川村渇真の「知性の泉」

意見調整技術:最良解の選択で良い意思決定に貢献


大まかな目的:意見調整の最良解を見付ける

 意見が異なる状況は、社会のいろいろな場面で起こっている。その際、何か結論を出さなければならないとしたら、意見の調整が必要だ。調整において、“当事者双方の利益の合計”が最高となるのが最良解である。もちろん、片方の利益だけが大きくならない形で最良解を求めるのは言うまでもない。
 では、実際の調整現場で、最良解が得られているだろうか。残念ながら、そうでない場合の方が圧倒的に多い。たとえば、当事者の片方がうるさい人だと、その人の意見の方が強く反映されやすい。また、調整に入った人が片方の肩を持つと、そちらの利益が大きくなるような調整結果になりやすい。肩を持たれない側は、無理矢理に納得されられる状況だ。そもそも、最良解の求めたいと思っても、その方法を知らないので、求められないまま決めている状況もかなり多い。
 こうした点を解決するのが意見調整技術である。調整課題を論理的かつ科学的に分析し、その結果を双方に公開する。わがままだったり非論理的な意見が出されたときは、どんな点が悪いのか指摘し、意見を直させる方法まで含む。あくまで基本は、調整作業全体を通して、論理的で科学的な検討だ。これによって、第三者(調整に参加しなかった当事者も該当)によるレビューも可能にし、ダメな意見を排除する大きな力となる。当然、第三者が納得できる調整結果が得られ、後からだまされたと言われるような調整結果にはなりにくい。
 以上のように、論理的な思考方法を基礎とした調整方法を、意見調整技術は提供する。お願いしたりなだめたりして、当事者を納得させながら落としどころを見付けるといった、場当たり的な調整方法ではない。論理的な納得度を重視した方法である。

期待される効果:世の中のダメな意思決定を大きく減らす

 意見の異なる場面はいたるところで発生しているため、意見調整技術を利用できる機会はかなり多い。重大な内容を優先するなら、国家の政策決定、企業の戦略決定、社会のルールや規則の決定などが挙げられる。
 国家の政策決定では、利害が対立する場面がよくある。生産者側と消費者側が代表例だ。生産者側は生産コストを抑えようと、安全性確保の規制などを軽くしてほしい。逆に消費者側は、安全性を高く保つために、より厳しい規制を求める。こうした意見調整では、安全性を高く保ちながら、生産コスト低下の工夫の余地を残すような条件を考える。安全性を確保した上で、コスト低下に役立つ点はないか検討するわけだ。
 現状の日本の行政では、消費者(国民)の安全性を軽く考えて、生産者側に有利な結果ばかり出している。情けない状況だが、ダメな意思決定の代表例である。こうした問題点を改善するのにも、意見調整技術は役立つ。調整過程を細かく分解して検討するため、当事者の片方を無視したような意思決定は難しくなる。結果として、適切な意思決定が選ばれるようになる。社会にとって、非常に有益な技術なのだ。
 同様に、企業内でもグループ内でも、意見の異なる場面で広く利用できる。論理的な納得度を重視しているため、利己的な介入などがやりづらく、適切な意思決定を手助けしてくれる。良くない意図で意思決定を変えようとしても、それが相当にバレやすくなってしまうからだ。適用できる状況は多いので、どんどんと利用すれば、質の高い意思決定が確実に増えるだろう。

意見調整技術の概要:論理的で科学的な調整を支援

 何でもいいから双方を説得して、妥協点を見付けるような調整方法が、世の中で広く使われている。しかし、そんなのは悪い意見調整方法であり、とうてい技術とは呼べない。また、教育として提供するのにも適さない。
 では、技術と呼べるような意見調整方法とは、いったいどのようなものであろうか。その基礎とすべきなのは、論理的で科学的な検討だ。当事者双方から出た意見のうち、明らかに無茶なものや、論理的に正しくないものは、どこがどのように悪いのか指摘して、悪い理由を理解させなければならない。ダメな意見(要望)を認めると、最終的に悪い結果を生むので、調整する前に直してもらう必要がある。
 たいていの意見は、出した側の隠れた目的ではなく、目的を実現するための具体的な要望として出される。そのため、出された意見を深く検討すると、本来目指している目的に合ってない場合もある。合ってないまではいかなくても、最良の方法でないことが意外に多い。どの意見でも、本来の目的をできるだけ達成させることが大切なので、目的に合っている選択枝の中から、最高のものを選ばなければならない。こうした点も支援するために、目的を明らかにしてから、要望の候補を挙げて全部を評価し、最良のものを選んでもらう。これも意見調整技術の一部である。
 双方の目的が異なる場合は、目的に照らし合わせても1つの意見にまとまらない。こうした部分に関しては、両方の目的を一番満たすようなものを選ぶ。考えられる意見を多く挙げ、すべての意見に関して、2つの要望をどれだけ満たすのか評価する。その総合値の一番高いものが、採用すべき意見となる。
 ここまでやっても良い意見が得られない部分が残ったら、あとは双方に同じ程度歩み寄ってもらう。意見が相違する大きさを評価し、同じ程度だけ歩み寄るための基礎を提供する。当事者は冷静に評価するのが難しいので、第三者が判断した客観的な(あるいはそれに近い)評価結果を用意する。
 以上のような考え方で調整するのは、第三者から見て妥当な調整だと評価されるような結果を得たいからだ。当事者の多くは自分が正しいと思いがちで、客観的な判断が非常に難しい。それを支援するのが、意見調整技術である。ここまでの話をまとめると、次のようになる。

