川村渇真の「知性の泉」

依頼引受技術:組織での作業の質と効率を高める


大まかな目的:下手な依頼による失敗や無駄を減らす

 チームのように何人かが集まって作業するとき、一部の作業を誰かに依頼することがよくある。典型的なのは、上司から部下への依頼だ。それ以外でも、組織内の別な部署に依頼するとか、外部の企業に発注するとか、知り合いに頼むとか、作業を依頼する機会は意外に多い。
 依頼した作業を上手にこなすためには、依頼する側と引き受ける側の両方で、要点を押さえて進めなければならない。依頼する側では、依頼相手の選択から始まり、依頼前の準備、依頼内容の伝達、途中での確認、終了の判断などがある。引き受ける側でも、依頼内容の評価から始まり、引き受けの判断、受け取る資料の確認、途中の報告、最終的な報告と受け渡しがある。また、依頼内容を途中で変更するとき、間違いがないような方法で管理しなければならない。こうしたことを実現できるようにするのが、依頼引受技術だ。
 基本的な考え方として、依頼側も引受側も作業の質が高まることを目指す。依頼する側では、依頼内容ができるだけ成功するように、良い形で依頼できる能力を身に付ける。引受側も同様で、受けた内容ができるだけ成功するように、作業の進め方などが習得できる。
 残念なことだが、世の中には、テキトーに手を抜いてうまい汁を吸おうという人がいる。こうした相手が好き勝手できないような工夫も、いくつか組み込んである。重要な項目を規定することで、悪い相手に強いプレッシャーを与え、良い仕事を要求する形になっている。また、悪い相手はキチンとした規定を嫌がるため、それを発見する効果もある。

期待される効果:余計な作業やトラブルが減る

 実社会で仕事の現場を見ていると、上司から部下へ作業を依頼することがよくある。その場合、上司の依頼の仕方が下手なために、部下が余計に苦労する状況が意外に多い。しかし、怒られるのは部下の方で、たまったものではない。依頼引受技術を上司が理解すれば、こうした理不尽な状況はなくせる。
 別な部署や会社への依頼では、もっと大きな効果を発揮する。最終的な作成物の一覧と各形式を明示し、適切に整理された依頼内容を提供することで、勘違いによる無駄な作業や余計なトラブルを防げる。最終的な作成物を明示しないと、最後の段階で慌てて作る羽目になり、納期を守るために手を抜いた内容になりやすい。こうした防げる損は、上手な作業方法で取り除くのが賢い選択だ。
 最終作成物の検査方法を事前に規定することで、作成者に質の高い作業を求める。また、途中の報告を定期的に実施し、作業の遅れを早めに発見する。さらに、依頼内容の変更を的確に管理して、間違った修正が起こらないようにする。
 こうした工夫を身に付けることにより、余計な作業やトラブルが減る。全体の効率が向上するだけでなく、より良い作成物が得られやすい。世の中では数多くの依頼が行われているので、習得した人が増えるほど、全体での効果は大きくなる。

依頼引受技術の概要:依頼と引受の作業を総合的に扱う

 依頼引受技術では、上司から部下へ与えるような簡単な依頼から、正式な契約書を交わして外部に依頼する本格的な内容まで、幅広い依頼作業を対象とする。また、依頼作業だけでなく引受作業も取り上げ、両方の立場で能力を高めることで、最良の仕事ができる能力を習得させる。
 依頼作業では、事前の準備が意外に重要だ。依頼者が依頼内容を整理してから頼まないと、依頼内容の伝達が非効率で不完全になりやすい。依頼内容の整理では、以下のような点を明らかにする。かなり本格的な依頼の場合も含めてある。

依頼する前に明確化すべき点(広い視点で挙げたもの)
・依頼範囲:どの範囲の作業を頼むのか(必須)
・相手条件:依頼する相手に必要な、能力などの条件
・引渡資料:依頼する際に渡すべき資料や道具(必須)
・最終成果:最終的に収める作成物と形式を全部を挙げる(必須)
・終了基準:作成物が出来上がったと判断する基準(必須)
・期待レベル:できれば実現して欲しいと期待するレベル
・検収後渡:最終成果を検収した後で何を渡すか
・作業日程:いつまでに仕上げるのか(必須)
・中間報告:どんな時期に、どんな内容を報告すべきなのか
・中間成果:途中段階での提出物と提出時期
・変更手順:依頼内容を変更するときの手順とルール
・問題対応:何か問題が発生したときの手順とルール
・契約方式:正式な契約で用いる依頼方式
・作業方式:作業場所や割り当て時間などを事前に決める
・報酬支払:報酬の計算方法と、支払い時期や方法

