川村渇真の「知性の泉」

議論の目的や手順を明確に示す


目的と成果物を明確にして議論を絞り込む

 会議というのは、上手にコントロールしないと、思ったようにはなかなか進まない。いろいろな話題が出るのが当たり前で、ある程度までなら結構だ。しかし、本当に検討すべき内容が適切に取り上げられないと、せっかく時間を使って議論する意味はない。
 下手な会議では、議論が拡散してしまい、本来の目的から外れがちだ。たいていのテーマでは、関連して検討したい内容がいくつもある。そのすべてを取り上げたら、時間がいくらあっても足りない。1つずつ順番にとか、関連の深い数個だけを選んで検討するとか、議論を前に進めるための分割が必要である。無駄な拡散を防止するのが、上手な議論の進め方といえる。
 個々の議論の質を上げるには、会議の目的を明確に示すのが必須であり、第一歩でもある。今回はどの部分に集中して検討するのか、最初の段階で理解してもらう。それを示すために、目的を言葉で表さなければならない。たとえば、「〜地区の業績低下の原因を分析する」や「〜問題の解決方法を決める」とのように、できるだけ具体的に表現する。
 明確にすべき目的には、最終的に求めるべき内容を含めたほうがよい。「〜の解決方法を検討する」などと示してから議論を進めても、いくつかの解決案とそれぞれの特徴が出てくるだけかも知れない。その会議で何かを決定したいなら、目的は「〜の解決方法を決定する」とすべきである。もし決定限を持っておらず、決定権を持つ人に提案する場合でも、「〜へ提案する解決方法を決定する」とできる。決定せずに解決案を洗い出すだけでは、「〜の解決案を洗い出す」とする。
 ここで大切なのは、目的と一緒に最終成果物を示す点である。議論した結果として何を残すのか、最初に明示しなければならない。目標とする成果物が明確になるほど、それに向かって具体的な議論ができるからだ。「今回の議論で決めるべきものは〜です」という具合に、最初に宣言する。そのうえで、成果物に含めるべき項目を最初に決め、それを埋めていく形で議論を進めたほうがよい。
 また、取り上げるテーマがかなり拡散しそうなら、検討すべき範囲を明確に示すことも有効だ。何を議論して何を議論しないのか、最初に提示する。ただし、上手に設定しないと、それに異論が出て、議論どころではなくなる可能性もある。そのときに含めない範囲をいつ取り上げるのか、全体のスケジュールを示さなければならない。ほとんどの参加者が納得できるように、検討順序を決めて全体の提示する。もし不満が多く出るなら、それを最初に決めるしかない。

議論の大まかな手順も最初に示す

 目的を示しただけでは、議論をスムーズに進めることは難しい。議論のテーマがきちんと検討されるように、全体の流れをコントロールする必要もある。
 もっとも現実的な手段は、議論の大まかな手順を最初に示し、それに沿って議論を進めることだ。ここで重要なのは、どんな手順を採用するかだ。検討が論理的に進むように、問題解決などの手法を適用すべきである。手法の1つとして、品質管理でよく使われる方法がある。最初に原因を洗い出し、各原因の因果関係を整理して、解決方法をいくつも提示し、などと作業が続く。解決案を求めるまでの工程を分割し、各工程で実施すべきことが明確になっているのが特徴だ。
 論理的に話を進める手法は、細かなバリエーションまで含めると数多い。一部の工程だけを対象とした方法もあり、複数の方法を組み合わせて使っても構わない。それぞれ異なる特徴があり、取り上げるテーマに適した手法を選ぶ。問題解決と新規企画の決定では、適する手法が違うはずだ。既存の手法をそのまま使うだけでなく、実際に試した結果を見て、自分たちに合った形へと改良するように心掛けたい。だんだんと改良を進めれば、テーマごとに最適な手法が得られるだろう。
 このような手法を採用すると、感情的や政治的な意図を入れづらく、その分だけマトモな議論を実現しやすい。単純に「論理的かつ科学的に検討しましょう」といっても、なかなか達成できないのが一般的だ。きちんとした手順を採用することで、何もしないよりも論理的に検討できる。

議論を論理的に進めるための道具

 たいていの議論では、感情的や政治的な発言によって脱線することが多い。脱線しても元に戻ればよいのだが、そうでない場合もよくある。
 多くの参加者は、自分にとって都合の良い結論へと導きたがり、それに沿った発言を繰り返す。個々の立場を重視した発言は、全体として適切な内容とは違っている場合が多い。そんな発言ばかりが繰り返されるなら、単なる言い合いでしかなく、議論とは呼べない。
 議論の目的や手順を最初に示すことは、議論が論理的に進むのを助ける。きちんとした議論をさせるための道具とも言える。逆に言えば、論理的な議論が出来やすい方法を、手順として採用すべきである。そうしないと、手順を決めた意味はない。目的や手順の明確化は、議論をマトモに保つための道具と捉えるべきで、役割を理解して積極的に活用したい。
 このような議論が当たり前になると、自分にだけ都合の良い発言はしづらくなり、会議の質がだんだんと向上するはずだ。会議による意思決定は、組織のいろいろな場面で発生する。そのほとんどで適切な意思決定がされると、組織全体としての良い方向に向かう。また、議論へ参加する人は、論理的に検討する癖が付き、能力の向上にも貢献する。その意味でも、効果が大きい方法といえる。

(1998年2月26日)


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