良い意見調整が満たすべき点
・当事者双方の意見に対し、論理的で科学的な評価を加える
・当事者双方の本来の目的に合った選択枝を選ばせる
・当事者双方に、同じ程度だけ歩み寄らせる
(以上の点を、最大限満たすように調整する)

 こうした点を満たすために、検討対象である課題の取り扱い方を規定する。論理的で科学的な検討を可能にするためには、こうした規定が必要なのだ。当事者どちらの意見も、何らかの目的があるので、それを先に明らかにする。次に、その目的を達成するのに必要な調整要素を洗い出す。通常は複数になるはずだ。もし課題目的から調整要素を洗い出すのが難しいときは、課題目的から課題中間目的を作り、調整要素までに間の工程を挿入する。こうすれば、洗い出しの間違いを防げる。
 調整要素が決まったら、その中で実現可能な要素選択枝を挙げる。これが選択可能な意見(要望)となる。それぞれの要素選択枝に対して、課題目的の達成に適合しているかを評価する。この目的適合度の値が低い要素選択枝ほど、課題目的に一致していないことを意味し、選択枝として不適切といえる。目的適合度の一番高い要素選択枝が、選ぶべき重要候補となる。ただし、課題目的が複数あると、同じ要素選択枝が一番高い(最良)とは限らない。課題目的ごとに、選ぶべき要素選択枝が決まる。
 当事者双方の意見が異なる背景として、目指す課題目的自体が違っている点が挙げられる。当然、調整要素ごとで最良の要素選択枝も別々になる。双方が歩み寄る必要が生じるため、その方法も意見調整技術で提供する。最良の要素選択枝が一致しない調整要素の中から、どれを優先的に選びたいのか順番を付けてもらう。その優先順位の高いものから、双方に選んでもらい、最終的な要素選択枝を決めるというわけだ。
 お互いに要素選択枝を1つずつ順番に選ぶ方法には、不満の意見が出る。調整要素ごとの価値が異なるので、単純に1つずつ選ぶ方法では不適切という意見だ。この不満にも対応するために、お互いの歩み寄り度を計算する方法も用意する。相手に選ばれた調整要素は、自分が歩み寄った調整要素である。その歩み寄り度を何か共通の値に換算して合計すれば、同じ程度だけ歩み寄った状況が作れる。
 どのような値に換算するかは、課題目的によって異なる。もっとも汎用的なのが金額で、たいていの内容を換算できる。災害などで人命を救うのが目的なら、助けられる人数が共通の換算値になる。他に、作業工数を表す人日や人月、エネルギー消費量など何でも考えられる。値として比べるため、数値であることが基本だ。こうした値の求め方は、中立的な機関に決めてもらうなど、第三者が納得できるものに仕上げなければならない。
 以上のような考え方で整理すると、意見調整技術に含まれる主な内容は次のようになる。途中で作成する主な書類内容も挙げてみた。

意見調整技術に含まれる主な内容
・調整対象の課題に関わる主要な要素
  ・課題目的:課題の解決で達成したい目的
   (目的が複数の場合もある)
  ・課題中間目的:課題目的の達成に必要な中間目的
   (課題目的から一気に調整要素を洗い出せないとき使う)
   (必要なら、2段階以上の課題中間目的を作るのも可)
   (調整要素の洗い出し過程を詳しく説明する目的でも利用)
  ・調整要素:目的を実現するための要素
   (必要に応じて、細かく分類しながら作る)
  ・要素重要度:課題目的の達成における調整要素の重要度
   (より重要な調整要素に労力を集中するための指標に)
  ・要素選択枝:要素ごとで可能な選択枝
   (これが、選択可能な意見や要望に相当する)
  ・目的適合度:選択枝が目的に適合する度合い
   (目的の達成に貢献する度合いでもある)
・調整作業で加わる要素
  ・歩み寄り換算値:歩み寄り度合いを比較しやすく換算した値
   (最良の要素選択枝が選ばれなかったときの値をもとに計算)
  ・換算補正値:要素選択枝の特別な組み合わせで生じる補正値
   (特定の要素選択枝の組み合わせで補正が必要なら使う)
・調整作業で作成する主な書類内容
  ・調整課題全体を把握できる一覧表
  ・課題目的の説明
  ・目的ごとの調整要素の説明
  ・調整要素ごとの選択枝の説明
  ・選択枝ごとの目的適合度と算出根拠の説明
  ・調整要素ごとの歩み寄り換算値の求め方
  ・選ばれた要素選択肢ごとの歩み寄り換算値の一覧表
  ・調整される側が提出する選択枝の優先度と説明
・調整作業の手順(後述)