 この項目を見れば、依頼作業でどんな点に注意すべきなのか、大まかに見えてくるだろう。なお、「必須」と付いているのが、どんな簡単な依頼でも絶対に明らかにすべき項目である。他の項目は、依頼する内容によって必要かどうかが決まる。
 何かを依頼するとき、無条件に引き受けなければならない場合と、引き受けるかどうか自分で選べる場合がある。前者は、上司が部下へ依頼するケースで、部下が断れる可能性は少ない。後者は、外部への依頼などが該当し、依頼側と引受側の交渉によって、依頼するかどうか(または引き受けるかどうか)が決まる。通常は後者の方が大変で、より多くの手順を含んでいる。
 当然、依頼側が適切な引受相手を選んだり、引受側が引き受けるかどうか検討して断ったりする。依頼引受技術では、こうした依頼側と引受側の両方を扱う。別な作業の流れになるので、両方を学びながら、依頼と引き受けの技術を幅広く習得する。
 まず、依頼側の作業の流れは、大まかにだが次のようになる。上司から部下への依頼といった簡単なものではなく、少し正式な依頼を想定している。

依頼作業の基本的な流れ(少し正式な場合)
・依頼内容の整理と準備
・引受相手の選択と、引受相手への打診
・(必要なら)事前の打ち合わせ
・依頼時に渡す資料の準備
・正式な依頼と資料渡し
・(任意)途中の報告を受ける
・(任意)依頼内容の変更
・作成物の受け取りと検査
・(必要なら)修正した作成物の受け取りと検査
・引受相手への結果報告

 これを見れば、依頼作業がどのようなものか分かるだろう。こうした作業が適切に行えるように、各工程で求められる能力を身に付ける。何を検討し、どのような形でまとめるのか、具体的に作れるようにする。引受側の作業の流れも、同じようにまとめると次のようになる。

引受作業の基本的な流れ(少し正式な場合)
・依頼内容の検討と、引き受けるかの判断
・(必要なら)事前の打ち合わせ
・正式な引き受けと資料の受け取り
・受け取った資料の検査と検討
・引受作業を進める
・(任意)途中の報告を送る
・(任意)依頼内容の変更
・納入物の整理と検査
・作成物の納入と内容説明
・(必要なら)修正した作成物の納入と内容説明

 こちらも引受作業がどのようなものか、大まかに分かるだろう。依頼側と引受側の作業は関係があるので、両方を学ぶことにより、どちらの作業も上手にこなせる能力を身に付ける。また、相手の悪い作業を見極められることにもなり、トラブルの早期発見や防止に役立つ。もちろん、良い相手を見付けることにもつながる。

教育内容の構成:やや厳密な手順の習得を重視する

 依頼といっても、その内容はいろいろある。習得しやすいように考慮し、簡単な依頼内容から始めて、段々と複雑な内容へ進むのが理想だ。しかし、依頼引受技術の場合は、それが適用しにくい。簡単な依頼のときでも、考慮すべき要素を削るのではなく、各要素の内容を簡単に済ませるのが基本だからだ。
 仕方がないので、作業に必要な技術の習得を大まかに2分割した。最初は、依頼と引き受けの基本を知るために、基本的な考え方、依頼作業の流れ、引受作業の流れを学習する。やるべき作業の全体像を知ってもらうための内容だ。
 続けて、実際に必要な技術を学ぶ。簡単な依頼ではなく、やや厳密な依頼を前提にして、正しい作業の手順や方法を習得してもらう。やや厳密な作業手順の方が、質の高い能力を身に付けられるからである。含まれる内容は、依頼側だけの作業、引受側だけの作業、両方まとめて説明する作業の3つに分けられる。
 簡単な依頼での省略方法などは、やや厳密な依頼を学んだ後で取り上げる。こうした考えで整理したのが、以下のような教育内容の設計例である。

