川村渇真の「知性の泉」

きちんとした議論ルールや手順が必要


作業工程別に役割と担当作業を規定する

 マトモな議論を実現するために、いろいろな条件を満たす必要がある。しかし、条件を満たしているのか議論の途中で何度もチェックするのでは、議論に集中することなどできない。もっとも現実的なのは、議論のルールや手順を規定する方法だ。それに従う形で議論を進めれば、指針のない状態で試行錯誤するよりは、マトモな議論を実現しやすい。
 議論をどのように進めるのか具体的に示すなら、作業手順のように何段階かの工程として規定する方法が一番適している。工程としてまとめる範囲だが、議論の最中だけでなく、議論する前の準備や、議論が終わってからの作業まで含めなければならない。きちんと準備しなければ議論の質が高まらないし、議論後の公開やフォローが適切でなければ、せっかくの議論が台無しになるからだ。
 意見の対立する人々が集まったときでも、質の高い議論を実現したいのなら、参加者の全員が議論に没頭してはいけない。議論の中身や方向が適切なのか、一部の参加者が議論全体をコントロールする必要がある。外側から冷静に見るわけだ。もっとも重要なのが議長で、議論を成功させる責任がある。たいていは記録係や調査係も加わり、議長を手助けする。これらの人々は、議論のテーマに関しては発言せず、議論が適切に行われるための作業を担当する。全体の雰囲気としては、事務局のスタッフをイメージすればよいだろう。ただし、議長に関してだけは趣が異なり、非常に強い権限を持つ。
 役割を明確にする方法だと、工程別の作業内容は役割ごとに規定することになる。また、作業内容だけでは議論の質を上げられないので、推奨事項や禁止事項などのルールを加える。ここまで揃えば、議論方法の枠組みが整う。以上をまとめると、次のようになる。

議論方法で規定すべき内容
・作業工程のように手順としてまとめる
・作業工程には、議論の準備や後処理も含める
・参加者の役割を明確にし、議長や記録係も含める
・工程別に、役割ごとの作業内容を規定する
・推奨事項や禁止事項をルールとして加える

これを満たす形で、具体的な作業内容やルールを規定しなければならない。

議論の重要性が高いほど、適切なルールや手順を用いるべき

 世の中で行われる議論には、小さなものから大きなものまで幅が広い。非常に大きなテーマだと、何度も何度も会議を開いて、細かな点まで詳しく検討する。逆に小さな議論では、非常に短時間で結論が出てしまう。
 議論といってもこんなに幅広いので、適切なルールや手順を全部に適用するのは現実的でない。一般的に、テーマの重要性が高いほど、きちんとしたルールや手順を用いる。重要性が低くなるほど、工程やルールの一部を省いても構わない。もちろん、論理的に議論するといった重要な点だけは、どんなに省略しても守るべきである。
 議論と呼べないほどの簡単な検討は、大きな議論を準備するときも行われる。議論の範囲をどの程度にするかや、どのような検討手法を採用するかなど、議論の大枠を決める段階だ。このときに正式な議論方法を用いたのでは、余分な手間がかかって効率的でない。もっと気軽に、通常の会話のように決めも構わない。ただし、準備段階で意見が対立し、容易には結論が出せそうにないときだけは、議論手法を用いたほうがよい。
 正式な議論方法に慣れてくると、雑談のような話し合いの中でも、とんでもない意見を述べる人がいなくなる。すると小さな問題などは、簡易的な議論でも適切な結論を出せるように変わる。ここまで達すれば、小さなテーマなら短時間で結論を出せるし、大きなテーマでの議論時間も短くなり、増えた(というか、取り戻した?)時間をもっと本質的な仕事に割り当てられる。

問題解決手法を採用したとの前提で議論工程を規定する

 議論本体の具体的な工程は、採用する検討手法に大きく依存する。どんな検討手法を採用しても使える工程として規定すると、あまりにも抽象的な話になりすぎ、実際に利用できる内容にはならない。幸いなことに、採用する検討手法の多くは、問題解決の手法の場合がほとんどだ。議論の多くが、問題を解決するために行われるからであろう。よって本コーナーでは、問題解決の手法を採用した前提で、議論本体の工程を説明する。
 問題解決の手法は、使用する道具やまとめ方が異なっていても、全体の工程はかなり似ている。まず現状の把握から始まり、問題点や原因を整理する。その後、解決に役立ちそうな方法を洗い出して、実現可能で有効な候補をいくつか選ぶ。最後は、候補を評価して比べ、採用する解決方法を決定する。大まかには、こんな感じだ。
 この程度にまで工程が明らかになれば、工程別の作業内容やルールを規定できる。これ以降のページでは、議論の準備や後処理まで含めて、工程別で役割ごとの作業内容やルールを解説する。採用した問題解決手法に依存する部分があったら、注意事項として加えよう。

(1998年12月27日)


下の飾り