川村渇真の「知性の泉」

作文技術:伝えたい内容を文章で表現可能に


目的と期待される効果:広い範囲で対話の質が向上する

 作文技術とは、伝えたい内容を文章で表現するための技術である。美しい文章を書くのは難しいが、分かりやすいように表現することは、学習と練習によって上手になれる。その習得を手助けするのが、最大の目的となる。
 サポートする範囲は、既存の作文技術よりも少し広い。単に文章を書くだけでなく、それを書類として仕上げる段階まで含む。また、書類内で使用する表組、図、写真などの上手な使い方も、簡単にだが触れる。ここまで範囲を広げると、いろいろな書類を実際に作れるようになる。
 伝えたい内容を分かりやすく表現するためには、個々の文を上手に作れるだけでは不十分だ。要旨および読み手を明確に定め、説明に必要な要素を洗い出し、それを適切に構成することが求められる。このような点もサポートし、社会でよく使われる書類を課題として作りながら、実際に作成できる能力を習得してもらう。
 パソコンが普及したことにより、いろいろな報告書、提案書、電子会議室での発言など、様々な場面で文章を読む機会が増えた。同時に書く機会も増加し、今後はさらに増すだろう。ところが、分かりやすい文章を書く能力が学校で教えられてないので、何を言いたいのか分からない文章を目にする機会は意外に多い。会議室で伝えたいことが不明だと、議論がほとんど成り立たず、無駄な対話が何回も続いてしまう。対話できる場合はまだ良い。作成者に質問できない書類だと、内容の理解をあきらめるしかない。
 こうした状況を改善するのが、作文技術だ。分かりやすく書ける人が増えると、無駄な質問が減り、会議室や書類を通じた対話の質が、かなり向上する。また、理解しやすい教材を作る基礎にもなるため、読んだだけで分かる資料が増え、学習の効率も向上する。社会全体として対話の質が向上すれば、読んで分からないために生じる無駄が、大きく減るだろう。

教育内容の構成:基礎から工夫までを対象に

 作文技術に含むべき範囲として、単純に文章を書くことだけでは不十分だ。テーマや読み手を設定し、それに合わせて書けるようになる必要がある。説明に必要な要素を洗い出し、最適な構成を見付けるなど、全体の構成を意識して書けなければ、良い文章や書類にはなりにくい。加えて、まとまった文書として整える技術も求められる。さらには、読み手が分かりやすいような注意点や工夫も必要だ。これら全部を含めて体系化すると、以下のようになる。

体系化した作文技術の教育内容の設計例
・基礎1:文および文章を作る
  ・1つの句を作る
  ・1つの文を作る
  ・連続した複数の文を作る
  ・1つの段落を作る
  ・連続した複数の段落を作る
・基礎2:文章の構成を整える
  ・文章の主要なテーマと読み手を決める
  ・テーマに必要な要素を洗い出す
  ・中心となる要旨を整理する
  ・全体の構成を決める
  ・要素ごとの構成を決める
  ・文章全体での要旨の強調方法
・書類作成1:いろいろな要素の表現術
  ・要約の役割と作り方
  ・タイトルや中見出しの付け方
  ・箇条書きの作り方と使い方
  ・表組の作り方と使い方
  ・写真の利点と使い方
  ・図の作り方と使い方
  ・キャプションの付け方
  ・脚注の使い方
  ・添付資料の付け方
・書類作成2:書類として仕上げるための注意点
  ・バージョンによる履歴の管理
  ・表紙の作り方
  ・目次の作り方
  ・行間などで読みやすく仕上げる
  ・書体や文字スタイルの使い分け
  ・読みやすいページレイアウトの作り方
  ・図や写真の入ったページレイアウト
  ・段組の上手な作り方
  ・縦書きでの注意点や作り方
・工夫1:個々の文を適切にするための注意点
  ・主語と述語の整合性を確保する
  ・形容詞や副詞のより良い順序を決める
  ・名詞などをより適した表現に修正する
  ・固有名称の適切な表現
  ・発言や引用の使い方
  ・数値の適切な表現
  ・特定の要素を強調するような文の作り方
・工夫2:文章全体での質を向上させる様々な工夫
  ・重要な用語は先に定義して使う
  ・主語の入れ替わりを意識して調整する
  ・同じ表現の文末が続かないように変化させる
  ・内容を論理的に整える
  ・事実と意見を書き分ける
  ・あいまいでなく正確に書く
  ・実データを利用して信頼度を増す
  ・情報源や調査方法などの明示する
  ・例を示して理解度を高める
  ・代表的な状況や例外の説明を加える
  ・結論などの要点を強調する
  ・内容の全体像を理解させる
・その他:社会生活に必要な作文関連の知識
  ・送り状などに用いる挨拶表現
  ・書類を送付する際の構成品
  ・書類を送付する際に必要な常識