体系化した依頼引受技術の教育内容の設計例
・依頼と引き受けの基本
  ・依頼と引き受けの基本的な考え方
  ・依頼作業の基本的な流れ
  ・引受作業の基本的な流れ
・依頼と引き受けに必要な作業
  ・依頼側:依頼内容を依頼前に検討する
  ・依頼側:依頼時に明示すべき項目を決めて求める
  ・依頼側:納入された最終作成物を検査する
  ・引受側:依頼内容を検討して引き受けるか判断する
  ・引受側:最終作成物の作成手順と納入
  ・両方:打診時および依頼時の打合せ手順
  ・両方:作業途中の報告と進捗管理
  ・両方:依頼内容の変更手順と管理方法
・応用や注意点など
  ・部下への依頼などでの上手な省略方法
  ・外部へ正式に依頼する場合の注意点
  ・その他、特殊なケースでの考慮点

 全体が大きく3つに分かれていて、前側の2つが実際の作業に必要な技術で、3つ目が補足となる応用や注意点を含む。上司から部下への依頼のような簡単な内容は、やや厳密な手順を上手に省略する方法として説明してある。逆に、外部へ正式に依頼する場合は、やや厳密な手順に注意点を加えた内容となる。
 後述するように、依頼引受技術は上級に属する内容である。そのため、やや厳密な依頼を基準にしても、あまり問題にならないと判断した。

段階分けされた教育内容:習得しやすい順に並べて練習を追加

 前述のように大きく3つに分けた教育内容をもとに、教育しやすい段階に分けた教育内容として設計する。基本的な流れは3分割で変わらないが、分割した中の順序は習得しやすい流れに変更した。また、学習の重要な区切り箇所には、実際の課題で練習する段階を挿入してある。このようにして設計したのが、以下の例だ。
 まず最初に、依頼と引き受けの基本的な考え方(A)を理解させる。続けて、依頼作業に含まれる基本的な要素と流れ(B)、引受作業に含まれる基本的な要素と流れ(C)を教える。ここまでの段階で依頼引受技術教育の概要が分かるため、簡単な課題を用いて依頼引受作業を体験してみる(D)。だいたいの作業の流れを知ることだけでなく、細かな部分の作成は意外に難しいと感じさせる効果も狙っている。

