川村渇真の「知性の泉」

交通整理を担当する議長は必須


議長には重大な責任がある

 議論の質を高く保ちたいのなら、議長がきちんと役割をこなすことが必須である。議長の善し悪しで、期待した成果が得られるかどうかが決まる。
 議長といえば、単に司会するだけが役割だと思っている人がいるかも知れない。それは大きな間違いだ。会議における議長には、議論を成功させる“重大な責任”がある。変な方向に脱線したり、期待される成果を出さないような流れを止めて、正しい方向へと導かなければならない。そして、期待されている成果を確実に生み出すことが求められる。
 議論が適切に進むためには、議長自身が議論にのめり込んではならない。できるだけ客観的に議論内容を見れるように、少し外から眺める感じで参加する。内容が詰まった状況で、良いアイデアを思い浮かんだときでも、自分の意見を述べるという形ではなく、「〜と考えたらいかがでしょうか?」と誰かに投げかける形で、自分のアイデアを議論へ投入する。あくまで、議長としての役割を重視して行動することが大切だ。
 好き勝手に発言させるだけでは、議論は悪い方向へと進みがちである。それを良い方向へと導く方法のうち、重要なものを以下に紹介する。

議論の流れを上手にコントロールする

 議長が最初にすべきなのは、議論を進め方を明確に示すことである。問題解決の手法などを参考にしながら、きちんと議論するのに必要なステップを選び、それを参加者全員に伝える。各ステップでどんな点を論議し、何を決めるのか、流れを明確にしてから議論を始める。
 各ステップでは、議長が司会をしながら進める。決められた課題について、参加者に発言してもらう。その際には、適切な質問や投げかけによって、各ステップで生むべき成果へつながるように、発言の内容を導く。
 いろいろな意見が出たら、それを整理し直して提示するのも、議長の役割だ。発言を適当なところで一度打ち切り、それまでの発言内容を整理してみせる。それをもとに意見を述べさせると、議論が効率的に進む。
 これら以外でも、アイデアを出せそうな人に意見を求めたり、視点を変えさせたり、いろいろな工夫が必要となる。議論全体を上手にコントロールして、求められる結果を出すのが、議長の重要な役割である。

きちんと議論されないときは適切に対処する

 議論がスムーズに進まない場合にこそ、議長の真価が問われる。正しい流れへ戻すように、いろいろと手を打たなければならない。
 きちんと議論できない原因の1つに、発言した内容が明確でないことが挙げられる。そのような発言は、議長が手助けして、より良い内容に言い直してもらう。考えが整理できてないなら、整理できるような質問をいくつか投げかけて、再び考えさせる。言い方が曖昧なら、正確に言ってもらうか、別な表現で確認を求める。それぞれの発言を、きちんとした内容に直すことも、議長の役目である。
 議論がかみ合わないのも、スムーズに進まない状況の1つだ。原因としては、前提条件が異なっている、最終的に求めるものが違っているなどが考えられる。相違点を明確化するため、視点を変えた質問をしてみる。また、問題分析の別な手法に沿って議論させる方法もある。そうすると、建設的でないほうの意見が段々と明らかになって、意見を言いづらくなる。結果として、良い意見が残りやすい。
 発言の中には、馬鹿げた反論も出てくる。そんなレベルの低い発言は、悪い箇所を鋭く指摘して引っ込めさせる。また、次からはマトモな内容を発言するように、クギをさすことも大切だ。
 参加者が最悪だと、言うことを聞かない。マトモな議論方法を知らないか、きちんと議論する気のない人で、勝手に発言したり、重要な質問に答えないなどの行為が目に付く。このような、議論の最低ルールを守れない参加者は、最終的には議長が退場させるしかない。その際には、退場させられる人に対して、退場の理由をきちんと説明する。このようなことができるように、議長にはある程度の権限を持たせなければならない。

議長になるには、ある程度の訓練が必要

 以上のように、議長とは、議論における交通整理の役割を持つ。それを実現するには、ある程度の経験や慣れが必要だ。最初のうちは、きちんとした議長のいる議論へ参加して、いろいろな状況への対応を目で見るしかない。そうするうちに、議長の適切な振る舞いが分かってくるだろう。
 もう1つ重要なのは、論理的な思考能力である。参加者が発言が論理的であるかを、きちんと評価できることが求められる。論理的でない意見が出たら、指摘して考え直してもらう必要があるからだ。ただし、高い能力を求められるわけではない。どんな意見がダメなのかは訓練や経験で知れるため、ある程度の思考能力があれば議長を務められる。
 現状での最大の問題は、きちんとした議長をできる人が少ない点だ。テレビの討論番組、国会中継、パネルディスカッションなど、まともな議論に達していない内容ばかりしか、日本では見れない。どれもこれも、議長の役割を知らない人が、とりあえず議長を務めている。こんな状況では、参考にすべき例もないし、議長の能力を高めたい人が訓練する場所もない。当然、マトモな議長が出てくる可能性は低い。前途は非常に暗いが、ここでの説明を参考に、議長の能力を自力で身に付けた人が出てくるのを期待したい。

(1998年3月10日)


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