 最初の「基礎」では、文や文章を作るための基本を、もっとも簡単な句から始める。こうした細かな要素から学ぶことで、より多くの人が習得できるように配慮する。作文が苦手な人のために、より例と悪い例、悪い例の直し方などを数多く用意して、暗記するほど見てもらう。作文のような重要技術は、結果として書けるようになることが大切なので、数多くの例を暗記して覚えても構わない。それには、悪い例の直し方を数多く見るのが効果的だ。
 次の「書類作成」では、実際に書類として仕上げるための方法を教える。純粋な作文ではないが、たいていは書類として仕上げる必要があるため、現実を考慮すると必ず学んだ方がよい。書類内では表組や写真も使うので、その基礎的な説明も加えてある。
 作成する内容を良くするための「工夫」は、個々の文を良くするものと、文章全体を良くするものに分けた。後者の一部は難しいので、良い例と悪い例を数多く見せるとか、繰り返し練習するといった対処が必要だろう。
 最後の「その他」に関しては、他の教科で教えることになっているのであれば、あえて含めなくても構わない。もし教えないのであれば、社会で役立つ内容だけに、作文技術に含めて習得してもらう。

段階分けされた教育内容:実際に役立つ題材を用いて習得

 教育内容を段階分けする際には、体系化された内容を全部含むようにしながら、学習しやすい順序で並べなければならない。作文技術の基礎では、もっとも単純な要素である句の作り方から始め、簡単な文、複文、複数の文と続け、書ける範囲を少しずつ広げていく。基礎が終わったら、上手に作るための注意点や工夫を学び、その後で実際の文章を作ってみる。
 注意点や工夫では、固有名詞の扱い方、発言や引用の方法、数値の適切な表現といった、細かな要素の作り方も含める。こうした点も重要だからだ。実際に作ってみる段階では、社会で使われている代表的なタイプを題材に用いる。当然ながら、単に作ってみるだけでなく、どのように作れば良いのかも教える。
 以上のような点を広く考慮して作ると、作文技術の段階分けされた教育内容は、以下のようになる。

