川村渇真の「知性の泉」

知識以外の教材では作業分割と整合性検査が重要


工程分割と工程間の整合性検査が教材では重要

 知識以外の教材は、生徒が実習できる形で提供すべきである。ただし、教育内容をきちんと身に付けてもらうためには、何も考えずに作ってはダメだ。習得した内容が実際に役立つように、教育内容を整えなければならない。その際に重要なのが、工程分割と工程間の整合性検査だ。これを満たす形で教育内容を作れば、質の高い教育内容に仕上がる。
 工程分割とは、全体の作業を数個の工程に分ける方法である。分割した工程単位で学習する形になり、小さい学習単位によって習得も容易にできる。多くの人に教えるための工夫である。なお、ここでいう作業工程とは、最終的に習得した段階で利用するものを指している。
 複数の工程に分割した場合、各工程で作成すべき内容も規定する。それが作り終わったとき、その工程を終了したと判断できるようにだ。このように作成物まで規定すると、何を作ればよいのか明確に伝わるし、それを工程単位での目標として使える。結果として教えやすい。
 工程間の整合性検査とは、連続する工程間で作成する内容が、適切かどうかを検査することである。後ろ側の工程で作成した内容が、前側の工程で作成した内容と整合性が取れていなければ、適切に作られていないと判断する。工程分割では必須の機能だ。具体的な中身としては、どのような点をどんな風に見るのか、検査方法として規定する。
 整合性検査を用意すると、第三者による作業内容のレビューも可能になる。扱う対象が重要なほど、第三者によるレビューも必要性が増す。レビューするのも目的なので、作成内容を説明する報告書の記述方法も、レビュー可能な形で規定する。
 以上の話を整理すると、知識以外の教材が満たすべき条件は、以下のような項目になる。

知識以外の教材が満たすべき条件
・複数の工程に分割し、工程単位で修得可能にする
・工程ごとに、作成物を細かく規定する
・全体の結果報告の書類形式を、レビュー可能な形で定める
・工程間の整合性を検査するための検査方法を用意する
・必要なら、上記内容のアレンジ方法も加える

 最後に付けたアレンジ方法は、必要だと判断した場合にのみ加える。教育する対象によっては、標準の工程に固執するのが適さない場合もあるからだ。ただし、こういった内容は上級に属するので、習得したい人にだけ一番最後に教える。

評価技術を例に説明すると

 ここまでの説明だけだと、抽象的すぎて理解できない人がいるかもしれない。もう少し具体的に解説しよう。題材として取り上げるのは、物事を評価する方法、つまり評価技術だ。
 評価技術では、作業の基本部分に限れば、全体を以下の4つの工程に分ける。これには、作成物の検査といった付加的な作業は含まれてない。

評価技術の基本部分の作業工程(作成物)
1. 評価の目的を適切に作成する(評価目的)
2. 評価目的に合った評価基準を設定する(評価基準)
3. 評価基準から評価方法を規定する(評価方法)
4. 評価方法を用いて評価結果を得る(評価結果)

 以上の工程を基本にして、工程ごとの作業内容を明確にする。工程内を複数の小工程に分割したほうが分かりやすいので、可能な限り階層的な工程としてまとめるのが基本だ。工程の大小に関係なく、工程内で作業すべき手順を明らかにすれば、教育可能な内容に仕上がる。
 工程ごとの作成物は、中身と作り方をできるだけ具体的に規定しなければならない。作成物が書類であれば、書式を設計するとともに、書き方を説明した書類も用意する。他の作成物でも同様だ。ただし、作り方の説明に関しては、工程の作業内容と重複する部分を省略して構わない。
 全体の報告書の書式も、できるだけ具体的に規定する。これは必ず書類となるので、書式を定めてから、書き方を説明した書類を用意する。実際の記入例も加えて、分かりやすさを向上させる。
 工程間の整合性検査は、検査すべき箇所と検査内容を定める。検査箇所には大きな要素と小さな要素が含まれるので、大きな要素を先に、小さな要素を後で検査する形で、検査の手順をまとめる。こうした条件を満たすように、検査手順書と検査項目リストを用意しなければならない。なお、工程間ごとに検査内容が異なるため、手順書とリストは工程間ごとに作る。評価技術は4工程なので、工程間は3つあり、全部で3つの手順書とリストを作成する。