依頼引受技術教育の段階分けの設計例
A:依頼と引き受けの基本
  ・A01:依頼内容を成功させるために必要な意識
  ・A02:引き受けた内容を成功させるために必要な意識
  ・A03:依頼先として適切な相手を選ぶ
  ・A04:必要な情報を提供して無駄な苦労を減らす
  ・A05:最終作成物の種類と形式を明確化して勘違いを防ぐ
  ・A06:依頼内容などを文書化して余計なトラブルをなくす
  ・A07:途中段階の的確な報告で失敗を早めに見付ける
  ・A08:最終作成物の検査で出来上がりの質を高める
  ・A09:依頼内容の変更を的確に管理してミスを防止
  ・A10:問題発生時の対応を事前に決めて遅れを減らす
B:依頼作業の基本的な要素と流れ
  ・B01:依頼内容の整理と準備
  ・B02:依頼相手の選択と相手への打診
  ・B03:事前の打ち合わせ
  ・B04:依頼時に渡す資料の準備
  ・B05:正式な依頼と資料渡し
  ・B06:途中で報告を受ける
  ・B07:依頼内容の変更と注意点
  ・B08:作成物の受け取りと検査
  ・B09:依頼相手への結果報告
C:引受作業の基本的な要素と流れ
  ・C01:依頼内容の検討と、引き受けるかの判断
  ・C02:事前の打ち合わせ
  ・C03:正式な引き受けと資料の受け取り
  ・C04:受け取った資料の検査と検討
  ・C05:引受作業を進める
  ・C06:途中の報告を送る
  ・C07:依頼内容変更の検討と回答
  ・C08:納入物の整理と検査
  ・C09:作成物の納入と内容説明
D:簡単な依頼引受作業の練習
  ・DAxx:依頼側(Bと同じ内容なので省略)
  ・DBxx:引受側(Cと同じ内容なので省略)
E:依頼側:依頼する前に検討すべき点
  ・E01:依頼する内容の範囲
  ・E02:作業の主な目的と満たすべき条件
  ・E03:最終的な作成物と付属物の形式
  ・E04:作業に必要な技術や資料
  ・E05:作業のスケジュール
  ・E06:依頼相手の条件と選択方法
  ・E07:作成物の検査方法
  ・E08:内部作業と外部作業の比較検討
  ・E09:以上の内容のまとめ方
F:依頼側:依頼時に明示すべき項目
  ・F01:依頼内容の目的
  ・F02:最終的な作成物の一覧と各形式
  ・F03:作成物の良し悪しの判定方法
  ・F04:作業スケジュールと最終期日
  ・F05:途中経過報告の方法と時期
  ・F06:依頼に関わる条件や制限事項
  ・F07:予想される問題点とそれに対する期待結果
  ・F08:依頼内容の変更手順とルール
  ・F09:問題発生時の検討や解決の方法と手順
  ・F10:以上の内容の上手な整理方法
G:引受側:依頼内容の検討と引受判断
  ・G01:依頼内容を検討するための情報整理方法
  ・G02:検討で不足する情報の洗い出し方法
  ・G03:検討要素:自分たちが実現可能かどうか
  ・G04:検討要素:スケジュール内に終了可能かどうか
  ・G05:検討要素:ビジネス面で引き受けて良いかどうか
  ・G06:最終的な判断の決定方法
  ・G07:条件変更で対応できる場合の交渉方法
H:引受側:最終作成物の作成手順
  ・H01:工程:最終的な作成物と各形式の明確化
  ・H02:工程:作成物ごとの必要技術や材料の洗い出し
  ・H03:工程:作成物ごとの作業工程の分解
  ・H04:工程:作成物または作業ごとの担当者の決定
  ・H05:工程:作業の開始と進捗管理
  ・H06:工程:作成物の評価と修正
  ・H07:工程:納入する作成物の整理
  ・H08:納入後の検査不合格での対応
I:依頼側:最終作成物の納入と検査
  ・I01:納入品が規定どおり揃っているか調べる
  ・I02:揃ってない場合の通知内容と対処方法
  ・I03:納入品ごとに規定の検査を実施する
  ・I04:検査結果のまとめ方と通知方法
  ・I05:検査で問題があった場合の対処方法
  ・I06:作成物の最終評価のまとめ方と通知方法
J:作業途中の報告と進捗管理
  ・J01:途中報告に関する考え方
  ・J02:報告の形式と頻度は事前に決めておく
  ・J03:問題を早目に発見しやすい報告項目の選び方
  ・J04:必要に応じて途中段階をデモする
  ・J05:デモが難しいなら設計内容の評価で補う
  ・J06:予定より遅れた場合の基本的な対処方法
K:打診時および依頼時の打合せ手順
  ・KA01:打診時:依頼候補の順番決定と依頼行動
  ・KA02:打診時:依頼の打診方法と提供情報
  ・KA03:打診時:提供情報の評価と追加要求
  ・KA04:打診時:条件交渉と引受判定
  ・KB01:依頼時:依頼内容の詳しい説明
  ・KB02:依頼時:依頼資料の整理と渡し方
  ・KB03:依頼時:依頼引受条件の確認
  ・KB04:依頼時:スケジュールや連絡方法の決定
  ・KB05:依頼時:両者による決定内容の確認
L:依頼内容の変更手順と管理方法
  ・L01:工程:依頼内容の変更は記録に残る形で渡す
  ・L02:工程:変更ごとに検討して結果を返す
  ・L03:工程:検討結果を見て最終的な変更を決める
  ・L04:工程:必要に応じてスケジュールを見直す
  ・L05:工程:変更の失敗は新たな変更で対処する
  ・L06:管理:変更ごとに日付とIDを付けて管理する
  ・L07:管理:変更ごとに進捗状況を管理する
  ・L08:管理:依頼内容が複雑なら機能IDを付けて管理する
M:少し本格的な依頼引受作業の練習
  ・主な練習内容
    ・MA01:依頼側:依頼内容の把握と整理
    ・MA02:依頼側:依頼用の資料作り
    ・MA03:依頼側:引受相手の選択と打診
    ・MA04:依頼側:引受相手との打合せ
    ・MA05:依頼側:作業途中での報告を受ける
    ・MA06:依頼側:依頼内容の変更依頼
    ・MA07:依頼側:最終作成物の評価と修正依頼
    ・MA08:依頼側:作成物の評価を引受相手に連絡
    ・MB01:引受側:依頼内容の整理と資料要求
    ・MB02:引受側:依頼内容の検討と引受判定
    ・MB03:引受側:依頼相手との打合せ
    ・MB04:引受側:受け取った資料の検討と資料要求
    ・MB05:引受側:作業工程の洗い出しと担当者決め
    ・MB06:引受側:作業途中での報告とデモ
    ・MB07:引受側:最終作成物の検査と整理
    ・MB08:引受側:作成物の納入と内容説明
    ・MB09:引受側:作成物の修正と内容説明
  ・練習相手は2段階で
    ・教師:計画済みの回答が得られる相手と練習
    ・学習者同士:依頼側と引受側に分かれて練習
N:部下への依頼などでの上手な省略方法
  ・N01:どの要素も削らず簡単に済ませるのが基本方針
  ・N02:重要情報は記述して渡し、それ以外は口頭説明で済ます
  ・N03:依頼内容を理解しているか、質問をして確かめる
  ・N04:途中の作業状況を確認し、必要な対処を早めに打つ
  ・N05:おまけ:部下の成長を考慮した作業割り当て方法
O:外部へ正式に依頼する場合の注意点
  ・O01:外部へ依頼するときの基本的な考え方
  ・O02:依頼先の能力の見極め方
  ・O03:優秀な依頼先との上手な付き合い方
  ・O04:悪い相手にだまされないための相見積り方法
  ・O05:最終作成物の納品方法
  ・O06:最終作成物の検査方法と判定方法
  ・O07:中間報告の方法と作成物の途中デモ
  ・O08:依頼内容の変更手順
  ・O09:納期遅れなどのトラブルへの対処方法
  ・O10:納入後に発生した問題への対処方法
  ・O11:報酬の計算方法と支払時期
  ・O12:依頼内容変更やトラブル時の報酬計算方法
  ・O13:正式な契約での注意点
P:特殊なケースでの考慮点
  ・P01:依頼側が依頼内容に関して詳しくない場合
  ・P02:最終作成物の形式を依頼側が規定できない場合
  ・P03:作成物の良し悪しを依頼側が判定できない場合
  ・P04:作成物の状態を途中で見たい場合
  ・P05:作成がスケジュールより遅れた場合
  ・P06:作成物の品質が低すぎる場合
  ・P07:納入から時間が経過して問題が発生した場合
  ・P08:その他の問題を対処するときの考え方

