川村渇真の「知性の泉」

最良の結論を導き出すのに設計手法を用いる


議論全体の流れや質は検討手法で整える

 世の中の議論は、何らかの問題を解決するために行うことが多い。その際に求められるのは、問題の解決方法だ。当然のことだが、解決方法の質が高いほど、議論が良かったと評価される。
 解決方法と一言で表現するが、その形態は問題によって異なる。もっとも典型的なのは、トラブルなどの解決方法だが、それだけではない。犯罪や社会問題なら、新しい法律を作ることが解決方法の1つとなる。他にも、組織の運営ルール、新しい組織の構造、今までとは異なる契約方法、悪いことの条件を示す倫理規定など、いろいろなものがあり得る。
 では、解決方法の質は何で決まるのだろうか。簡単に表現するなら、問題の解決度合いが高いほど、解決方法も良いといえる。ここで重要なのは、解決度合いをどのように評価するかだ。きちんと評価するためには、問題点を洗い出したり、理想の状態を規定したりする作業が必要となる。このような一連の作業を上手に進めるため、議論に検討手法を利用する。問題点の分析から解決方法の評価や決定まで、全体を論理的かつ科学的に進める手法だ。その意味で、検討手法は、議論全体を整える効果がある。

解決すべき項目を多く満たすほど良い解決方法

 検討手法を適切に用いると、解決方法に求められる条件が得られる。つまり、解決すべき項目の一覧だ。その中には、非常に重要な項目だけでなく、あまり重要でない項目も含まれる。重要度も加味したうえで、より多くの項目を満たす解決方法が良いと評価する。
 解決方法の評価では、副作用も十分に検討しなければならない。解決方法を実施した場合に、問題点とは別な影響が出てしまうこともあり得るからだ。たとえば、凶悪な犯罪を取り締まるための強力な法律を作ったとき、適切に運用できない一部の警察官により、犯罪者でない人に被害を与える可能性も出てくる。どのような副作用が起こるかも検討し、副作用まで含めて善し悪しを評価しなければならない。
 解決すべき項目の中には、互いに矛盾したり、両立するのが難しい内容もある。さらに副作用も考慮しなければならないので、すべての項目を満足する解決方法が存在することは非常に少ない。もっとも良いと評価された解決方法を見付け、それで妥協するのが一般的だ。
 解決方法の設計や選択とは、少しでも高い妥協点を探す作業である。それを見付けるためには、思い付きだけで進めるやり方では成功しにくい。もっと確実に得られるように、論理的で科学的な方法が求められる。

解決方法の質を高める設計手法がある

 検討手法の採用によって、複数の解決方法の中から一番良いものを選ぶことができる。しかし、候補として出された解決方法の質が低ければ、最良の解決方法を選んだことにはならない。より良い解決方法を出せるかどうかが、良い成果への鍵となる。
 より良い解決方法とは、解決すべき項目をできるだけ多く満たしたものだ。それを達成するには、解決方法をきちんと設計する必要がある。このような設計のための汎用的な手法がいくつかあるので、それを利用するのが賢い選択といえる。代表的な設計手法を見てみよう。
 まずは、条件による対象の層分け設計で、副作用や矛盾項目を減らすために用いる。解決方法の対象を数個の層に分けて、層ごとに別々の対処を実施する考え方である。層をどのように分けるかが重要なので、最良の分割条件を見付けることに集中する。良い条件が見付かるほど、良い解決方法が作れる。
 凶悪な犯罪組織を取り締まるために、強力な捜査方法を認める法律を考えてみよう。強力な捜査方法をすべての相手に認めると、人権侵害などの副作用が大きく出やすい。そこで、凶悪な組織犯罪に対してだけにしか適用できないように、適用条件を規定する。たとえば、組織の人数が特定数(実際には具体的な数値を指定)以上とか、特定数以上の人命を奪う可能性が非常に高いとか、殺傷力の高い武器を保持しているのが確認できたとか、複数の条件を定める。これらの全部を満たした組織に対してだけ使えると規定すれば、個人の捜査に使われことはない。もちろん、設定する条件には、勝手に都合良く解釈できない形式にする。また、適用を認める組織の運営形態なども一緒に規定して、間違った利用を極力防止することも大切だ。
 もう1つの設計手法は段階的な実施で、最終的な状態へ達するまでに、何段階かに分けて対策を実施するように設計する。環境破壊を防止するといった重要な法律では、対処が遅れるほど被害が増す。しかし、既存の業者を守る理由で、対処しないまま何年も過ぎることが多い。このような状態が最悪で、最終的な被害を大きくする。そうでなければ、規制値を甘くして業者を守るような対処を選ぶ。こちらも対策の効果が低く、被害が大きくなりがちだ。もっと良いのは、最終的な規制値を相当に厳しく設定し、実施までの期間をかなり長くする。同時に、最終実施までの期間を数個に分割し、規制値を段階的に厳しくしていく。このような対処を早めに実施すれば、業者は対応の準備ができるし、最終的には厳しい規制値が達成される。
 段階的な実施では、できるだけ早目に始めることが大切となる。また、期間が長すぎると被害が大きくなるので、期間を長く設定しないように設計する。その代わり、業者が新規制へ移行できるようにと、別な援助を一緒に行い、厳しい規制の早目の実現を手助けする。このような関連支援も、設計手法の1つである。
 設計手法は他にもあるが、この辺にしておこう。大切なのは、いろいろな設計手法を知って、対象となる問題の解決に適用できないか確認することである。どんな問題でも、1つか2つの設計手法は役立つ可能性が高い。

副作用への対策も検討して解決方法を設計する

 設計手法を適用しながらの作業では、解決すべき項目のリストが出発点となる。1つでも多くの項目を満たすように、複数の設計手法を組み合わせながら、具体的な解決方法を導き出す。まず最初は、欠点をあまり考えず、とにかく数多く挙げるようにする。
 ひととおりの解決方法が出揃ったら、それぞれの副作用を洗い出す。どんな内容の影響が出るのか、その大きさはどの程度なのか、その影響は重要なのかなどを明らかにする。次に、副作用を減らすための方向を考える。この際にも、解決方法のための設計手法を適用する。このように進めていくと、いつまで経っても終わらないので、どこかで切らなければならない。また、実現が非常に難しいとか、コストが高すぎる方法なども、途中で排除する。
 こんな作業を繰り返していく中で、有力と思われる解決方法が何個か見付かる。それが解決方法の候補であり、評価基準に照らし合わせながら全候補を評価して、最終的な解決方法を決定する。この辺の作業は、検討手法に定められたとおりに進める。
 重要度が非常に高い問題では、候補として選んだ解決方法が適切かどうか、別な人がレビューしたほうがよい。レビューでは、有効な設計手法を適用したかどうかも検査の対象となる。質の高い解決方法を得るためには、適任者によるレビューが役立つ。
 たいていの設計手法は、細かなオプションを持っている。段階的な実施なら、1つの要素を何段階かに分けるだけでなく、複数の要素を順番に実施する方法もある。もちろん、この両方を組み合わせるのも可能だ。1つの設計手法を適用しても、複数の解決方法が得られるので、最適な条件を探す形の設計が求められる。場合によっては、1つの設計手法を適用して得られた複数の解決方法が、最終的な候補として残ることもあるだろう。どちらも良い解決方法なら、それでも構わない。

 議論の善し悪しを決めるのは、議論によってえら得た結論の質である。何らかの問題を解決するための議論だと、解決方法の善し悪しで議論の質が決まる。解決方法の設計手法を知ることは、良い解決方法を得るための基礎として役立つ。

(1999年8月31日)


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