 こうした内容で意見調整が行えるように、調整作業の大まかな手順も規定する。前述のような考え方に従って求めた作業手順は、次のようになる。

意見調整作業の大まかな手順(やや本格版)
・対象課題の全体像を理解する
・当事者双方の本当の課題目的を明らかにする
・(必要なら)課題中間目的を作る
・課題目的を達成するために必要な調整要素を洗い出す
・(必要なら)調整要素を細かく分ける
・調整要素ごとに、可能な選択枝を挙げる
・調整要素ごとに、各選択枝の目的への適合度を評価する
・当事者双方の目的ごとに、最良の選択枝を選ぶ
・選択枝が一致しない調整要素で、両目的への適合度を評価する
・適合度が一定レベルを満たした調整要素は、仮の決定とする
・選択枝が不一致の調整要素で、歩み寄り換算値を求め方を決める
・選択枝が不一致の調整要素で、歩み寄り換算値を計算する
・差が生じた調整要素で、双方に優先度を示してもらう
・優先度を考慮し、調整要素ごとの選択肢を決める
・選択枝の組み合わせに欠点がないか評価し、必要なら修正する
  ・歩み寄り換算値が組み合わせで変化するなら補正する
  ・最良解の判断が難しいなら、複数案を用意して比べる
・決めた選択肢を双方に評価してもらう
・評価後の変更要望を双方から出してもらう
・(必要なら)変更要望を一緒に話し合って妥協点を探る
・変更要望を考慮した新たな選択枝を決める
・選択枝の組み合わせに欠点がないか評価し、必要なら修正する
  ・歩み寄り換算値が組み合わせで変化するなら補正する
・双方に見てもらい、両者が納得するまで繰り返す
(目的や選択枝の間違いに途中で気付いたら、戻ってやり直す)
(課題目的や調整要素は、当事者双方の意見を集めて調整担当者が作る)
(また、必要の応じて、相互理解のための話し合いを途中に入れる)

 実際の意見調整では、当事者双方が同じ分だけ歩み寄る方法が不適切なケースもある。たとえば、特殊な医薬品の利用制限を決める問題で、製薬会社と消費者の意見が違ったとき、消費者の安全性の確保は、他の何よりも重視しなければならない。こうした特殊なケースでは、歩み寄り度よりも社会的な影響を優先して要素選択枝を選ぶ。こうした工夫も意見調整技術に含まれ、より多くの状況に適用可能な技術として仕上げる。
 以上のように、目的から選択枝まで評価し、各部分での整合性も検査するため、ずるい目的や意見は出しにくくなる。そうすると適切な意見が採用される結果となり、悪い調整結果にはならない。たとえば、利害が対立する中で政策を決定する場面では、特定の人だけが得する調整結果に決まりにくい。現在の日本の行政が選んでいるダメな意思決定などは、大幅に減るはずだ。

教育内容の構成:実質3段階に分けて習得させる

 上記のような意見調整技術を身に付けられるように、教育内容を作らなければならない。できるだけ習得しやすいようにと、上級レベルの工夫を除いた残りを、3段階ぐらいに分けた形で設計してみた。
 第1段階、意見調整技術の基本を理解させる。考え方、基本要素、単純な場合の基本的な流れを含んでいる。第2段階では、本格的な作業を含みながら、比較的簡単な条件での意見調整を取りあげる。当事者双方の課題目的が一致する場合だ。関係ない工程を省いた、本格的に近い作業工程を用いながら、意見調整技術の流れを作成物を使えるようになってもらう。続く第3段階では、より難しい条件でも意見調整方法を扱う。当事者双方の課題目標が一致しない場合で、最良解を求めるのが第2段階より難しくなる。第2段階で含まれなかった作業工程を中心に、より高いレベルの技術を教える。
 これら第3段階の後には、意見調整技術を幅広く使えるような工夫を取りあげる。わがままな当事者への対処など、実際に適用したときに役立つ内容が中心だ。また、当事者側に役立つ知識として、調整担当者の行動が不適切な場合の対処方法も含める。ここに入れる教育内容は、意見調整技術が広まるほど増えると予想されるため、必要なものを随時追加していく。
 以上のように、大きく4段階に分けて設計してみた。各段階に含まれる具体的な項目は、以下のようになる。

体系化した意見調整技術の教育内容の設計例
・意見調整技術の基本
  ・意見調整の基本的な考え方
  ・意見調整で登場する基本要素
  ・意見調整作業の基本的な流れ
・課題目的が一致する場合の意見調整
  ・課題目的と課題中間目的を作成する
  ・調整要素を導き出す
  ・要素選択枝を挙げる
  ・要素選択枝を評価する
  ・要素選択枝の組み合わせを検査して仮決定
  ・当事者双方へ意見を求めて調整する
  ・調整結果をまとめる
・課題目的が不一致場合の意見調整
  ・調整要素の洗い出しと統合
  ・異なる課題目的で要素選択枝を評価する
  ・歩み寄り換算値の求め方を決めて計算する
  ・当事者双方から優先度指定を得てまとめる
  ・調整結果をまとめる
  ・相互理解のために話し合いを開催する
・調整結果を良くする工夫
  ・ダメな意見の条件と指摘方法
  ・文句が出た場合の適切な対応
  ・当事者が悪い場合の対処
  ・調整担当者が悪い場合の対処
  ・同程度の歩み寄りが不適切な場合と対処
  ・歩み寄り換算値の様々な作り方
  ・調整結果の検査方法
  ・決定事項を守らない場合への対処

