川村渇真の「知性の泉」

報告技術:的確な報告で対話や作業の質を向上させる


大まかな目的:報告すべき内容を的確に伝える

 報告技術とは、誰かに何かを報告する際に、内容を的確に伝えるための技術である。伝えるべき報告内容をどのように作ったらよいのか、どういう方法で伝えたらよいのかが中心となる。また、一連の作業が終わるまで何回も報告するが、そうした連続した報告の進め方も対象とする。
 報告内容を良くするためには、単に書き方を工夫すればよいわけではない。どんな内容を含めれば良いのか、それがどんな形で得られれば良いのか、得られた内容をどんな形式でまとめればよいのかまで含む。さらに、どんな方法で伝えればよいのか、どんなタイミングで報告すればよいのかなども扱う。
 報告すべき対象や報告自体が、常にうまくいくとは限らない。報告対象がよく分からなかったり、報告した内容が間違いだと判明したときなどは、それぞれに適切な行動を取る必要がある。こうした状況での対処方法も、報告技術の中に含める。
 以上のように、報告に関わる全般的なことを扱う。作文技術や調査技術などと重複する部分も少しあるが、どちらにも含まれず漏れる状況よりはよいので、重複する部分も少し含んでいる。

期待される効果:対話や作業の質が向上

 複数の人が一緒に作業する場合、自分のやったことを報告する機会は多い。もっとも典型的なのは、部下から上司への報告である。上司は報告内容をもとに、今後の仕事の進め方や問題への対処方法を決定する。それだけに、報告内容の質は非常に重要だ。
 報告書として公開するときも、不特定多数を相手にした報告といえる。この場合も、報告書に書かれた内容の良し悪しによって、より多くの人に役立ったり、逆に間違った悪影響を与えたりする。
 どんな形であれ、報告というのは対話(コミュニケーション)の1つだ。しかも世間話とは違い、報告する内容は意思決定や活動計画に利用される。適切に報告できなければ、無駄な時間を使わせるだけでなく、間違った決定や行動を引き起こす。逆に、適切に報告することで、適切な決定や行動が選ばれやすく、関係者は効率よく動ける。こうした特徴は一般的な対話に共通するもので、報告の場合は影響度がより大きい。
 結果として、報告技術を身に付た人が増えると、いろいろな作業の質が向上する。問題解決であれば、より適切な解決方法が得られ、解決時間が短縮する。何かを製作する作業なら、作業の遅れが生じにくく、途中変更などにもスムーズに対処しやすい。ジャーナリズムなら、より正確で的確な情報を提供できる。このように、何事にも役立つ基礎的な技術である。

教育内容の構成:報告の基礎から作り方までを対象に

 報告技術では、まず基本的な考え方を最初に理解する。報告には相手がいて、報告する目的も存在する。そのため、相手が知りたいことを求め、それに適した形で報告内容を作ることが大切だ。ここで言う適した形とは、報告相手が喜ぶ内容を指すのではない。報告相手が聞きたくない内容でも、目的に照らし合わせて必要であれば、報告内容に含めなければならない。報告の基礎では、他に、報告の結論と根拠を示すとか、事実と推測を明確に書き分けるとか、内容を正確に表現することなどが含まれる。
 続いて、報告内容の伝え方、報告内容の作り方も扱う。とくに難しいのが、何か問題が発生した場合だ。そんな状況での報告は難しいので、作り方と伝え方を特別な扱いで教える。報告技術の最後には、報告される側の管理術、報告内容の保存と利用を加える。管理術は、部下を持つ上司のためのものだ。これらを整理してまとめると、以下のようになる。

