川村渇真の「知性の泉」

意見の位置付けを明確にして発言する


明確な発言に必要な5要素を知る

 議論の質を高めるためには、参加者の発言内容も重要だ。何を言いたいのか不明な発言が多いようだと、マトモな議論にはなりにくい。意見を明確に述べるためには、いくつかの要素を満たす必要がある。その要素とは、大きく分けると、意見の「対象、方向、本体、理由、資料」の5つになる。順番に説明しよう。
 意見の「対象」とは、議論しているテーマの中で、どの部分に対する意見なのかを表す。議論が拡散しないように、意見の対象を明確に示すわけだ。
 意見の「方向」は、2段階のレベルとして考える。上位のレベルは、対象となる案や意見に対して、賛成なのか反対なのかの位置付けだ。その間にあるなら、どの程度の位置にいるのかを明らかにする。下位のレベルでは、より細かな位置付けを示す。誰かの意見を補足するとか、部分的に改良するとか、別な案を提示するとか、問題点を指摘するとか、疑問な点を質問するとか、いろいろな場合がある。誰の意見のどの部分をどうするのか、できるだけ明確にすることで、意見の位置付けを正確に伝えられる。
 意見の「本体」は、自分が述べたいことの中心部分を直接的に表現したものである。あまり長い説明にはせず、言いたいことを短い表現でズバリと示すので、結論と言っても構わない。
 意見の「理由」は、その内容を導き出す基礎となった考え方のことだ。どんな意見でも、そう考えた理由があるはずだ。その理由を説明することで、意見に説得力を持たせられる。また逆に、とんでもない誤解や間違いから導き出された意見の場合は、理由を説明すること誤解や間違いを指摘でき、無駄な議論をしなくて済む。
 理由を説明する過程では、参考となる資料や理論を用いることもある。それが意見の「資料」で、データ自体を紹介するだけでなく、出所や信憑性なども可能な限り明確に示す。資料が不要な意見もあるので、必要に応じて用意する。

発言する前に意見を整理する

 以上の5つの要素を理解すれば、きちんとした発言になりやすい。発言する前には、5つの要素に照らし合わせる形で、自分の意見を整理してみるとよい。
 まず最初に、今まで出た意見の中で、自分の考えに一番近いのはどれかを考える。それに補足したり改良したりする意見を持っていれば、賛成意見として述べられる。5つの要素に当てはめると、2番目の上位レベルが「賛成」の意見となる。
 反対の意見を述べる場合には、一番納得できないのは誰の意見かを考える。その意見のどの部分が納得できないかを探し、反対の理由を明らかにしてみる。それが反対意見へとつながる。5つの要素に当てはめると、2番目の上位レベルが「反対」の意見である。
 議論されている内容全体が、何となく納得できないこともある。そんな場合には、その理由を考えてみる。論点が的を射てないとか、大切なことを忘れているとか、納得できない理由があるはずだ。それが見付かったら、できるだけ早い段階で発言すべきだ。その際にも、5つの要素に照らし合わせて整理すると、分かりやすい発言になる。ただし、2番目の要素である「方向」だけは、賛成や反対という軸ではなく、議論全体を改善するという上位の軸として位置づける。

聞く人が分かりやすい要素順で発言する

 意見を分かりやすく伝えるには、言い方も大切。もっとも重視すべきなのは、要素の説明順序である。意見を聞く人が、無理なく理解できるような順序で並べたほうが、言いたい内容が効率的に伝わる。
 先に出した5つの要素は、実は、最適な説明順序に合わせて並べてある。まず最初に「対象」で、どの部分に関する意見なのかを示す。次に「方向」で意見の位置付けを明確にし、「本体」を続ける。後は「理由」で意見の根拠や検討過程を説明し、必要に応じて「資料」を提示する。4番目の「理由」と5番目の「資料」だけは、混ぜて説明しても構わない。
 この流れに沿った発言は、考えながら聞くことを手助けする。最初に「対象」と「方向」を示すことで、自分の意見と対比させながら聞く準備ができる。自分とは異なる意見なら、残りの3要素を聞く段階で、間違った点を見付けようとするはずだ。逆に同じ意見なら、説得力はどれぐらいあるかとか、自分が補足できる部分はないかなどと考えながら聞くだろう。
 5つの要素の並び順は、「最初に結論を述べ、次に理由を説明する」という、論理的に説明するときのルールを基礎にしている。一般的には、この順序のほうが、聞く人にとっては理解しやすいからだ。

他にも守るべきルールがある

 以上は意見を述べる基本だが、他にも守るべきルールがある。たとえば、意見を導き出す段階で論理的に考えることだ。これは意見の「理由」として述べられ、説得力に大きく関係する。論理的でない意見があまりにも多いと、マトモな議論にはならない。
 もう1つ重要なのは、相手の質問や疑問にきちんと回答することだ。これは議論の最低限のルールでもあり、守らなければ議論とは言えない。きちんと回答させるのは、議長の重要な役目である。
 5つの要素を満たした発言が続くと、議長が議論内容を整理しやすい。賛成や反対が明確なので、両者の意見をきちんとまとめられる。整理が上手にできると善し悪しも判断しやすく、結論を出しやすい。意見の述べ方が良ければ、議論がスムーズに進むだけでなく、議長もラクができるわけだ。
 意見の述べ方は、参加者本人の自覚に大きく関係する。最終的には、各人が訓練などでマスターするしかない。全員が条件を満たせば、議論の質は確実に向上する。

(1998年4月18日)


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