作文技術教育の段階分けの設計例(習得できる能力の明示は省略)
A:1つの文を作る
  ・A01:1つの単純な句を作る(形容詞+名詞+助詞など)
  ・A02:1つの単純な句を作る(副詞+動詞など)
  ・A03:1つの長い句を作る
  ・A04:1つの単純な文を作る(名詞+助詞+動詞)
  ・A05:単純な文に様々な句を加える
  ・A06:受け身の文を作る
  ・A07:単純な複文を作る
  ・A08:単純な複文に様々な句を加える
B:複数の連続文を作る
  ・B01:代表的な接続詞の種類と使い方
  ・B02:代表的な接続型の2つの連続文を作る
  ・B03:その他の接続型の2つの連続文を作る
  ・B04:簡単な流れの3つの連続文を作る
  ・B05:少し変わった流れの3つの連続文を作る
  ・B06:接続詞を省略した連続文を作る
  ・B07:代表的な接続型の4つ以上の連続文を作る
  ・B08:話の展開が少し難しい4つ以上の連続文を作る
  ・B09:似た役割の接続詞の使い分け
  ・B10:代表的でない接続詞の使い方
C:より良い文章に仕上げる注意点
  ・C01:主語と述語の整合性を確保する
  ・C02:形容詞や副詞のより良い順序を決める
  ・C03:名詞などをより適した表現に修正する
  ・C04:固有名称の適切な表現
  ・C05:発言や引用の使い方
  ・C06:数値の適切な表現
  ・C07:特定の要素を強調するような文の作り方
D:文章の構成を整える
  ・D01:文章の主要なテーマと読み手を決める
  ・D02:テーマに必要な要素を洗い出す
  ・D03:中心となる要旨を整理する
  ・D04:簡単な形式で、全体の構成を決める
  ・D05:代表的な要素で、その中の構成を決める
  ・D06:要素の構成に合わせて、文章を作る方法
  ・D07:少し難しい形式で、全体の構成を決める
  ・D08:文章全体での要旨の強調方法
E:代表的な目的ごとの文章の構成と作り方(比較的短い文章で)
  ・E01:状況を説明する文章の構成と作り方
  ・E02:商品の内容を説明する文章の構成と作り方
  ・E03:要望を伝える文章の構成と作り方
  ・E04:質問に回答する文章の構成と作り方
  ・E05:問題点を説明する文章の構成と作り方
  ・E06:解決案を説明する文章の構成と作り方
  ・E07:調査などのデータをまとめる文章の構成と作り方
  ・E08:必要な要素の洗い出しに関するまとめ
F:いろいろな要素の表現術
  ・F01:要約の役割と作り方
  ・F02:タイトルや中見出しの付け方
  ・F03:箇条書きの作り方と使い方
  ・F04:簡単な表組の作り方と使い方
  ・F05:写真の利点と使い方
  ・F06:簡単な図の作り方と使い方
  ・F07:キャプションの付け方
  ・F08:脚注の使い方
  ・F09:添付資料の付け方
  ・F10:代表的な書類目的での要素の利用方法
G:書類として仕上げるための注意点
  ・G01:バージョンによる履歴の管理
  ・G02:表紙の作り方
  ・G03:目次の作り方
  ・G04:ヘッダーやフッターの付け方
  ・G05:行間などで読みやすく仕上げる
  ・G06:書体や文字スタイルの使い分け
  ・G07:読みやすいページレイアウトの基本
  ・G08:段組の上手な作り方
  ・G09:図や写真の入ったページレイアウト
  ・G10:縦書きでの注意点や文字表現
  ・G11:縦書きでのレイアウトの作り方
H:社会生活に必要な作文関連の知識
  ・H01:送り状などに用いる挨拶表現
  ・H02:書類を送付する際の構成品
  ・H03:書類を送付する際に必要な常識
I:文章全体での質を向上させる様々な工夫
  ・I01:重要な用語は先に定義して使う
  ・I02:主語の入れ替わりを意識して調整する
  ・I03:同じ表現の文末が続かないように変化させる
  ・I04:内容を論理的に整える(基礎編)
  ・I05:事実と意見を書き分ける
  ・I06:あいまいでなく正確に書く
  ・I07:実データを利用して信頼度を増す
  ・I08:情報源や調査方法などの明示する
  ・I09:例を示して理解度を高める
  ・I10:代表的な状況や例外の説明を加える
  ・I11:内容を論理的に整える(中級編)
  ・I12:結論などの要点を強調する
  ・I13:内容の全体像を理解させる
J:代表的な書類形式ごとの内容構成と作り方
  ・J01:企画書の内容構成と作り方
  ・J02:提案書の内容構成と作り方
  ・J03:活動報告書の内容構成と作り方
  ・J04:状況報告書の内容構成と作り方
  ・J05:問題解決報告書の内容構成と作り方
  ・J06:商品説明の内容構成と作り方

 A〜Cでまずまずの文章が書けるようになり、D〜Eで上手に構成できる能力を身に付ける。続くF〜Gでは書類として仕上げる技術を学び、Hで書類送付の常識を知る。次のIで書く内容の質を向上させ、最後のJが全部を含めた最後の練習となる。
 この中のEとJが大きな練習であり、もっと多くの題材を含めても構わない。実社会で使う可能性が高いものなら、優先的に入れるのが基本だ。また、実際に試してみて、練習に適さない題材が見付かったら、別なものに変える必要もあるだろう。
 一番難しいのはIの工夫で、すべてを習得できない人もいると予想する。この部分だけは、習得できない段階があったら、そこだけスキップして前に進んで構わない。とりあえずJまで終え、実際に文章を書いて経験を積んだ後で、再び挑戦する方法もある。そのときは、以前よりも習得できるように変わっている可能性が高いので、再挑戦する価値は高い。
 見て分かるように、本当の基礎から少し難しい工夫まで盛り込み、実際に役立つ題材をいくつも書いて練習できるので、全体としては習得の可能性を重視した内容に仕上がっている。山ほどの例と一緒に提供すれば、多くの人が習得できるはずだ。

