川村渇真の「知性の泉」

集中式の学習方法で習得度を向上させる


必要な内容だけに絞って学習する

 今後の社会では、今よりも多くの能力が求められる。そんな時代へ適応するには、教育の効率も重視しなければならない。では、教育における効率とは何だろうか。
 パッと考えて思い付くのは、今まで20時間かかって教えていた内容を、15時間で済ませることだろう。しかし、これは教える側から見た評価で、成果である習得度を考慮していないので、ほとんど意味がない。もっと大切なのは、生徒がどれだけ習得したかだ。その意味で、どれだけの時間をかけて、どの程度まで習得できたかを、教育の効率と捉えればよい。なお、現在のような暗記中心の教育で、暗記度を調べるテストの点数が高いからといって、習得度が高いとは限らない。
 習得度重視の学習効率を上げるには、2つの改善が考えられる。最初の1つは、無駄な作業をできるだけ省くことだ。対象の1つとして、無駄な暗記が挙げられる。情報ツールが発達した状況では、暗記の必要性はかなり減る。漢字を書くこと、科学関連の公式、歴史上の名前や年数など、調べれば済む内容には暗記を求めない。また、暗記を前提とした試験もやらない。暗記を求めるのは、本当に暗記しなければならない内容だけに限り、その範囲を細かく明示する。
 暗記の必要性を減らす環境整備も重要だ。勉強した内容を後から思い出せるように、対象分野の全体像を整理した資料を用意する。内容を体系化して見せるとか、公式などは簡単な説明付きの一覧にするとか、重要な項目を分類して並べるとか、いくつかの形式が考えられる。これら全部を用意すれば、それほど苦労せずに思い出せるだろう。対話型のオンライン・ヘルプのように作って、詳細内容へのリンクも付けると、必要な箇所だけ容易に調べられる。このような環境を整えることで、暗記の量を極力減らし、本当に必要な内容だけを暗記させる。
 どの内容を暗記すべきかは、将来の目標に大きく関係する。何かの設計者を目指すなら、文系の人よりも数学の公式を多く暗記したほうがよいだろう。その意味で、暗記すべき内容の範囲が、各人の目標と連動するような仕組みも用意する(厳密に考えなければ、簡単に実現できるはず)。

達成感が持てる学習量で、毛色の異なる2〜3教科を並行して学ぶ

 学習効率を上げるための2番目の改善点は、特定の教科を集中して学習させる方法だ。社会に出て勉強する場合、数多くの内容を並列で勉強する方法は採らない。どれかに集中して学習し、短期間で習得しようとする。そのほうが効率的だからだ。同じ考え方を、学校の勉強にも取り入れる。ちなみに、現在の学校が複数の教科を並行して勉強するのは、学習効率を深く考えていないことと、教師側の都合を重視してのことだろう。
 教科ごとに集中して学習する場合、具体的にはどのような点を考慮したらよいだろうか。これは結構難しい問題で、実際に試してみて改良する必要がある。とりあえず、学習効果が大きそうな点を挙げてみよう。
 教科ごとに集中してと述べたが、その区切りは現在の教科と同じではない。もう少し小さく分けた内容のほうが適する。決める際の考慮点は3つある。ある程度の量をまとめて勉強した方が効率的なので、できれば多くしたい。しかし、もう1つの考慮点として、学習の達成感も重要である。長くても1週間ぐらいで終わらないと効率が低下する。最後の1つは、1つの教科だけに集中すると飽きやすいので、毛色のまったく異なる2〜3つの教科を並行して学ばせる点だ。これらを総合すると、学習する時間で10〜20時間が適当と思われる。ある程度の達成感を持って終わらせ、次の課題へと進んでもらう。
 毛色の異なる教科を並行する件だが、現在の教科に含まれるような学習内容と、今は教えてない教育内容を組み合わせる。後者には、調査方法を知って与えられたテーマを調べたり、分かりやすい表現を知って意見を発表したり、きちんとした討論ルールを知って議論するような学習が該当する。教育内容によっては、チームで勉強することになるだろう。

苦手教科ではリフレッシュする仕組みも必要

 集中して学習する方法では、理解できない部分に突き当たると、そこで停止するのが欠点だ。それを解消するために、いろいろな形でサポートする仕組みを用意する。もっとも効率的なのは、ネットワークを利用する方法。すぐに回答が返ってくる電子メール質問箱、文字によるチャット、ネットワーク経由の電話、同様のテレビ電話など、いくつかの方法が考えられる。負荷が小さい方法から順番に試して、最悪の場合にはテレビ電話によるマンツーマン指導を用いる。学習内容に対する本人の適正が低いほど、負荷の大きな方法を使うことになるだろう。
 このようにして疑問点を短時間で解消できると、学習の効率はかなり向上する。どんな勉強でも、疑問に感じた時点で回答が得られれば、理解も早いし記憶にも残りやすい。よく分かっている人が助言するので、付加的な情報などが一緒に得られて、学習の深さや幅も広がる。
 集中して学ぶ場合に困るのが、あまり興味のない教科の勉強だ。基本的には、自分が選んだ将来像に必要な教科が揃っているので、興味を持つ可能性は高い。しかし、適正の低い苦手教科だと分かると、どうしても興味が薄れてしまう。そんな場合でも続けさせるためには、本人の目標にとって必要だと訴えるとともに、リフレッシュする方法を提供したい。遊ぶのではなく、本人の興味のある学習を選ぶ方法でだ。興味のある教科だと気分が良くなるので、苦手な教科による精神的な負担が減る。それが無理なら、勉強以外のことを入れる。もし苦手教科を楽しみながら学習できる特殊な方法が見付かれば、そんな改良でも構わない。
 途中でリフレッシュが入るので、苦手教科の学習日程は2倍程度に延ばす。10倍以上などと極端に延ばすと集中の効果が薄れるため、最大でも3倍までにする。一部のケースでは、延ばした日程をオーバーしないように、精神面での助言も必要だろう。この種の補助も、ネットワークを通じて利用できるようにしたい。全体としては、生徒がヤル気を保つように、いろいろな方法を組み合わせることが望ましい。

 以上のような考え方で、集中して学習できる体制を確保する。習得度を高めるのが一番重要なので、実際に試しながら細部を調整する必要があるだろう。また、習得度をさらに高めるためには、ここで紹介した以外も良い方法なら盛り込み、どんどんと改良し続けなければならない。

(1999年7月17日)


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