川村渇真の「知性の泉」

学習内容を各人が自由に設計する


専門家と相談しながら学習プランを作成する

 多くの学習内容を必要になったら勉強する方式では、生徒ごとに学習する内容が違う。そのとき重要なのは、各人の学習プランを作ることだ。
 しかし、学習プランは生徒だけでは作れない。相談に乗れる専門家(もし可能なら教師がなっても構わない)を育成し、話し合いながら作成するようなルールにする。そのとき、生徒の将来の希望を単純に聞くだけではない。なりたい職業が決まっているなら、その中身を正しく認識しているかも確かめる。また、生徒の適性を試験で調べ、その結果を伝えるとともに、希望する職業に適性があるかを検討し、本人と正直に相談する。
 プラン作りで重要なのは、生徒自身が納得するかどうかだ。納得できない学習プランを決められても、自発的に勉強するはずがない。もし適性が低い分野や職業を希望したとしても、本人が絶対にやりたいのなら、その方向でプランを作る。もし生徒が何も決めてないときは、適性試験の結果などを参考にしながら、いくつかの選択枝を提示する。生徒自身が選ぶことが重要なので、ある程度の数の選択枝を示さなければならない。選んだ選択枝をもとに、学習プランを設計する。
 学習内容の中には、全員が学習しなければならない教科も含まれる。小学校の低学年なら、既存の教科のほとんどが該当するだろう。高学年以上では、現在の教育内容とは異なり、社会の一員として役立つ内容が必須科目になる。これらの教科を必ず入れて、学習プランを設定する。

興味のある分野を見付ける段階からサポートする

 学習プランをどのように決めるのかも大切なので、簡単にだが説明しておこう。大まかには、以下のような手順になる。

学習プランを決める基本的な手順
1、興味のある分野や方向性を見付ける
2、その中で興味のある職業を見付ける
3、その職業に必要な教科を洗い出す
4、効率的な学習順序を決める
5、個々の教科の学習に必要な時間を計算する
6、必須教科以外の時間に、選んだ教科を割り当てる

 まず最初は、興味のある分野や方向性を見付ける作業だ。そのためには、どのような分野や職業が世の中にあるのか、数多く知らなければならない。できるだけ多くの仕事を知ってからでないと、本当に好きで選んだとは言えないからだ。ネットワーク上のデータベースとして、あらゆる分野と職業の紹介を用意する。職業ごとに実際に働いている人を集めて、良さや悪さを正直に話してもらい、ムービーの形で誰もが見れるようにする。各職業で100人以上を用意すると良いだろう。
 数多く見た中で気に入った分野や職業が見付かったら、実際の職場を見学する。見学の際には、その職業の人と話たり質問できるようにする。それによって、自分が頭の描いているものと一致するか、ある程度の確認ができるだろう。このように進めながら、興味のある分野や職業を見付けてもらう。具体的な職業が決められないなら、興味のある分野だけでも構わない。
 学校に入った最初のうちは、決まった学習内容を勉強するので、その間に多くの分野や職業に触れることができる。いろいろと見る時間は十分にある。
 分野や職業が定まると、学習に必要な教科が絞られる。職業まで決まっているとかなり絞られるが、その分野の他の職業に変わることも十分に考えられるので、その点も考慮しながら教科を選ぶ。基本的には、分野に共通の教科を多く選び、職業に関係する教科で残りを埋める。
 教科の学習順序は簡単に決まるはずだ。難しいのは学習時間で、生徒ごとの適性に大きく関係する。実際に試してデータを集めて、平均の学習時間を求める。それを参考にプランを作成し、実際にかかった時間を調べて後から補正すればよい。絶対的な時間数はあまり気にせず、各人に合った進め方で学習させたほうがよい。

定まらないときは方向性だけでも仮に設定する

 いろいろな資料を見たり、何カ所かの職場を見学しても、これはと思う分野や職業が見付からない生徒もいるだろう。そんな人のために、分野や職業を定めなくても学習プランが作れるようにする。
 具体的な将来像を描けなくても、何かしら興味のある方向性は何かしら持っているはずだ。たとえば、スポーツが好きだとか、技術的なことに興味があるとか、芸術が好きだとか。このような意見を参考にして、ある程度の方向性を仮に決める。
 方向性が決まれば、教科を選ぶことができる。技術に興味があるなら、数学や物理を中心に、いろいろなモノの制作や設計の基礎なども含める。スポーツに興味があるなら、何種類かのスポーツにトレーニングや健康管理を加え、大会運営などの裏方の仕事に必要な教科も用意する。その分野に関する現実の世界を見て、教科を幅広く捉えることが大切だ。そうすれば、多くの人が興味のある分野に参加できる可能性を高められる。たとえば、スポーツ好きでも実際にプレーするのが得意でない人なら、運営側などの形で仕事が得られるはずだ。仮決めした場合は、とりあえずの学習プランで勉強しながら、興味のある分野を探し続けることになる。
 もう1つの考慮点は、興味のある分野が1つとは限らないこと。その場合は、どちらか片方に比重を置き、もう片方を補足的に加えて学習プランを作る。たとえば、1つは職業を目指して、もう1つは趣味として勉強したいケースが該当する。どうしても選べないなら、2つの分野を同等に扱っても構わない。ただし、あまりに多すぎると集中できないので、できるだけ2つまでに絞ってもらう。ある程度絞った学習プランで実際に勉強してみて、後から別な分野へと修正すればよい。

学習プランは必要に応じて修正する

 作成した学習プランは、絶対的なものではなく必要があれば見直す。その時期も、生徒によって異なる。作成したプランが合わなければ早目に見直すだろうし、合っていれば長く続ける。実際にやってみた感想を考慮して、見直しが必要かを判断する。
 見直すかどうかに関係なく、学習の進め方に関しては、専門家から定期的に助言を受ける。疑問や不安などがあれば、率直に尋ねられる体制を作る。何もなくても、毎月1回は専門家の面談を受ける形にすればよい。
 学習プランに従って勉強してみると、プランが本人に合っているかどうかだけでなく、興味ある分野が適しているかも分かってくる。たいていの場合は、適性のある分野へ進んだほうが良い結果を出せるし、良い結果を出せたほうが本人も幸福な気分になりやすい。プランを実際に試すことで、選んだ分野が適切だったかも分かってくる。
 いくつかの分野で学習プランを試すうちに、本人に合った分野が見付かる可能性が高い。つまり、将来のために自分の進む分野を見付ける効果も持つ。教育する期間が長いので、見付ける時間は十分にある。

(1998年10月24日)


下の飾り