくする。必要な要素が欠けると、何を言いたいのか伝わらない可能性が高くなる。
 他の3つの原因に関しても同様だ。説明技術を解説する段階で、次第に明らかになるだろうから、細かな説明は省略する。

各理由に対応させて説明技術を構成

 分かりにくい原因を解消することは、説明技術を構築する1つの方法であり、かなり有効な方法でもある。これら5つの原因に1対1で対応するように、説明技術の構成を考えたら、かなり上手く整理できた。前述の5つの原因は、デタラメに並べたわけではない。より重要な項目を上に位置してあるとともに、説明技術の基本構成の並びに揃えたのだ。というわけで、説明技術の基本構成は、次のようになる。

説明技術の基本5要素

 どんな説明内容でも、この基本要素を満足すれば、ある程度の分かりやすさを確保できるはずだ。これら基本要素に含まれない分かりやすく作る工夫も、この中に盛り込めばよい。これを基本にすれば、分かりやすく説明する技術を統合できる。
 5つの構成要素の並び順は、作業工程を意識して決めてある。上から順番に作業を進めることで、説明内容を段階的に作成できる。つまり、5つの構成要素は、5つの作業工程でもあるのだ。上から順番に作業を進めて、説明内容を作る。手順というのは非常に重要で、ある程度の質を安定して保つための基礎となる。また、手順が決まっていることは、説明技術をマスターしやすくして、より多くの人が活用するための基礎となる。

5つの要素ごとに異なるノウハウがある

 洗い出した5つの構成要素は、それぞれの性質も異なり、別々のノウハウが含まれる。構成要素ごとの目的や内容を、簡単に説明しておこう。
 1番目の主旨決定では、説明内容の主旨を明確に定めることが目的だ。主旨がハッキリしていないと、伝えたいことがまとまらず、わかりやすく説明しようがない。主旨に関しては、自分だけで決められない場合もある。報告書や分析結果の作成を誰かに依頼された場合は、読む側が希望する範囲内で、説明内容を作成しなければならない。そのときは、希望する方向を見定めて、それから外れないように主旨を決める必要がある。
 2番目の要素洗出しでは、主旨を明確に伝えるために、どのような要素が必要かを考える。要素となるのは、目的、実例、基本となる論理、前提条件、実施計画、評価基準など、数多く挙げられる。説明が非常に長い場合は、要約を付けることも必要で、この要約も要素の1つである。説明の対象となる内容や決めた主旨によって、どのような要素が必要かが決まる。一般的な要素選択の法則とともに、例外での要素追加の法則も加わる。
 3番目の構成決定では、選択した要素を、どのように並べたらよいかを決める。並び順が悪いと、最初のうちは何の話なのか分からず、途中で「なーんだ。あの話かぁ」と気付くことになる。こんなことが起こらないように、よく考えて構成を決めるわけだ。
 4番目の表現選択では、選択した要素ごとに、どのような表現手段が適しているかを決める。文章が良いのか、図で表したほうがよいのか、きちんとした理由をもとに選ぶ。この部分もかなり重要で、適切な表現手段を用いると、分かりやすさが格段に向上する。もっとも目に付く悪い例は、何でも文章で表すものだ。文章が作りやすいことと、図を使い慣れてないことが理由だろうが、分かりにくい内容を作り出す原因でもある。図を上手に使うことは、説明技術の重要な要素であり、それをマスターするだけで、分かりやすさはかなり向上する。
 5番目の部分作成では、文章や図や映像といった表現手段ごとに、どのようなことを考慮して作成したらよいかをまとめる。説明技術の量としては、この部分が一番多く、表現手段ごとに違ったノウハウがある。表現手段別に独立していて、お互いに関係する部分は少ない。ただし、文章だけは特別な存在で、図や映像の中で言葉や文章が使われるため、これらの表現の中には、文章の表現ノウハウが活かされる。また、単に文章と表してはいるが、短い言葉だけの表現や階層的な箇条書きなど、通常の文章以外の表現方法も含んでいる。文章と言ってはいるが、言葉にかかわる表現方法がすべて対象となる。

上位の構成要素は、内容の充実と密接に関係

 説明技術の構成要素のうち、上位に並ぶものは、内容の充実方法と密接に関係している。とくに主旨決定と要素洗出しの2工程で、これらは内容をよく検討する作業の一部でもある。
 説明方法と内容充実方法を明確に分けることは、もともと無理なのだ。とはいうものの、両者が持つ性質はかなり異なるため、別々に構築したほうがやりやすい。構築するのは別だとしても、学習する側からすれば、体系化されて1つに統合されていたほうが勉強しやすい。内容充実方法を本格的にやると難しいので、説明技術の紹介の中では、内容充実方法の一部だけを含めて解説することにする。

これ以降の展開としては、基本構成要素ごとに、だんだんと詳しく解説していきたい。

(1995年8月4日)


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