川村渇真の「知性の泉」

議論を邪魔するための行動を取り除く


状況が不利な人ほど邪魔行為に走りやすい

 質の高い議論を実現するうえで、最大の障害となるのは、議論を邪魔する人の存在だ。これは非常に重要な問題であり、対処を間違うと大きなトラブルへと発展するので、適切に対処する必要がある。
 まず最初に、邪魔する人の特徴を理解しなければならない。邪魔するのには理由があり、たいていは不利な状況にいる人がそうなる。マトモに議論されれば、自分にとって都合の悪い結論になるのを知っていて、何とか防ごうとするのだ。不利な度合いが大きいほど必死になり、邪魔する行為もタチが悪くなる。
 意外かも知れないが、邪魔している本人は、議論を邪魔しているとは思っていない。自分の地位や立場を守るため、必死で戦っていると思っているだけなのだ。その意味で、どんな行動が邪魔を意味するのか知らせると、邪魔を止める人もいる。このような人は、論理的な説明が通じるので、きちんと説明したほうがよい。
 必死さが大きいほど、また、論理的な思考が苦手な人ほど、注意して直る可能性は低い。逆に、反発を感じて怒りだすことが多く、繰り返し注意しても議長に従わない。誰かの発言を途中でさえぎるとか、言いたいことだけ大声で勝手に繰り返すとか、議論とは呼べない行為を最後まで続けようとする。こんな人は簡単には直らないので、後述するような、かなり厳しい対処方法を行う必要がある。
 どのような対処をするかは、邪魔する人の態度で決まる。実際に相手をしてみなければ分からないので、軽い注意から始めて、だんだんと厳しい対処へ進むのが一般的だ。

論理的で科学的に議論を進めることが重要

 邪魔する人への個別の対処も必要だが、邪魔が入りにくく議論を進めることも重要である。そのために一番効果的なのは、議論をできるだけ論理的に進めること。これを、いろいろな面で徹底すれば、マトモな議論を実現しやすい。
 議論のやり方では、問題解決などの手法を適用し、全体を数個の工程に区切って、全体の流れを論理的に進めることを基礎とする。加えて、各工程で出されたことや決まったことを図や表で明示し、確認しながら次の工程へと進む。このような手法を用いると、議論を変な方向へと誘導するのが難しく、邪魔しづらい状態を作れる。
 科学的に議論を進めることも、邪魔を防ぐ効果がある。きちんとしたデータを提示するとか、データの信憑性を確認するとか、地道な作業を面倒くさがらずに行う。世の中には、自分たちに都合の良い実験結果を作り出して、もっともらしく公表する人もいる。外部のデータを簡単に信用せず、正しさを確かめることも大切だ。
 邪魔する人は、「〜の可能性もある」と言って反対することが多い。この場合には、発生する頻度や確率を調べて、重要度を適切に設定する必要がある。めったに起こらないことは、それに適した取り上げ方をして、議論の質の低下を防ぐ。
 これらのことを実施すれば、邪魔する行為がやりづらくなる。邪魔する人を排除するよりも、邪魔する人を出さないことが一番重要なので、きちんとした議論方法を採用することは必須といえる。それでも邪魔する人が現れるため、その場合は以下に述べる方法で対処する。

議長が適切な手順で排除すべき

 論理的に議論を進めると、邪魔したい人の中には、極端な行動に出る人もいる。議論自体ができないように、意地の悪い行為をし始めるのだ。議長は、そんな行動にも適切に対処しなければならない。
 目に余るほどの邪魔とは、議長の許しを得ずに発言したり、他人の発言を勝手にさえぎるような行為だ。また、都合の悪いことを言われると怒りだすとか、机の上をたたいて大きな音を出すとか、怒鳴り散らして議論をさせない人もいる。
 このような行動をする人は、議論から退場してもらうしかない。ただし、会議が終わった後からも文句を言う可能性が高いので、その際の対処も考慮して、きちんとした手順で退場させる必要がある。重要なのは、以下の4点を守ることだ。

