川村渇真の「知性の泉」

新しい教育に適した教材の製作と提供


ネットワーク経由で教材を提供する

 どんな教育でも、教える内容を記述した教材を使用する。新しい教育でも教材を用いるが、その位置付けは現在とは大きく異なる。今の教育と比べ、教材の重要性が格段に増すだけでなく、新しい教育の基盤になる。その意味で、質の高い教材を作らなければならない。
 新しい教育では、暗記の必要性を最小限に抑える。それを実現するためにも、ネットワークの最大限の活用は不可欠だ。必要な資料を、誰もがいつでも読めて、必要な情報を素早く探せれば、わざわざ暗記する必要がない。このような状況を作るため、ネットワーク経由で教材を提供する。
 残念ながら、教材のすべてをネットワーク経由で提供することは難しい。実験や体験に使う教材だけは、実際の物体として提供するしかない。しかし、それ以外の教材は、すべてネットワーク経由へと移行する。見たい人は、コンピュータを用いてアクセスする。学校からだけでなく、自宅からでもアクセスが可能だ。また、好きな時間に見れるし、ゆっくりと時間をかけて読んでもよい。
 ネットワーク経由で多量の教材を提供すると、見たい資料を探すのが大変だ。ただし、この点は作り方で何とでもなる。インデックスの種類を増やし、何種類ものアクセス経路を用意すれば、苦労せずに実現できる。それに新しい教育では、生徒ごとに学習プランを設計する。見るべき教材を所在場所を一緒に渡せば、基本的な資料に関しては探す必要がない。それぞれの教材には、関連するリンクを用意するので、そこから他の資料も簡単に呼び出せる。それ以外の資料が見たいときだけ、検索機能を利用する。全体としては、困る状況が起こりにくい。

ネットワーク経由の教材にはメリットが多い

 ネットワーク経由で提供するため、紙の教科書に比べて多くのメリットが生まれる。もっとも大きいのは、同じ内容を記述するのに使える説明量だ。テキスト中心で作る場合なら、書くのが大変なほどの文章量でも大丈夫なので、非常に丁寧な説明も可能になる。静止画ならデータ量がさほど多くないので、かなりの数の図を利用できる。もし必要だと判断すれば、音、動画、アニメなども加えられる。このような自由度があるので、現在の教材よりも分かりやすく作るのが容易になる。
 2番目のメリットは、関連する内容を簡単に呼び出せる点だ。調べる手間が不要になれば、学習効率はかなり向上する。調べるのが面倒だと勉強がイヤになるが、簡単に調べられると意欲を低下させないので、勉強が嫌いになる可能性を低くする効果もある。また、関連項目を簡単に調べられるため、暗記の必要性をますます減らせる。
 3番目のメリットは、紙を使わない点だ。相当な量の紙が不要となるので、森林から木材を伐採する量も減る。教育全般で紙を不要にするためには、関係者のほとんどがコンピュータとネットワークを使えなければならない。この点は他の分野でも同様で、しだいに条件を満たすであろう。
 ネットワーク経由で提供する教材は、一般の生徒が使うだけでなく、一般の人にも公開すればよい(アクセス料金を徴収すべきかどうかは、ここでは論じない)。誰もがいつでも勉強できれば、社会全体で勉強の意欲を高められる。

分かりやすさを最大限に高める

 教材作りで一番重要なのは、分かりやすさを徹底的に高めることだ。それにより、知識の取得に関しては、読むだけで勉強できる状況が作れる。読んで分かることを、わざわざ口頭で説明する必要はない。
 教師が直接教えたほうが絶対に分かりやすいと思っている人がいるかも知れない。しかし、それは大きな間違いだ。まず、教師の能力にはバラツキがあり、その結果として当たり外れが生じる。これは大きな問題である。また、能力にもいろいろあり、基礎的なことを優しく教えるのが得意とか、難しいことを上手に教えるとか、人によって得意な部分が違う。全部が得意な教師はいないだろう。
 新しい教材は、いろいろなノウハウを投入して、非常に分かりやすく作る。たとえば、説明の非常に上手な教師が教える方法を調べ、その人が喋ったり見せたりする内容を教材にする。そのとき単純に変換するのではなく、文章や図の上手な作り方の法則を反映させ、分かりやすさをさらに上げる。こうして作成した教材は、たいていの教師の説明よりも分かりやすいはずだ。
 人間である教師が得意とするのは、相手と話しながら教えることだろう。どの部分が理解できないのか、生徒の話を聞いたうえで、説明内容を変えることが可能だ。しかし、知識の習得に関しては、この点でも教師より良い教材が作れる。たいていの疑問点は共通しているので、丁寧に説明したQ&Aを作ることで、読んで分かるようにできる。もし載っていない疑問点が見付かったら、どんどんと追加すればよい。これらの工夫でも分からない人にだけ、教師が教えることになる。ただし、丁寧に説明した教材でも理解できない場合、その分野の適性が相当に低いと推測される。そのまま教え続けるのではなく、別な道へ進むことを一緒に検討するほうが、生徒のためだろう。
 新しい教育では、教師にはもっと別な仕事がある。知識以外の内容を教えるとか、方向性を与えるなどの仕事が待っている。現在のように、知識を口頭で教えることに時間を使う暇はない。新しい種類の仕事に教師が専念するためにも、分かりやすい教材は必須だ。

(1998年12月21日)


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