 意見調整技術の教育では、調整作業に参加する立場も考慮しなければならない。調整が必要な場面では、調整担当者よりも、調整される側の人数の方が多い。つまり、当事者として意見調整技術を利用する可能性が高い。しかし、意見調整技術は、調整担当者として学習した方が一番理解しやすく身に付きやすい。そのため、調整担当者の立場を中心に置きながら学習する形を採用する。教材も、特別なものを除き、調整担当者の立場で作成する。
 調整される側の当事者を経験することも大切なので、実習の場を利用する。何人かのグループで実習する際に、調整担当者と当事者の両方を別なテーマで経験してもらう。当事者は最低でも2つ必要なので、片方を教師が担当し、実習の質を可能な限り維持する。もし人数的に大丈夫なら、学習者以外を全部教師にするのが理想だ。そうすれば、調整作業での様々な状況を、計画的に経験させることが可能になる。

段階分けされた教育内容:段階的に難しくなる形で教育

 体系化した教育内容の設計例に従って、具体的な教育内容を設計してみた。大きく4段階に分け、その中身も決まったので、細かく肉付けしていった。
 第1段階の「意見調整の基本」では、まず意見調整の基本的な考え方(AA)を教える。論理的で科学的な検討が基礎にして、最良解を求めることの意味まで知ってもらう。続けて、意見調整で登場する基本要素(AB)を取りあげる。ここではできるだけ簡素化するために、最低限の要素しか含めない。次は、意見調整作業の基本的な流れ(AC)だ。課題を論理的に検討することを中心に置き、最後に1回だけ、意見を聞いて修正する工程を含める。どんな感じの流れになるか、大まかに理解してもらうのが目的だからだ。最後は、極めて簡単な題材を使って、作業の流れを体験させる。流れを知るためなので、ほとんど疑問が生じないような題材を選ぶ。以上をまとめると、次のようになる。

意見調整技術教育の段階分けの設計例(1/4:意見調整の基本)
・AA:意見調整の基本的な考え方
  ・AA01:論理的な検討で最良解を得る技術
  ・AA02:論理的な検討内容を提示して調整する
  ・AA03:一番の目的は最良解を得ること
  ・AA04:全意見を評価し、不適切な意見は改善を要求する
  ・AA05:検討内容の全体像を常に把握して作業する
  ・AA06:同じ程度だけ歩み寄れる仕組み
・AB:意見調整で登場する基本要素
  ・AB01:課題目的
  ・AB02:調整要素
  ・AB03:要素選択枝
  ・AB04:歩み寄り換算値
  ・AB05:調整結果
  ・AB06:以上の基本要素の関係
・AC:意見調整作業の基本的な流れ
  ・AC01:工程:調整すべき対象課題を理解する
  ・AC02:工程:課題目的を明らかにする
  ・AC03:工程:調整要素を洗い出す
  ・AC04:工程:要素選択枝を挙げる
  ・AC05:工程:要素選択枝を評価する
  ・AC06:工程:調整結果を作成して当事者双方に提示する
  ・AC07:工程:当事者双方から調整結果への意見を集める
  ・AC08:工程:調整結果を修正する
・AD:簡単な意見調整作業の練習
  ・ADxx:(調整担当者の立場で:ACと同じ内容なので省略)

 続いて、第2段階の「課題目的が一致する場合の意見調整」だ。この段階では、少し本格的な内容と作業の習得を目的にしている。
 意見調整作業の流れ従って、1つずつ細かな工程まで取りあげる。課題目的と課題中間目的の作成(BA)に始まり、調整要素の洗い出し(BB)、要素選択枝の列挙(BC)、要素選択枝の評価(BD)、要素選択枝の組み合わせの評価と仮決定(BE)、当事者双方へ意見を求めて調整(BF)、調整結果のまとめ(BG)と続く。それぞれで細かな工程を示し、学習した後で実際に行えるように配慮してある。あえて入れてないが、それぞれの作成要素の学習の最後で、簡単な課題を作って練習することも大切だ。
 一連の工程を学習し終わったら、実際に作って練習する(BH)。用意した課題に関して、第2段階全体の作業を試してみる。調整担当者の立場での練習は必須で、時間的な余裕があれば、調整される側の練習も行う。以上の内容を整理すると、次のようになる。