 次は、やや厳密な依頼内容での作業方法の習得だ。まず依頼側の作業として、依頼する前に検討すべき点とまとめ方(E)と依頼時に明示すべき項目と整理方法(F)を学んでもらう。続けて引受側に移り、条件変更の交渉まで含んだ依頼内容の検討と引受判断(G)と、最終作成物の作成手順や整理方法(H)を取り上げる。次に依頼側へ戻り、最終作成物の納入と検査方法(I)を教える。ここまでで、依頼引受作業の主な要素を理解できる。
 実際の作業では、思い通りに進まないことがよくある。そんな状況にも対応できるように、作業途中の報告と進捗管理(J)、打診時および依頼時の打合せ手順(K)、依頼内容の変更手順と管理方法(L)を用意してある。これらがこの位置に来ているのは、依頼引受作業の主な要素を知った後の方が、より深く理解できるからだ。たとえば打合せなら、扱う内容を知っていないと、意味や重要性が分からない。
 この後で、現実に近い課題を与えて、習った内容を実際に試す(M)。依頼側でも引受側でも練習相手が必要で、最初は教師が担当する。教師は、わざとダメな結果を渡すなどして、敬作されたとおりの相手を演じる。このおかげで、何種類もの状況を経験できる。ひととおりの状況が試せた後で、別な学習者を相手に練習する。こちらの方は、両者とも可能な限り良い結果を目指す。期待されたレベルに達するまで、何度も繰り返して練習する。
 後は、ここまで学んだ内容の応用に移る。部下への依頼などでの上手な省略方法(N)では、細かな書類などを作らないで、ポイントだけ押さえた簡易的な依頼方法を知る。もっと本格的な依頼にも対応できるように、外部へ正式に依頼する場合の注意点(O)を取り上げる。最後に、特殊なケースでのいろいろな考慮点(P)で、扱わなかった状況へも対応できるようなヒントを知ってもらう。ここまで達すれば、たいていの内容を適切に依頼できる能力と、引き受ける能力が身に付くだろう。