体系化した報告技術の教育内容の設計例
・報告の基礎
  ・報告には相手と目的がある
  ・相手と目的を意識して報告内容を作る
  ・報告内容は、結論とその根拠を示す
  ・事実と推測を明確に分けて書く
  ・報告内容をできるだけ正確に表現する
  ・報告者の理解レベルも必要なら示す
・報告内容の伝え方
  ・報告内容に適した伝え方を選ぶ
  ・伝達が速くて記録が残る電子メール
  ・整理された形で記録できる書類形式
  ・細かな説明が容易な直接対話
  ・各種方法を組み合わせて用いる
・報告内容の作り方
  ・報告内容の構成は、内容に適した形に
  ・代表的な3タイプを取り上げる
  ・定期的な報告では作業効率を重視
  ・単発の報告では重要度で書き分け
  ・問題発生時の報告では迅速かつ正確に
  ・報告内容が重要なら、正式な報告書を作る
  ・正式な報告書では、読みやすい構成が大切
・問題発生時の対応
  ・状況を的確に調べるための方法
  ・調べた情報の整理方法
  ・原因や対処の簡単な検討方法
  ・調査した内容を正しく報告する方法
  ・自分の理解度や行動を伝えることの大切さ
  ・解決までの報告活動の進め方
・その他
  ・報告される側の管理術
  ・報告内容の保存と利用

 報告内容の伝え方では、電子メール、電子化されたものも含む書類、口頭による直接対話の3つを取り上げる。それぞれの特徴を理解し、報告内容にあったものを選ぶ。通常は1回の報告で終わらないので、複数を組み合わせて使う方法も学ばせる。
 報告内容の作り方では、定期的な報告、単発の報告、問題発生時の報告という代表的な3タイプの取り上げ、それぞれの作り方を習得してもらう。毎日や毎週といった定期的な報告は、要点だけをまとめた短い内容で済ませる。問題が起こってないときに利用するものだ。単発の報告は、まとまった作業が終わったときに作るもので、重要度に合わせた作り方を選ぶ。報告内容が重要なほど詳しく書き、重要でない場合は簡単で構わない。
 問題が発生した場合は特別だ。状況を上手に調べる方法から始まり、得られた情報を整理して見直すこと、見直しで発見された不明点の調査、原因や対処の簡単な検討方法、それらの上手な報告方法などを含める。発生した問題によっては、報告者が理解できないこともあるので、その場合の報告方法も示す。また、通常時と違って臨機応変の対応が求められるので、報告相手と連携しての進め方も教える。
 ここで少し、上手な報告に関して説明しておこう。定期的な報告なら、まず結論を明確に示し、その根拠を何点か続ける。結論が「何も問題なし」のとき、そう判断した根拠を示さなければ、報告相手は納得しない。どんな点がどのようだったので問題なしと判断したのか、根拠となる調査項目と調査結果を、判断の根拠として何点か示す。通常は5〜10項目だ。また、問題点を報告者が見逃すこともあるので、根拠とは異なる項目を何点か報告させることもでき、報告相手が状況判断に用いる。
 こうした報告内容の形式は、報告相手(多くは上司)と報告者(多くは部下)の間で事前に決めておけば、報告の質が上がるだけでなく、報告内容の作成作業も短時間で済ませられる。このような工夫も、報告技術の一部となる。
 以上のように、報告技術は幅広い内容に及ぶため、報告に関わる広い能力を身に付けられる。そうすれば、何か問題が発生したときにでも、適切な報告や行動ができる。

段階分けされた教育内容:報告の基礎から実際の作成へと進む

 教育内容として設計する際には、理解のしやすさを考慮しなければならない。基礎から始めて、報告内容を実際に作る段階へと移る。最初は簡単な報告内容から作り、だんだんと難しい内容に進む。
 最初は報告の基礎を理解することが大切なので、基礎的な考え方や考慮点を教える。報告作業の基本(A)、報告内容の基本(B)の2つだ。続けて、報告に用いる代表的な方法(C)を取り上げる。
 その後は、報告内容の作り方に移る。報告の代表的な3タイプの特徴(D)を知って、最初の2タイプとなる定期的な報告(E)と単発の報告(F)の作り方を学ばせる。3タイプ目の問題発生時の報告は難しいだけでなく、報告内容を調べる作業も重要なので、報告前の準備(G)と報告内容と方法(H)に分ける。3つのタイプを、作りやすい順に並べてある。