意見調整技術教育の段階分けの設計例(2/4:目的が一致する場合)
・BA:課題目的と課題中間目的を作成する
  ・BA01:何が重要なのか見極めることが大切
  ・BA02:課題目的に含まれる項目と整理方法
  ・BA03:工程:対象課題の全体像を整理する
  ・BA04:工程:対象課題の要点を見付ける
  ・BA05:工程:要点から課題目標を導き出す
  ・BA06:工程:調整要素が洗い出せそうか判断する
  ・BA07:工程:必要なら、課題中間目的の候補を求める
  ・BA08:工程:課題中間目的の候補を評価する
  ・BA09:工程:最適な課題中間目的を決める
・BB:調整要素を洗い出す
  ・BB01:課題目的を達成するのに必要な要素を見付ける
  ・BB02:調整要素に含まれる項目と整理方法
  ・BB03:工程:課題目標に関わる要素を何でも挙げる
  ・BB04:工程:挙げた要素を分類する
  ・BB05:工程:分類した要素を見て、漏れを見付けて追加する
  ・BB06:工程:調整要素ごとに、課題目標との関係を明確にする
  ・BB07:工程:理由を見て、調整要素の採否を判断する
  ・BB08:工程:残った調整要素で、個々の要素重要度を求める
  ・BB09:工程:調整要素ごとに、要素選択枝の評価方法を決める
  ・BB10:工程:互いに影響しそうな調整要素の組み合わせを調べる
・BC:要素選択枝を挙げる
  ・BC01:実現可能な選択枝を全部挙げる
  ・BC02:要素選択枝に含まれる項目と整理方法
   (以下のBCxx作業は、調整要素ごとに行う)
  ・BC03:工程:調整要素に関わる項目を洗い出す
  ・BC04:工程:挙げた項目ごとに、可能な内容を見付ける
  ・BC05:工程:見付けた内容を組み合わせ、可能な要素選択枝を作る
  ・BC06:工程:組み合わせによる欠点を見付ける
  ・BC07:工程:要素選択枝のうち、明らかにダメなものを削除する
・BD:要素選択枝を評価する
  ・BD01:課題目的に照らし合わせて評価する
  ・BD02:要素選択枝の評価結果に含まれる項目と整理方法
   (以下のBDxx作業は、要素選択枝ごとに行う)
  ・BD03:工程:個々の特徴を見出す
  ・BD04:工程:課題目的への適合度(貢献度)を求める
  ・BD05:工程:副作用がないか調べる
  ・BD06:工程:副作用による課題目的への影響を求める
  ・BD07:工程:最終的な目的適合度を求める
・BE:要素選択枝の組み合わせを検査して仮決定
  ・BE01:課題目的に最適な組み合わせを選ぶ
  ・BE02:組み合わせに含まれる項目と整理方法
   (以下のBD04〜06作業は、組み合わせごとに行う)
  ・BE03:工程:最良の要素選択枝を選んで組み合わせを作る
  ・BE04:工程:課題目的に影響する組み合わせを探す
  ・BE05:工程:見付かった組み合わせの影響度合いを求める
  ・BE06:工程:組み合わせの影響も含めた、総合評価を求める
  ・BE07:工程:最良の総合評価を仮の調整結果に決める
・BF:当事者双方へ意見を求めて調整する
  ・BF01:適切に記入できる形で意見を集める
  ・BF02:改善意見に含まれる項目と整理方法
  ・BF03:工程:意見に必要な項目と形式を整理する
  ・BF04:工程:記入用紙を作って、当事者に配布する
  ・BF05:工程:記入された意見を集め、妥当性を評価する
  ・BF06:工程:妥当でない意見は、その理由を明記して返す
       (妥当な意見に直せるなら、直して提出してもらう)
  ・BF07:工程:妥当な意見で、組み合わせへの影響を検討
  ・BF08:工程:悪影響のない意見を入れて組み合わせを修正
  ・BF09:工程:新しい組み合わせで、課題目的の達成度を再評価
・BG:調整結果をまとめる
  ・BG01:第三者がレビュー可能な形にまとめる
  ・BG02:調整結果に含まれる項目と整理方法
  ・BG03:工程:調整内容に間違った箇所がないか検査する
  ・BG04:工程:決められた報告項目を微調整する
  ・BG05:工程:微調整した報告項目ごとに、内容を整理する
  ・BG06:工程:決められた書式に記入(または入力)する
  ・BG07:工程:全部を記入したら、最後に内容を検査する
・BH:課題目的が一致する意見調整の練習
  ・BHxx:(調整担当者の立場で:BA〜BGと同じ内容なので省略)

 課題目的が一致する場合の例としては、合併する双方の企業が挙げられる(内容が複雑なので、練習用の課題としては不向き)。お互いに自分の仲間や所属組織のメンツなどを優先しがちで、意見の対立が発生しやすい。たとえば、従業員の一部を解雇する必要があるとき、自分の仲間を少しでも多く残そうと工作するし、形勢が悪ければ同じ比率を要求したりする。また、役職への採用人数などを同じ比率にするなど、本来の目的とかけ離れた意見が出てくる。
 こんなときこそ、意見調整技術が役立つ。本来の課題目的である「合併後の競争力を高める」といった点を明確に示し、出された意見が課題目的に合っているか検査する。検討全体で最良解を求めるような効果があり、もとの所属などに関係ない適切な意思決定が選べる。なお、こうした意見調整は、合併交渉の段階から行うべきである。