教材や教育方法:重要な能力なので暗記でも習得可能に

 作文技術の教材作りでは、作文能力の重要度を考慮し、苦手な人にでも習得してもらえるように工夫する。基礎的な段階でも、良い例と悪い例を数多く見せ、例文を暗記しても構わないから、実際に書けるようになってもらう。
 書類作りの段階でも、実例を重視する。要素の構成例を簡単に説明し、実際の例を数多く見てもらう。暗記する方法でも構わないから、実際に書けるようになることが大切だ。世の中で使われる代表的な書類を取り上げるので、社会に出てそのまま役立つはずだ。このように、実際に役立つものを題材として選ぶと、暗記する方法が有効になる。もちろん、各要素が必要な理由も説明するので、可能なら応用できる余地も確保しておく。
 作文での注意点や工夫でも、数多くの例を見せる方法が使える。たとえば、「名詞などをより適した表現に修正する」なら、「大きな単三電池」のような例をいくつも紹介する。大きく作った電池だと、大きさの規格である「単三」ではなくなるため、この表現は間違いとなる。しかし、市販の単三電池を真似て、紙で大きな単三電池を作った場合も考えられる。それだと「大きな単三電池」は間違った表現とは言えないが、良い表現でもない。紙で作った単三電池は、「単三電池」ではなく「単三電池の模型」だからだ。より良い表現の1つは「単三電池の大きな模型」(形容詞の位置も移動)となる。このように、別な言葉で表現した方が適切になる例を山ほど用意して見せると、より適切な表現へ変更する方法が身に付きやすい。
 文章の構成を整える段階では、一般的な考え方の説明に加え、代表的な目的ごとで実際に文章を作らせる。社会で使われる文章を題材に取り上げるので、具体的な要素の例をいくつも見れるし、実際に作る経験までできる。ここでも、例を見て暗記する方法で習得しても構わない。
 以上のように、数多くの実例を見て暗記してでも、書類が作れるようになるように考えてある。作文技術のような重要な能力に関しては、このような工夫をしつこいほど入れることが、個人の学習だけでなく社会にとって大切となる。

他の教科との関連:上位教科は説明技術だが、各種能力教科も大切

 作文技術を習得し終わったら、上位の教科である説明技術へと進む道がある。説明技術では、文章以外の要素を積極的に利用する。対象範囲も広がり、駅の案内板、時刻表、映像作品などに及ぶ。また、より複雑な内容でも、分かりやすく説明できることを目指す。ただし、作文技術と違って必須ではないため、興味のある人だけが学べばよい。
 作文技術を習得して様々な書類を作るようになると、他の能力教科の修得が求められる。たとえば、書類の中で何かを評価する必要があるなら、評価技術を習得していれば、より適切な評価が書けるようになる。また、誰かに質問したり回答する書類なら、質問回答技術の習得が良い結果を生む。このように考えていくと、すべての能力教科が関係してくる。
 どのような教科が必要になるかは、どんな目的の書類を作るかに関係する。それは、自分が進む道に大きく関わるので、その分野に必要な能力教科を順番に習得していけばよいだろう。進む分野が決まってなくても、広く使えそうな能力教科を選んで習得していく方法がとれる。どちらにしても、1つずつ増やしていくしかない。
 実際、習得した能力教科の数が増えるほど、作成する書類の質が向上する。その理由は、書く内容の良し悪しは、様々な能力に直接関係があるからだ。書類の内容を良くしたいと思うなら、広く使えそうな能力教科をできるだけ多く習得するようにすべきだ。作文技術の上位となる説明技術は、いろいろな能力を習得した後で学習するのが、賢い選択かも知れない。

(2000年12月21日)


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