報告技術教育の段階分けの設計例(習得できる能力の明示は省略)
A:報告作業の基本を知る
  ・A01:報告には相手と目的がある
  ・A02:報告相手の立場で目的を考える
  ・A03:報告すべき内容を目的から導き出す
  ・A04:報告や内容作成に手間をかけない
B:報告内容の基本を知る
  ・B01:報告内容の結論を明確に伝える
  ・B02:結論の根拠を何個か示す
  ・B03:状況が把握できる情報を含める
  ・B04:事実と推測を正しく書き分ける
  ・B05:可能な限り正確な表現を用いる
  ・B06:報告内容が間違っていたら素早く訂正する
  ・B07:報告者の理解レベルを伝える
  ・B08:繰り返し報告での省略方法
C:報告に用いる代表的な方法
  ・C01:報告内容に適した方法を選ぶ
  ・C02:問題ない報告なら電子メールで
  ・C03:重要な報告は書類形式でまとめる
  ・C04:詳しい説明が必要なら直接対話で
  ・C05:上記3つを上手に組み合わせる
D:報告の代表的なタイプを知る
  ・D01:タイプによって報告内容が異なる
  ・D02:定期的な報告では作業効率を重視
  ・D03:単発の報告では重要度で書き分け
  ・D04:問題発生時の報告では迅速かつ正確に
  ・D05:代表的なタイプ以外の場合は自分で判断して
E:定期的な報告の場合
  ・E01:報告内容の結論を最初に述べる
  ・E02:結論の根拠となる情報を何個か示す
  ・E03:悪い状況が発見できる情報も加える
  ・E04:報告内容の形式を事前に決めておく
  ・E05:書きやすくて漏れが少ない報告形式の作り方
F:単発の報告の場合
  ・F01:報告対象活動の目的を明らかにする
  ・F02:目的に合った構成を最初に決める
  ・F03:結論を含んだ要約を付ける
  ・F04:中身が理解しやすい説明の流れに
  ・F05:重要でない内容なら簡単に済ませる
  ・F06:重要な部分を強調する方法
G:問題発生時の報告の場合(報告前の準備)
  ・G01:報告する前に状況を整理することが大切
  ・G02:見るべき点を洗い出す
  ・G03:見るべき点ごとに現状を調べる
  ・G04:最初の調査結果を整理して、状況を把握する
  ・G05:新たに見るべき点を洗い出し、現状を調べる
  ・G06:追加の調査結果も含めて、状況を整理する
  ・G07:状況の原因などを推測する
  ・G08:推測が正しいのか確認する方法を求める
  ・G09:確認方法を用いて、現状を調べる
  ・G10:問題の解決方法を検討する
H:問題発生時の報告の場合(報告内容と方法)
  ・H01:報告内容を改めて整理する
  ・H02:報告内容の要約をまとめる
  ・H03:現状把握の基礎データを見やすく整える
  ・H04:原因などの推定過程を説明する
  ・H05:可能なら解決方法を加える
  ・H06:報告や対話の回数をできるだけ増やす
  ・H07:解決までの日程を作成して更新し続ける
  ・H08:できる限り、自分の現在の活動状況を伝える
  ・H09:状況がよく分からない場合の報告
  ・H10:自己解決が無理な場合の行動
  ・H11:問題発生時の報告行動の心構え
I:詳しい報告書類の作り方
  ・I01:全体の構成を最初に決める
  ・I02:説明の中心部分は思考の流れに沿って要素を並べる
  ・I03:目的と結論を最初に示す
  ・I04:必要なら全体の流れを簡単に説明する
  ・I05:各要素の説明も思考の流れに沿って作る
  ・I06:測定データなどは見やすく整えて加える
  ・I07:元データは資料として後ろに添付
  ・I08:似た資料と区別できるための各種表現方法
J:報告書で用いる個別情報の整理方法
  ・J01:元データは生に近い形で付け、後での確認を容易に
  ・J02:説明中のデータは、評価しやすく整えて
  ・J03:データに付随する条件などの正確な表現方法
  ・J04:元データの生資料の扱い方や保存方法
  ・J05:比較する基準データの扱い方
K:報告を受ける側の管理技術
  ・K01:報告者の報告能力を把握する
  ・K02:報告方法を改善させる指摘方法
  ・K03:報告内容の簡単な評価方法
  ・K04:報告形式やルールの作り方
  ・K05:指導する側としての心得
L:報告内容の保存と利用
  ・L01:報告内容の保存目的と保存期間
  ・L02:報告内容の保存方法
  ・L03:報告内容の利用方法
  ・L04:報告内容のデータベース化
  ・L05:利用価値を高めるための報告内容の作り方
  ・L06:利用価値を高めるための保存整理方法