 さらに、第3段階となる「課題目的が不一致の場合の意見調整」では、より本格的な意見調整方法を教える。第2段階と重複する部分が多いので、新しく追加された部分だけ取りあげればよい。
 調整要素の洗い出しと統合(CA)では、複数の課題目的で調整要素の洗い出し方に変わる。異なる課題目的で要素選択枝を評価(CB)は第2段階と同じで、課題目的ごとに作る点だけが異なる。歩み寄り換算値の求め方を決めて計算(CC)は、新しく追加した内容で、歩み寄り度合いの基礎となる換算値を扱う。当事者双方から優先度指定を得てまとめ(CD)は、優先度指定の情報を集めるとともに、それと歩み寄り換算値を用いて要素選択枝を選びながら、調整結論の候補となる数個の有力な組み合わせを選ぶ。調整結果のまとめ(CE)は第2段階と同じ作業だが、内容が増えているので新しい書式などを取りあげる。
 特別だが大事なものとして、相互理解のために話し合いを開催(CF)も含めた。話し合いを利用して相互理解を深めながら、意見調整の質を高めたいからだ。最後に、課題目的が不一致の意見調整の練習(CG)で、ここまでの教育内容を練習する。調整する側の立場だけでなく、調整される側の立場も経験してもらう。以上の内容を整理すると、次のようになる。

意見調整技術教育の段階分けの設計例(3/4:目的が不一致の場合)
・CA:調整要素の洗い出しと統合
  ・CA01:複数の課題目的の調整要素を統合する
  ・CA02:調整要素に含まれる項目と整理方法
  ・CA03:工程:課題目的ごとに、調整要素を洗い出す
  ・CA04:工程:全調整要素で、課題目的への適合度と重要度を求める
  ・CA05:工程:全部の調整要素を集めて分類する
  ・CA06:工程:似たような調整要素を統合する
  ・CA07:工程:全調整要素で、各課題目的への適合度と重要度を整理
・CB:異なる課題目的で要素選択枝を評価する
  ・CB01:課題目的ごとに、個々の要素選択枝を評価する
  ・CB02:要素選択枝の評価に含まれる項目と整理方法
  ・CB03〜:工程:(BDxxと同じ見出しなので省略)
・CC:歩み寄り換算値の求め方を決めて計算する
  ・CC01:換算値の役割と求め方を理解する
  ・CC02:換算値の求め方に必要な条件
  ・CC03:工程:複数の課題目的から、換算値のタイプを求める
  ・CC04:工程:全部の調整要素で、換算値の求め方を決める
  ・CC05:工程:試しに何例か計算し、求め方に欠点があれば修正
  ・CC06:工程:最良の要素選択枝の全部で、換算値を計算する
  ・CC07:工程:調整要素間での換算値のバランスを調べる
  ・CC08:工程:必要なら、換算値の求め方を修正して再計算
・CD:当事者双方から優先度指定を得てまとめる
  ・CD01:優先度と必須度などの情報を集める
  ・CD02:優先度指定に含まれる項目と整理方法
  ・CD03:工程:指定に必要な項目と形式を整理する
  ・CD04:工程:記入用紙を作って、当事者に配布する
  ・CD05:工程:記入された情報を集め、不備がないか評価する
       (不備が見付かったら、直して提出してもらう)
  ・CD06:工程:優先度で要素選択枝を選び、組み合わせを複数用意
  ・CD07:工程:選んだ組み合わせの影響度合いを求める
  ・CD08:工程:組み合わせの影響も含めた、総合評価を求める
  ・CD09:工程:最良の総合評価を仮の調整結果に決める
・CE:調整結果をまとめる
  ・GExx:(BGxxと同じ見出しなので省略:報告項目は増える)
・CF:相互理解のために話し合いを開催する
  ・CF01:話し合いの役割と適切な進め方を理解する
  ・CF02:話し合いを利用すべき目的と最適な開催時期
  ・CF03:話し合いの質を高めるためのポイント
  ・CF04:工程:話し合いの目的を明確にする
  ・CF05:工程:目的達成のために課題を整理する
  ・CF06:工程:話し合いの題材や範囲を規定する
  ・CF07:工程:話し合いの本番前に、目的などを参加者に説明
  ・CF08:工程:話し合い本番では、議長として話題を制御する
  ・CF09:工程:話し合い本番の最後で、決定事項を確認する
  ・CF10:工程:話し合い後に、決定事項を整理して配布する
・CG:課題目的が不一致の意見調整の練習
  ・CGxx:(調整担当者の立場で:BA〜BG+CA〜CFと同じなので省略)
  ・CGxx:(調整される側の立場で:上記と同じなので省略)

 課題目的が一致しない場合の例としては、政策決定が挙げられる(これも難しい課題なので練習には不適。また、実際に意見調整するには、次の第4段階の習得が必要)。生産者と消費者による意見が対立し、それぞれの課題目標は異なる。生産者側は、生産に関わる制限が少ないことを望むが、消費者側は安全性の確保を最優先してほしい。
 このような利害が対立したとき、現状の日本では、生産者側の利益を強く優先した政策を選んできた。何でも密室で決定するため、不適切な内容でも気軽に採用できている。しかし、意見調整技術を適用し、検討内容の公開まで義務付ければ、生産者側に有利な決定は非常に難しくなる。国民の幸福や健康を軽く考え、低レベルの意思決定を続ける日本においてこそ、有効な技術といえる。