邪魔する人を上手に退場させるポイント
1. 議論の開始前に、退場の条件を明示する
2. 邪魔行為に警告を出し、何回の警告で退場かも示す
3. 警告の回数をカウントし、警告ごとに回数を伝える
4. 警告内容と回数、退場時刻と理由を議事録に明記する

 まず最初に、議論を邪魔する人は退場させることを告げ、退場の条件を明示する。一般的な条件としては、邪魔する行為の種類を示し、その合計回数を退場の条件とする。邪魔する行為には、他人の発言をさえぎる、勝手な発言を続ける、大きな声や音を出すなどがある。予想外の行為にも対処できるように、その他の邪魔する行為という項目も含めておく。
 実際に邪魔する行為が出たら、議長は必ず警告を出す。どんな違反をしたのか、それが何回目なのか、あと何回で退場になるのかを明確に伝える。同時に、違反の内容を記録する。警告を無視して違反行為を続ける人には、最終的に退場させるしかない。そのときは、退場の理由をハッキリと伝えるとともに、「今後は、議論の仕方を勉強してから参加してください」のと注意を与える。退場者が出た場合は、警告の内容と回数、退場時刻と理由を議事録にも明記する。このように記録に残すと、プレッシャーがかかって、邪魔する行為がしづらくなるからだ。
 途中で退場すると、場合によっては、決定事項が無効になる可能性もある。そのため、退場させるのが本当の目的ではない。邪魔する行為を止めさせるのが上手な対処方法といえる。そのため、邪魔する行為の回数を、ホワイトボードの隅に書くなどして、邪魔しづらい圧力を加える。このような圧力で逆に怒り出すような人なら、さっさと退場させて、議論に集中したほうが得だ。

参加者も議長を手助けするのが現実的

 以上のことを議長だけで実行するには、強い意志と行動力を持った人材が必要となる。実際には、そこまで強い議長はなかなかいない。そのため、論理的に議論を進めたい参加者が、議長を手助けすべきである。
 もっとも単純な行動は、議長が警告を出したときに、「そのとおり」などと言って同意の意志を示すことだ。声を出さずに、大きくうなづくだけでもよい。もし議長が警告を出す勇気のないときは、参加者の方から「議論を邪魔する行為なので、きちんと警告してください」と意見を述べる。他の参加者も、その意見に対して同意の意志を示す。マトモな参加者が多いと知れば、議長も警告を出しやすいはずだ。
 参加者は、邪魔する人の発言内容を指摘することでも手助けできる。論理的でない部分や、科学的でない部分を指摘し、議論の流れをマトモなほうへと近づける。そのためにも、各人の発言内容をよく吟味し、本来の目的に合っているかを考える癖を付けたい。
 参加者が手助けする際にも、議論のルールをできる限り守ることが大切である。もしルールを守らないと、議論全体の秩序が低下し、どんどんと悪い方向へ進む。こんな状態こそ、邪魔する人も思うツボなのだ。そうならないように、邪魔な行為を指摘する場合でも、きちんと手を挙げて、発言の許可を議長に求める。邪魔する人が極端にうるさいときは、「うるさい。きちんとルールを守りなさい」と注意したうえで、手を挙げて議長に発言を求める。このように行動すれば、議論の秩序を低下させずに済ませられる。

 以上をすべて実施すれば、議論を邪魔するのが非常に難しくなる。その基礎として、多くの人がマトモな議論手法を理解することも大切だ。
 なお、ここで述べた内容は、議長や大多数の参加者がマトモな場合の方法である。議長や主要参加者がマトモでない会議(代表的な例は、役人の開く、見せかけだけの公聴会)は考慮していない。そんな会議への対処方法は大きく違うので、別なページで解説する。

(1998年6月2日)


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