川村渇真の「知性の泉」

ネットワークの利点を活用した教材に


全体を体系化して、途中での追加を容易に

 価値の高い教育を実現するためには、ネットワークの幅広い利用が欠かせない。単にネットワークを利用するだけでなく、コンピュータやネットワークの利点を最大限に生かして教材やサービスを設計することが求められる。
 紙の教材と比べてもっとも異なる点は、量の制約がほとんどない点だ。文章なら必死で書いても全部を入れられるし、図でも写真でも相当な数を含められる。制約は作成の手間に変わる。最初から全部を用意するのは大変なので、段階的に作り進むことになるだろう。
 説明の量を気にしなくて良いため、1つのことを複数の方法で説明できる。また、より詳しい説明も好きなだけ用意できる。最初は大まかな説明を読み、それで分からなければ詳しい説明を読む方法が使える。説明する内容に応じて、何段階かの説明を用意すればよい。
 教材作りでは、図を多く含めるように努力する。単なる図ではなく、イメージを持てるような図が大切だ。たとえば、微分のように実際の様子を目で見れない内容を理解するとき、概念を適切な図で表現して提供し、頭の中でイメージするのを手助けする。通常の式と微分式の両方をグラフ化し、個々の点での値の変化を説明した吹出しを何個も付ける方法も良いだろう。もっと概念的な図でも構わない。いろいろな人からアイデアを募れば、良い図が何枚も描けるはずだ。1つの図では難しいので、何枚もの図を用意したい。いくつもの式をグラフに描くとか、値の一部を変化させてグラフの変化を見るとか、とにかく数多くの例を紹介する。種類が多いほど、イメージが持てる手助けとなる。他の教科でも同様に、できるだけ内容をイメージできる図を提供する。
 教材を途中で追加する方法なので、最初から体系化して整理することが非常に重要だ。階層的に分野を整理するだけでなく、リンク機能を利用して複数の異なるインデックスを持たせればよい。目的の知識に様々な経路からたどり着ける形で仕上げる。

学習者の使い勝手も充実させる

 ネットワークを利用した教育では、教材を使用する側の使い勝手も向上させなければならない。代表的な機能をいくつか挙げてみよう。
 まず、学習プランとの連携が必要だ。生徒には個別の学習プランを提供するので、該当個所を素早く呼び出せなければならない。リンクのアドレスがずっと変わらない仕組みを用意し、学習プランには該当する内容のアドレスを埋め込む。実例の紹介、用語解説、別な意見など関連する情報へのリンクは、教材側に含める。用語解説などのリンクは、ソフトウェアで自動生成する仕組みを用意すれば、さほど手間をかけずに充実したリンクが作れる。教材に用意されたリンクのうち、生徒に見てほしいものだけ学習プランに入れる。
 学習がどこまで進んだのか、記憶する機能も必要だ。次の学習で前回の続きから始められる機能を提供する。これはクライアント側のソフトで対応するのが現実的だろう。複数の教科を並列で学習するので、記憶した内容を整理して見せる機能も必要だ。
 学習で読む教材は、関連する分野も含めると相当な数になる。また、途中で興味のある資料へジャンプしたり、学習プランとは関係のない資料を読むこともある。後で読み直そうと思ったとき探しやすいように、読んだ資料へのリンクをログとして残す。指定された期間だけ保存するとか、ずっと残す機能も付け、生徒が選べるように作る。
 学習者からのフィードバック機能も用意する。読んだ説明が理解できたのかできなかったのか、回答する機能を持たせる。このデータを分析して、教材の改良に役立てる。また、理解できなくて悩んでいる生徒を、個別に手助けする際にも利用する。理解できてない箇所を教師が調べ、もっと丁寧な説明を紹介したり、関連する資料を見せたりする。それでもダメなときだけ、教えるのが得意な教師と対話して疑問点を解消し、その結果を教材にフィードバックする。
 これらの機能は、すべて学習プランと連携させなければならない。学習がどこまで進んだのか、学習プランを見て把握できるような機能を提供する。それを教師が見て、アドバイスするための資料としても役立てる。場合によっては、学習プランの変更を検討するだろう。

一般の人にも教材を公開する

 以上のような教材は、アクセスするソフトも含めて、一般の人にも公開する。教育用の資料としてだけでなく、社会の財産として多くの人に使ってもらったほうがよい。理想敵には無料だが、それが難しいなら非常に安い料金でアクセスできるように工夫する。ただし、質問への回答に関しては、余分な手間が発生するので、有料にして費用を負担してもらう。
 世の中では生涯学習が注目されているが、教材が誰でも使えることで、社会人の学習を大きく支援する。興味がある分野を選び、自分で勉強すればよい。生涯学習を支援するために、学習プランの作成機能も公開する。できるだけ手間をかけないように、ソフトによる対話型のプラン作成を提供する。人間の専門家に設計してもらいたい人向けには、有料版を別に用意して対応する。
 誰もがいつでもアクセスできれば、暗記する必要性は格段に減る。これは、社会にとって非常に重要なことだ。暗記するための時間や労力を、もっと意味のある活動に割り振れる。その分だけ能力の向上に役立ち、充実した人生に変える可能性を高められる。無駄な暗記は極力避けるのが、未来社会では常識になるのだ。暗記するのは、本当に必要な知識だけに限定する。
 調べるのに時間がかかると学習効率が低下するので、インデックスの充実、検索機能の強化などは必須となる。検索結果で重要なのは、該当する細かな知識だけを提供するのではなく、関係する分野を体系的に見せる点だ。分野全体を把握できるように情報を整理して見せ、枝葉の知識だけを知るような状況を避ける。簡単に調べられるので、該当分野の全体像を理解することが求められるからだ。
 広く公開することで、多くの人が教材を読むようになる。中には、教材の問題点を指摘したり、より上手な説明を提案する人もいるだろう。良い意見を集められる仕組みを用意し、教材へ定期的にフィードバッグする。時間はかかるだろうが、教材の質は確実に向上するはずだ。改良案を集めていると告知すれば、協力してくれる人は数多く出ると思われる。このような仕組みこそ、ネットワークの最大の利点である。

 一般の人向けに教材を公開し、教材の中身が充実してくれば、世の中に大きな変化をもたらすだろう。特に重要なのが、問題分析や議論手法などのノウハウに関する教材の提供だ。教材だけでは習得は難しいが、丁寧に説明すれば自分で試してみて習得する人が増える。習得した人は別な人に教えられるので、だんだんとだが習得する人は増す。いろいろな能力を多くの人習得する段階では、社会全体での能力がかなり高まると予想する。詳しい話は省略するが、良い教材の広い提供は、社会が進歩する大きな基礎となるはずだ。

(1999年4月26日)


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