川村渇真の「知性の泉」

議論本番での進め方


問題解決を例に議論の流れを紹介する

 参加者が実際に集まって議論する場面では、上手に進めないと期待した結論が得られない。適切な結論を導き出そうと、きちんと議論するためには、議長の議論運営能力が求められる。議論の流れとともに、議長の役割を簡単に説明しよう。
 議論をどのように進めればよいかは、対象となるテーマによって異なる。また、検討手法の持つ工程に合わせるので、どんな検討手法を採用するかにも依存する。検討手法を特定しないまま説明すると、あまりにも抽象的過ぎて説明する意味がないので、ここでは問題解決を目的とした議論を例として取り上げる。採用する検討手法は、原因究明から始まる一般的な問題解決方法を想定した。
 問題解決を目的とした議論では、議論本番での流れは以下のようになる。あくまで一般的な例だが、典型的な流れを示している。

議論本番での一般的な流れ(問題解決の場合)
1. 議論内容の主な要素を全員で確認する
2. 問題点や原因を自由に検討する
3. 解決などに役立つアイデアを出す
4. 出されたアイデアの比較して評価する
5. 実現可能な結論候補を何個かに絞り込む
6. 結論候補を評価して1つに決める
7. 議論全体の流れと結論を整理して確認する

 この流れを簡単に説明しよう。まず最初に、その議論が対象とする範囲を明らかにする。どの範囲まで議論し、どれを議論しないのか、議長が明確に示す。次に、その時点で分かっている事実を整理して提示する。これらの内容は、議論の準備段階で配布してあるはずなので、単なる確認でしかない。

工程ごとに成果物を整理してから次へ進める

 ここからが本当の議論だ。分かっている事実をもとに、問題点や考えられる原因を挙げてもらう。ある程度出揃ったところで、それらの関係の検討に移る。問題点と原因の関係を明らかにし、原因と原因の関係も可能な限り整理する。こうした作業により、本当の原因が絞り込みやすい。
 続けて、解決に役立つアイデアを自由に出してもらう。突飛なアイデアでも何でも出してもらうことが大切なので、できる限り批判をせず、欠点が見えたら改良案を提示するだけに限定する。もし批判的な意見を言う人がいたら、議長がすぐに止めさせなければならない。
 一通りのアイデアが出た後で、その分類を考える。分類の視点を出してもらい、もっとも納得できそうなものを採用しよう。それに合わせてアイデアを分類し、整理した形に書き直す。次は、個々のアイデアを評価する段階だ。長所と短所だけでなく、難易度(成功の可能性)、実施コスト、必要なスキルなどを明らかにする。もし欠点があり、その対処方法を思い付いたら、どんどんと追加していく。
 ここまでの議論で、アイデアの善し悪しがだいたい見えてきたはずだ。今度は、具体的な結論を考えてみる。複数のアイデアを組み合わせ、もっとも良いと思われる方法をいくつか挙げる。現実に実行可能な組み合わせを考えることが重要だ。数多く挙がった場合は、その中で良さそうなものを優先して数個ぐらいに絞り込む。もし意見が分かれた場合には、両方とも候補として残す。
 残った候補を、用意した評価基準に照らし合わせて評価する。きちんと評価できれば、どれが一番良いのか明らかになるだろう。もし2つの候補で差が出ない場合は、多数決などの方法で決めるしかないだろう。なお、評価基準の中身で意見が対立しそうな場合は、もっと前の工程で評価基準を決めなければならない。この段階で評価基準を決めようとすると、自分が良いと思う結論候補が高得点を得られる評価基準にしたがるからだ。
 結論が得られたら、ここまでの議論内容を整理してみる。検討手法を採用して、議長が議論をしっかりと導ければ、論理的な検討内容になっているはずだ。その流れを整理して、参加しなかった人が見ても納得できる形に仕上げる。その内容を見て、議論が適切だったかどうかを確認するわけだ。もし大丈夫なら、得られた結論の採用を決定する。
 以上のように、それぞれの工程では作成すべき成果物が決まっている。それを得ることが工程ごとの目標であり、得られれば工程の終わりになる。また、得られた成果物は次の工程で利用し、新たな成果物の材料として使われる。このように工程を分けるのは、議論が論理的に進むように考えてのことだ。その意味でも、各工程の最後に、出された意見を整理して見せ、成果物の中身を確認することが求められる。

議長にはいろいろな形で議論の質を高める

 議論の中心となる議長は、議論の質を高めるために、様々な仕事を担当しなければならない。そのいくつかを挙げておこう。
 まずは、議論を正しい方向に導くための行為だ。議論の中には小さな雑談も生じる。それがきっかけで話題が関係のない方向に行ったら、適当な時点で本題へと戻さなければならない。また、議論の範囲外と決めた話題が挙がった場合も同様だ。ただし、別な機会を設けて議論するなど、対処を明確にしなければ納得しない。その点だけは、議論が始まる前に準備しておく。
 議論の中では、あいまいな意見を述べる人もいる。考えがまとまってない場合は、議長が質問をして、頭の中を整理するのを手助けする。議長の言葉で言い直し、確認を求めるのも良い方法だ。もし整理できないときは、別な参加者に助けを求めてもよい。
 あいまいな意見は、不利な状況にいる人から出ることが多い。その場合は、議長が言い直した内容を認めたがらない。あいまいなままの意見を採用してもらいたいと思うようだ。論理的でないダメ意見は、それが出なかったものと見なすしかない。その判断と理由も含め、意見を述べた人に説明するのも議長の役割である。
 結論が見えてくると、それを面白く思わない人も現れる。邪魔する行為に出る場合は、議長が注意しなければならない。どうしても納得しないで邪魔し続ける人は、何度かの警告後に退場させるしかない。もちろん、邪魔したことや退場させたことを議事録に明記して、このような行為の抑止として利用する。
 以上のように、議論の質を高く保つのは議長の役割である。非常に大変だが、それだけの責任を持っている。また逆に、議長が悪いと、良い議論を実現できない。その意味で、誰が議長になるかは、非常に重要なのだ。良い議長がいれば、議論の適切な流れを実現できる。

(1999年5月31日)


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