 様々な課題での意見調整を的確にこなすためには、もう少し別な視点での工夫も必要となる。それを集めたのが、第4段階の「調整結果を良くする工夫」だ。意見調整の手順などを十分に習得した後で学ぶ方が理解しやすいと考え、最後の段階に集めてみた。
 まずは、ダメな意見や関係者への対応だ。ダメな意見の条件と指摘方法(DA)では、ダメな意見とはどのようなものなのか、その条件を知るだけでなく、対処方法まで教える。文句が出た場合の適切な対応(DB)では、いろいろな文句が出たとき、上手に対応するための手順を取りあげる。当事者が悪い場合の対処(DC)と調整担当者が悪い場合の対処(DD)では、それぞれの行動を評価しながら、悪いと判定する基準、基準を適用しての評価方法、悪い評価だったときの対処方法を扱う。こうした内容も含めておくことで、意見調整技術を正しく利用するための圧力をかける意味も込めている。
 残りは、調整結果を良くするための工夫だ。同程度の歩み寄りが不適切な場合と対処(DE)では、歩み寄りの対象外とする内容を取りあげる。該当するのは、人間の健康や地球環境などに関わるもので、その対処方法まで含める。これは早目に教えたほうがよいため、第3段階の後ろの方に入れるのが適切かも知れない。歩み寄り換算値の様々な作り方(DF)は、いろいろな状況での換算値の求め方を扱う。どんなタイプの換算値が、どんな状況に適しているのかを理解してもらうのが目的だ。調整結果の検査方法(DG)は、調整結果に悪い部分が含まれていないか、総合的に検査する方法を提供する。第三者が検査するだけでなく、調整担当者が自分で検査して、調整結果の質を高めるのにも利用できる。決定事項を守らない場合への対処(DH)は、調整結果が決まった後で、決定事項を守らない人が出たときの事前対処を教える。調整結果を契約の形で作り、守らなかったときのペナルティまで規定することで対処する。
 第4段階には、調整結果を良くするのに役立つ内容なら、何でも入れて構わない。とりあえず挙げた内容を整理すると、次のようになる。

意見調整技術教育の段階分けの設計例(4/4:結果を良くする工夫)
・DA:ダメな意見の条件と指摘方法
  ・DA01:ダメな意見の特徴と条件を知る
  ・DA02:条件:非論理的な部分がある
  ・DA03:条件:ウソが含まれる
  ・DA04:条件:対象の一面しか見ていない
  ・DA05:条件:社会的に認められない
  ・DA06:条件:その他
  ・DA07:工程:条件を適用して意見を検査する
  ・DA08:工程:ダメな部分と理由を指摘する
  ・DA09:工程:意見の改善方法を教える
・DB:文句が出た場合の適切な対応
  ・DB01:論理的で科学的な評価を基盤とする意識
  ・DB02:工程:文句の内容を整理する
  ・DB03:工程:調整の検討内容に照らし合わせて評価する
  ・DB04:工程:評価した結果を相手に伝える
  ・DB05:工程:納得しない場合の対処方法
・DC:当事者が悪い場合の対処
  ・DC01:当事者の行動を評価する意識
  ・DC02:当事者の行動の評価基準
  ・DC03:工程:評価基準を適用して評価する
  ・DC04:工程:評価結果を当事者に伝えて改善を求める
  ・DC05:工程:改善しないなら、改善されるための圧力をかける
  ・DC06:状況に応じた圧力のかけ方と的確な利用方法
  ・DC07:工程:最悪の場合には、調整担当者を降りる
・DD:調整担当者が悪い場合の対処
  ・DD01:調整担当者の行動を評価する意識
  ・DD02:調整担当者の行動の評価基準
  ・DD03:工程:評価基準を適用して評価する
  ・DD04:工程:評価結果を担当者に伝えて改善を求める
  ・DD05:工程:改善しないなら、担当者の変更を求める
  ・DD06:工程:最悪の場合は、独自に担当者を用意する
  ・DD07:工程:最悪の場合は、担当者を無視して交渉する
・DE:同程度の歩み寄りが不適切な場合と対処
  ・DE01:歩み寄らなくても構わない条件を知る
  ・DE02:条件:人命や健康に関わる
  ・DE03:条件:地球環境などへの影響が大きい
  ・DE04:条件:社会へ悪影響を及ぼす
  ・DE05:条件:良識に反する
  ・DE06:条件:その他
  ・DE07:工程:条件を満たす調整要素を見付ける
   (以下のDE08,09作業は、見付かった調整要素だけに適用)
  ・DE08:工程:要素選択枝ごとに、条件への適合度を求める
  ・DE09:工程:適合度が一番の要素選択枝を、強制的に決定
   (課題目的や当事者双方の要望で変えない強制選択)
   (当然、歩み寄りの対象外で、歩み寄り合計値にも含めない)
  ・DE10:工程:条件を満たさない調整要素で、通常の作業を続行
・DF:歩み寄り換算値の様々な作り方
  ・DF01:単一の値だけでなく積や比率も使える
  ・DF02:全部の調整要素で計算できるなら採用可能
  ・DF03:例:金額になら何でも換算できる
  ・DF04:例:作業や負荷などは工数が適する
  ・DF05:例:命や健康は人数に換算する
  ・DF06:例:早さが第一なら必要時間を
  ・DF07:例:公平に比較するなら、単位当たりの値で
  ・DF08:例:期間も関わるなら、時間を乗算した値に
  ・DF09:例:具体的な値が困難なら比率が有効な場合も
  ・DF10:例:その他いろいろと簡単に紹介
・DG:調整結果の検査方法
  ・DG01:調整結果の欠点を検査で見付ける
  ・DG02:検査内容の全体像と特徴
  ・DG03:検査内容:個々の要素の単独検査
  ・DG04:検査内容:要素間の関連検査
  ・DG05:検査内容:評価方法や計算方法の検査
  ・DG06:検査内容:評価結果や計算結果の検査
  ・DG07:検査内容:その他の細かな検査
  ・DG08:検査内容の利用方法
  ・DG09:検査結果に含まれる項目
  ・DG10:検査結果のまとめ方
・DH:決定事項を守らない場合への対処
  ・DH01:決定事項を守らない状況も事前に考慮する
  ・DH02:契約違反の形でペナルティを決めておく
  ・DH03:工程:守らない状況をできるだけ数多く予測する
  ・DH04:工程:予測状況ごとに、損害の大きさを推定する
  ・DH05:工程:損害より大きめのペナルティ内容を用意する
  ・DH06:工程:相手が逃げれないペナルティ内容に修正する
  ・DH07:工程:契約に適した形でペナルティ規定を作る
  ・DH08:工程:調整結果の契約の中に盛り込む