最終的な教育内容を段階的なカリキュラムに変換する

 以上のような視点で作成した教育内容は、最終的に習得すべき姿である。しかし、この形を最初から一気に教育できるわけではない。最初は簡単な部分から教え、段々と難しくなる進め方が望ましいし、習得できる人の数も増える。そのために、最終的な教育内容をいくつかの要素に分け、段階的なカリキュラムに変換する必要がある。
 どうやって変換するかは、対象となる教育内容の特性によって異なる。一番良いのは、全行程をそのまま簡素化して教えられる場合だ。最初から全行程を説明し、段階的に工程内の作業を詳しくしていく。最初から全体像が見えているし、全体の流れを常に意識しながら学べるため、もっとも理想的な方法といえる。
 全体の簡素化が難しい場合、工程単位で順番に教えられないか検討する。もし可能なら、最初に全体像を示すとともに、習得しやすい工程から先に教える。評価技術であれば、4番目の評価結果を得る工程を先に教え、だんだんと前の工程にさかのぼる。どのような順序にすべきかは、教育内容の特徴で決めるしかない。
 それも無理な場合、独立して取り出せる要素を見付け、その中で習得しやすい内容を先に教える。教えた要素が増えてきたら、工程の流れを教えて、全体を見渡せるようにする。教えられる側にとっても大変だが、他の方法がないなら仕方がない。
 実際には、上記の3つの方法を上手に組み合わせながら、教育内容に適したカリキュラムを作ることになるだろう。実施した結果を参考にし、何度かの改良を経て、良い形を見付けだす。こうした数回の試行錯誤はやむを得ない。どんな形であれ、最終的な工程から外れないように注意する。そうしないと、教えられ側が混乱するからだ。

何度も繰り返すと習得できるように工夫

 カリキュラムも、細かな工程の集まりとして整理することが重要。工程ごとに習得すべき内容と作成物を規定し、実際に教育できる形に仕上げる。その内容は、できるだけ本来の作成物と近い形にしなければならない。それによって、最終的な方法へと無理なく移行できる。
 カリキュラムが決まったら、それに従って教材を作成する。教材で大切なのは、必要な項目が含まれた記入用紙を、積極的に利用する点だ。教育の初期段階では、どうやったら良いのか分からない人が多い。記入するだけの用紙があれば、迷わずに作成することができる。終わらないと次回はヤル気にならないため、とりあえず毎回完成させられる点を重視しているわけだ。
 実際の教育では、毎回異なるテーマを与えながら、記入用紙を使って何度も繰り返す。記入用紙に含まれる項目の意味も、当たり前だが毎回説明する。しかし、理解しない人がいても、あまり気にしない。最初のうちは、書き方を覚えてもらうことを重視すべき。これも大切な点で、説明しただけでは理解できない人を考慮している。
 良く書ける人を増やすためには、記入例を数多く用意する方法が効果的だ。良い例だけでなく、悪い例を多く見せ、どんな点が悪いのか、どうすれば良くなるのかを知らせる。説明されてもピンと来ない人のうち、数多くの例を見れば理解できる人もいる。たくさんの例を見せることは、意味の分かる人を増やす効果がある。
 実際に書いた内容は教師が添削し、直したほうがよい部分を知らせる。生徒本人が書いた内容を直すことで、より正しく書けるようになる。ただし、添削で注意すべきなのは、何から何まで直さない点だ。カリキュラムで対象としている要素だけを指摘し、それ以上の要素は上位の段階で学ばせる。
 書き方を覚えると余裕ができるため、項目の説明を聞くようになる。最初は一部だけしか理解できなくても、実際に書きながら何度も説明を聞くことで、少しずつ理解できるようになる。細かな点まで分からなくても、大まかに分かった人が増えることが重要なのだ。

 手順と大まかな意味の分かる人が増えると、世の中は確実に変わる。教育対象が評価技術であれば、マトモでない方法での評価結果は、おかしいと感じる人が多いため、どうしても通用しなくなる。これが教育の最終的な成果であり、社会が進歩したといえる。
 このような状態を実現するためにも、より多くの人が習得できる教材を作らなければならない。学習を何度も繰り返すと習得できるように、記入用紙を積極的に利用するなど、いろいろな方法で工夫することが大切だ。

(2000年3月9日)


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