 正式な報告書を作る場合もあるので、書類全体の構成と作り方(I)も教える。報告書を読む人が、手間をかけずに内容を把握できるように、目的や結論を最初に示したり、全体の説明の流れを検討の流れと同じにしたり、細かなデータは後ろに資料として付けたりして工夫する。報告書の中で用いるデータの整理方法(J)も重要なので、次の段階で扱う。こうした整理方法は、報告書以外の報告でも役立つ。
 報告を受ける側の管理術(K)は、報告相手である上司が、報告者の部下を育てられるように加えたものだ。報告内容との保存と利用(L)は、報告内容をどれだけ保存すべきか、どうやって再利用すべきかを教える。主な対象は重要な報告書だが、一般の報告内容でも、終了後の1年ぐらいは保存しておいた方がよい。すべて電子化してあれば、10年ぐらい保存していても邪魔になることはないだろう。
 この教育内容の段階分け例は、報告技術を全般的に習得できるように設計してある。最初から順番に学習することで、的確な形で報告する能力が身に付く。

教材や教育方法:報告内容を実際に作らせる

 報告技術の場合は、実際に作りながら覚える方法が、習得度をもっとも高める。テーマを与えて報告内容を作らせ、それを教師が評価する教え方になる。ただ作らせるだけでは上達しないので、どの部分がどのように悪いのか指摘し、良くなるまで直させることが重要だ。こうした教え方を繰り返すと、上手な報告が自然にできるようになる。
 実際に作らせる教え方で難しいのは、報告対象の情報をどうやって与えるかだ。もし整理した形で与えると、それをそのまま書き直せば、良い報告内容に仕上がってしまう。整理されてない方法で報告対象の情報を与える方法が必要だ。具体的には、10枚以上の絵で与える、少し長めの文章で与える、実在の資料を用いる、といった方法が考えられる。それぞれ異なる特徴があるので、各方法を順番に用いるのがベストだろう。
 簡単な報告であれば、正解のような報告内容を提示できる。しかし、報告対象が少しでも複雑になると、1つの正解を提示できないし、それが現実でもある。作成した報告内容を評価するときは、悪い点を指摘するだけでなく、良い点を誉めることも大切だ。とくに面白い工夫をしたときは高く評価し、工夫を促進するように導く。
 もう1つの有効な学習方法がある。報告の悪い例を見せ、どんな点がどのように悪いのか指摘させる方法だ。報告対象の資料も一緒に見せて、指摘した部分を直させる。良い直し方を後で教えれば、報告内容の良い作り方を習得できる。
 学習の過程では、質の高い報告内容を数多く見ることも重要である。いろいろなテーマで、報告内容の良い例を多数用意し、自由に見れるようにする。単に見せるだけでなく、どんな点がどのように良いのか、丁寧な説明を付けるのは必須だ。その説明を読むことで、良い報告を幅広く理解するようになる。
 見せる例としては、前述の悪い例も有効だ。どんな点がどのように悪いのか説明し、より良く直した例を続けてみせる。対話形式のクイズとして用意すれば、楽しみながら習得できる有効な道具となるだろう。
 こうした教材は、段階分けの教育内容に合わせ、段階ごとに用意する。この方法だと、各段階で教えている教育内容の習得に役立つからだ。

他の教科との関連:作文技術を先に習得する

 報告内容は文章で作ることが多い。そのため、作文技術を先に習得してもらう。伝えたい内容が書けるようになった後だと、報告内容を的確に表現するのが容易だ。作文技術の上級レベルまで達している必要はないが、ある程度のまとまった文章を苦労せずに書けるレベルには達していてほしい。
 報告内容の質をさらに高めるには、報告技術以外の能力が必要。難しい内容を分かりやすく説明するのには説明技術が、報告対象をより的確に調べるためには調査技術が役立つ。これらは報告技術の後で学ぶとよい。
 報告技術自体は、一番上でもあまり難しくなく、上限が決まっている技術である。報告内容を良くするには、説明技術などの別な技術が重要となり、そちらを学ぶことで質を高める。そのため報告技術は、一度習得してしまったら、後から深く突っ込んで勉強する教科ではない。

(2001年4月6日)


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