 意見調整技術の特徴は、課題を論理的に検討し、それを分かりやすく整理して見せることで、当事者に適切な判断を促す点にある。検討内容の整理方法や検査方法は、検討手法と似ている面が多い。検討手法は、論理的思考技術の一部なので、論理的思考技術を習得していれば、意見調整技術も容易に理解できるだろう。
 教育内容の全体を通して、できるだけ作業手順の「工程」を含めた。また、各作業での作成物に含まれる項目や書式も入れたので、実際に使える能力として身に付きやすい。いろいろな条件もグループ分けし、利用方法を作業手順化してある。以上のような配慮により、真面目に学習すれば実用レベルの能力が身に付くはずだ。

教材や教育方法:簡単な調整結果や悪い意見の例を数多く

 意見調整のような技術では、実際の例を見た方が理解しやすい。ただし、本格的な意見調整だと、情報量が多すぎて見るだけでも大変だ。少しでも分かりやすくするために、できるだけ簡単な例を選ばなければならない。また、個別の工程の例では、その部分だけ独立して見れる例を提供すれば、苦労せずに利用できる。もちろん、本格的な意見調整の例も、数個程度は用意しておき、上級レベルになったとき見れるようにする。
 どの例でも、どんな点に注意し、どのように考えてそう作ったのかが分かるような解説を付ける。良い例と詳しい解説があれば、説明された内容を深く理解できるはずだ。また、悪い意見などは、具体的な例を数多く見ることで、幅広く理解できる。悪い例とその理由の解説だけでなく、良い形に直した例と修正箇所の解説も加え、どうすれば良くなるのかを伝える。これによって、良い形で作れる能力が身に付く。
 調整途中で用いる評価の例では、評価技術を正しく適用するのは言うまでもない。それだけで終わらせず、評価技術の視点での簡単な解説も用意する。そうすれば、評価技術の復習にも役立つ。ただし、復習する必要のない人にとっては邪魔なので、必要な人にだけ追加で見れる形にしておく。他の関連技術に関しても、同様の考え方で例を作っておきたい。
 意見調整技術では、練習用の課題の選択が難しい。とくに初級レベルの簡単な調整内容は、作るのに苦労するだろう。反対意見の出る余地がほとんどない形にしないと、簡素化した練習に適さないからだ。もし作れない場合は、反対意見が出そうな箇所に「この部分の反対意見はないものとする」などといった制限を設けるしかない。
 意見調整の練習では、参加者が最低でも3人必要なので、狙った条件を整えるのが面倒だ。練習にかかる時間も長めで、教師がずっと付き合うのが大変となる。電子メールのように、ネットワークを利用して、やり取りするのが一番だろう。これなら、練習者以外を教師が担当するのも容易になり、良い条件で練習ができる。教師なら、悪い意見を出したり、間違った資料を提出したりを、意識的に行えるからだ。

他の教科との関連:評価技術と論理的思考技術は必須

 意見調整技術の本体は、基本的に単純な内容だ。しかし、実際に使おうとすると、他の技術がいろいろと必要になる。もっとも大きなのは、物事を適切に評価するための評価技術。この技術だけは、意見調整技術の基礎となるため、ある程度のレベルで習得していないと辛い。評価技術の教育内容全体の少なくとも半分程度は、習得しておくべきだ。もう1つ、物事を適切に検討するための論理的思考技術も、そこそこのレベルで求められる。
 当然ながら、途中で作成する書類を書くために、作文技術は必須となる。また、相手から的確な情報を得るために、質問回答技術は習得した方がよい。双方の話し合いを的確に管理するためには、議論技術が役立つ。これも基礎程度は身に付けておかないと苦しい。他には、扱う課題によって必要とされる技術が出てくる。こうした技術は、意見調整技術を習得した後で、必要に応じて順番に身に付けていくしかないだろう。
 以上のような特徴を持つため、意見調整技術を深く理解するためには、前述の各種技術を学んだ後で学習するのがベストといえる。こうした理由から、意見調整技術は、かなり上位の技術として位置づけられる。

(2001年10月18日)


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