川村渇真の「知性の泉」

検討内容の全体像を見せて議論の質を上げる


検討内容の全体像が見えないと議論の質は低下する

 議論の質をできるだけ向上させるには、非常に当たり前のことだが、テーマに関して十分に理解することが求められる。ところが、議論対象の内容が複雑だったり、いろいろな意見が出る状況では、全体像の理解が難しい。そうなると、議論の質は低下しがちだ。
 良くない議論では、同じ話題が何度も繰り返されたり、対立する意見が平行線を保ったまま前に進まないなどの現象が起こる。このようになるのは、出された意見の全体像が見えていないからだ。自分が関心のある部分にだけ意識が集中し、それに関する意見しか述べない。関心のある部分が異なれば、お互いに相手の意見を聞かず、自分の意見を何度も繰り返しがちになる。マトモな議論にはほど遠く、議論が成立していない状態だ。
 これを改善するには、議論の各段階で、検討内容の全体像を理解させる工夫が必要となる。その責任は議長にあり、適切なタイミングで全体像を的確に見せなければならない。ただし、言葉で喋るだけではダメだ。声はすぐに消えてしまうため、全体像を見せるような目的には適さない。ホワイトボードのように皆が見れる道具を用意し、要点を書いてまとめる必要がある。

検討内容の全体像を表や図で整理する

 まとめ方も非常に重要。挙げられた項目を単純に並べるのではなく、それらの関係を整理して見せなければならない。たとえば、問題の原因が複数あるなら、それらをグループ分けするとか、それぞれの関係を図で示す。また、複数の解決案が出されたら、各案の長所と短所を整理した表を作る。分かりやすく表現するには、図や表が有効だからだ。ただし、凝った図を作る必要はなく、項目の箇条書きを四角で囲み、それらを線で結ぶ程度でも十分である。
 このような図や表で大切なのは、議論内容をきちんと評価できる形に仕上がっているかどうかだ。意見が違っているときこそ大問題なので、どの部分が違っているのか分かるように、双方の意見を比較する形式でまとめる。基本的には、問題解決の手法を適用し、その評価方法で整理するとよい。
 意見が拡散している状況では、最初から上手にまとめられないことも多い。そんなときは、とりあえず整理したものを書いてみて、まとめ方に関して意見を出してもらう。何度か試しているうちに、良い整理方法が見付かるだろう。もしベストな方法が見付からなくても、いくつか書いた中から一番良いものを選ぶことができ、全体像の整理には役立つ。最初から上手に整理しようとは思わず、段階的に改良しながらベストなまとめ方を見付けるつもりでやったほうがよい。

まとめを作りながら議論するのがベスト

 検討内容のまとめは、議論の最終段階にだけ作成するのではない。途中の重要な段階にはすべて必要で、全体としては何度か作成する。議長が必要だと思ったら、どの段階で作成しても構わない。問題解決の手法を議論に適用している場合には、作業ステップごとに作成する。
 作成するまとめがどんな内容になるかは、作業ステップごとに違う。たとえば、原因を調べる作業ステップでは、原因のグループ分けや関係を整理するのが目的なので、その視点でまとめを作成する。問題解決の手法を用いていない場合も同様で、検討している内容に適した形で整理する。
 効率的に議論するためには、意見が集まった後でまとめるのではなく、まとめを作りながら意見を集める方法が有効だ。問題点を挙げさせる作業ステップでは、どんな種類の問題点があるのかを最初に出させて、まとめの大枠を決める。その後で具体的な問題点を挙げさせ、まとめに細かな項目を追加していく。もし大枠が間違っていても、作り直しながら議論を進めればよい。
 このような方法で議論を進めると、参加者は全体像を理解しながら検討できる。どのような意見を出すにしても、全体像が見えていれば、トンチンカンな意見になる可能性は低い。意見の質も向上し、適切な意思決定へとつながる。
 以上は顔合わせ会議での話で、電子会議には当てはめにくい。現在の一般的な電子会議では、残念ながら、ホワイトボードのようなツールが使えない。仕方がないので、整理した内容を途中で提示する。まとめの頻度を顔合わせ会議よりも多くして、議論の全体像をできるだけ理解してもらう。電子会議のツールが格段に向上するまでは、そうするしかなさそうだ。

発生頻度などの重要な情報も含めて整理する

 問題点や解決方法を検討するときには、「〜の可能性がある」とか「〜もありうる」といった指摘が出される。そのような意見を全部同じレベルで取り上げると、何が重要なのか見えてこない。適切に判断するためには、取り上げた項目ごとの発生頻度や確率を考慮することが大切だ。
 指摘された事項の中には、めったに発生しないものもある。たとえば、移動に飛行機を使うとき、墜落するかも知れないとの意見があったとしよう。確かに、墜落事故が発生する可能性はある。しかし、その確率は非常に少ない。そうでなければ、世界中でこれほど利用されはしない。事故の発生は、電車でも自動車でもあり得る。重要なのは、発生頻度や確率である。
 非常に小さな要因を気にしすぎると、判断を誤る原因となる。適切な判断のためには、挙げられた項目の発生頻度をきちんと把握することが大切だ。まとめを作る際には、それぞれの項目での発生頻度や確率も加える。もし正確なデータが必要なら、統計資料などできちんと調べる。
 発生頻度以外でも、検討に必要な情報は、まとめの内容に含める。議論の全体像を上手に整理して見せられれば、適切でない決定をする可能性がかなり減るはずだ。その意味で、全体像の整理は、良い議論の有効な道具といえる。

(1998年5月9日)


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