教材や教育方法:各工程で作成する良い資料が重要

 依頼引受技術の教材で重要なのは、各工程で作成する資料である。どの資料でも、どんな項目が含まれていて、どのように記述するのかが分からないと、実際の作業は進まない。具体的な内容でないと意味がないので、現実に使えるレベルの書式を設計し、依頼引受技術の標準書式として位置付ける。この教科で作成する全部の書類が対象だ。
 標準書式では、いろいろな依頼内容に対応できるように、少し多めの項目を含ませる。依頼内容によっては、使わない(記述しない)項目もある。書いた方がよい項目が全部用意されていることの方が重要だ。また、必ず記入すべき項目は強調して明示しておく。
 こうして設計した書式を用い、実際の依頼内容を取り上げた記述例を数多く用意する。特徴の異なる依頼内容を集め、それぞれ必要な項目に記述する。記入が必須でない項目は、なぜ記述したのか、どのように記述するのかを説明し、記入例の意味が分かるような解説を付ける。こうした例を何種類も見れば、記述方法はもちろん、依頼引受技術の内容も理解が深まるはずだ。
 段階分けした設計例では、練習が2つのレベルに分かれている。後ろ側の練習(M)は、やや厳密な依頼内容を取り上げるので、実際に使う書式をそのまま用いて構わない。しかし、前側の練習(D)では、大まかな流れと要点だけ扱うので、項目数の多い書式は適さない。そのため、正式な書式から最小限の項目だけ抜き出し、簡易的な書式も用意する。前側の学習や練習では、こちらの簡易書式を用いる。簡易書式に入れる項目は、教育内容に合わせる。当然ながら、サンプルもいくつか用意して、自分で作るときの参考にしてもらう。後で本格的な作業方法へ進むので、それほど数多く用意しなくても大丈夫だ。
 サンプル以外にも、正しい記述方法を説明した資料を、書式ごとに用意する。記述方法が詳しく説明してあれば、書式を実際に利用して迷ったとき、書き方を決める判断材料となる。どんな書式でも、記入方法の説明を一緒に作るのが当たり前なので、もともと作らなければならないものであるが。
 途中の作成物まで含めて標準書式を用意するため、教える側も学ぶ側も容易になる。記述や整理で迷わずに済む分だけ、本来の作業である依頼や引き受けの質を向上させることに集中しやすい。教師は、そこに重点を置きながら教育することになる。

他の教科との関連:計画技術や管理技術を習得した後に

 依頼引受技術は、実際の仕事に近い領域を扱うため、かなり上級に位置づけられる。事前に習得しておくべき教科としては、いくつも挙げることができる。その中でも、計画技術、管理技術、検査技術、報告技術、質問回答技術は必須となる。もちろん、作文技術のような基礎的な教科の修得は必須といえる。
 ただし、検査技術や報告技術などは、細かい部分まで習得している必要はなく、大まかな手順や要点を理解しているレベルで構わない。そのため、これらの技術の基礎だけを習った後で、学習し始めることも可能だ。ただし、計画技術と管理技術だけは、十分に習得してからでないと、依頼引受技術の学習効率が低下しやすい。
 計画技術と管理技術は後の方で学習する教科であり、その後に勉強するとなると、必然的に依頼引受技術は上級の教科という位置付けとなる。パッと見には難しく感じる内容だが、計画技術と管理技術を習得した後なら、あまり難しい内容でないと思うはずだ。

(2001年5月3日)


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