川村渇真の「知性の泉」

今後は価値の高い教育内容を提供すべき


価値の高い教育内容を必須科目で提供する

 何度も繰り返すようだが、既存の教育には、もっとも重要な部分が大きく欠けている。単なる知識の詰め込みを中心に据え、長い時間をかけて“たいていは使いもしない内容”を暗記させる。こんなことを続けていても、あまり意味はない。
 もっと価値のある教育を目指すなら、実際に役立つ内容を提供することが大切だ。それを満たす具体的な項目なら、いくつも挙げられる。伝えたい内容を文章で分かりやすく書く能力、人前できちんと喋る能力、適切に質問する能力、質問にきちんと回答する能力、不明な点を調べる能力、調べた内容を上手に整理する能力など、本当にたくさんある。キリがないので、この辺で止めておこう。
 これらの能力は、実社会で役立つだけでなく、学問の基礎でもある。知識を有効に活用するために役立つ能力なのだ。ところが、学問を教えている学校なのに、学問に必要となる大切な能力は教えていない。どう考えても変だろう。
 以上のような能力は、知識よりも1段上の内容といえる。重要度で比べると、何十倍も何百倍もの価値がある。そして、価値の高いほうを重点的に教えるのが“まともな判断”だ。このような教科は重要度が非常に高いので、任意教科としてではなく“必須”教科として位置づける。簡単には習得できない内容もあるので、どの教科も何年かかけて繰り返し勉強させることが大切だ。

いろいろな視点で教育内容を洗い出す

 これも繰り返しになるが、価値のある教育にふさわしい内容は、幅広い視点で選ばなければならない。学問という狭い視野ではなく、社会の一員として幸福に生きるために必要な知識も、できる限り提供すべきだ。
 非常に残念なことだが、社会には人をだまして儲けようとする人々がいる。簡単にだまされないように、いろいろな知識を与えることも重要だ。単なる知識だと役に立たないので、だます状況を擬似的に体験し、断ったり逃げたりする術を身に付けさせる。加えて、困ったときに相談する先とか、上手な相談方法なども教える。これも可能な限り練習させて、体で覚えてもらう。
 社会へ上手に参加するための能力も、できるだけ多く習得してもらいたい。団体を上手に運営するための知識を教え、リーダーやメンバーの役目を体験してもらう。わざと問題を発生させ、そのときの対処方法をみんなで学ぶといった具合にだ。ボランティア活動なども、単に参加するだけでなく、実際に感謝してもらえる工夫を用意する。それが貴重な体験となり、より高い意識が生まれるだろう。
 自分で人生を切り開くときに役立つ能力も、教育の対象に含める。感情を上手に制御するとか、何でも他人のせいにせず、自分で努力するように仕向ける。これが一番難しいが、絶対に無理なことではない。先進国では様々な試みがされていて、そのノウハウを積極的に集めたい。
 他にも、貴重な成果を残した人の話を聞いて視野を広げるとか、価値観の違う人と話すとか、いろいろな方法が考えられる。ネットワークを積極的に活用すれば、今までなら難しいことでも、低コストで実現できる。後は、アイデア次第だ。
 以上のような教育内容は、たとえ親が何も教えてくれなくても、学校が重要なことを教えてくれる社会の基礎となる。そんな教育を受けた人が増えれば、社会はもっと良い方向に進むはずだ。

教科ごとに体系化して訓練可能な形に仕上げる

 選び出した教育内容は、多くの人が習得できるように整理して構築しなければならない。教科ごとに、全体を論理的に体系化し、教育カリキュラムに落し込むのが最終目標だ。
 教えたことを実際に使えなければ意味がないので、どの教科でも“実用的なノウハウ”を重視する。体系化では、それを含めた形で整理しなければならない。ノウハウを集めるためには、ノウハウの構築が得意な人に任せるのが一番だ。教科ごとに全国から人材を募集し、各人が生み出したノウハウを見せてもらい、それを見て選べばよい。この部分は、“誰に作ってもらうか”が非常に重要で、もし人選を誤るとロクな結果が得られない。
 最終的には、実際に訓練できるカリキュラムにまとめる。何度も受講して能力を身に付けるので、段階的に身に付ける工夫を組み込む。単純に訓練を繰り返すのではなく、どんな点に注意したら上手に出来るのか、背景にある理論も一緒に教える。その意味で、教えた理論を習得できるように、訓練内容を設計しなければならない。深く考えずに訓練内容を決めていてはダメだ。
 以上のような教育内容に仕上げるためには、システムや作業などの設計技術、情報表現術といった能力が求められる。ハッキリ言ってしまうが、既存の教育内容を作っている人には無理だろう。そのため、高い能力を持った人材を集めることが、教育内容を作成するための第一歩となる。また、人材を集める人には、堅い能力を見抜ける眼力が必要だ。まず最初に、人選を担当する優秀な人材を見付けなければならない。

(1998年12月23日)


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