川村渇真の「知性の泉」

必要な条件を満たさないとマトモな議論は難しい


議論の質を上げる条件はいろいろある

 マトモな議論を目指す人は、論理的な話し合いから生まれた建設的な結論を得たいと考える。そのために必要なのが、議論の質を向上すること。ところが、質の高い議論をしたいと思っても、そう簡単に達成できるわけではない。実は、相当に難しいことなのだ。
 実際の議論をいくつも見ると、理想的な議論から遠のくような行為が何度も何度も発生する。話題が本論から大きく外れたり、本来の目的を理解しないで話が進んだりしがちだ。また、きちんとした議論を邪魔するような意見も、いろいろな形で出される。さらには、科学的なデータを用意しても、意識的に無視されたりする。これらのほかにも、いろいろなことが起こって、きちんとした議論を維持するのは大変だ。
 ただし、完全に不可能なわけではない。現実の議論で起こる現象を詳しく分析し、それが発生しづらい状況を作れば何とかなる。分析した結果から、良い議論を実現するための条件が分かってきた。論理的に対話すること、目的を明確化することなどいろいろある。それを理解することが、議論の質を上げる第一歩だ。

邪魔する行為は、自分の立場を優先するのが原因

 議論は参加者が作るもの。だから、きちんとした議論を難しくする原因のすべては、参加者各人にある。多くの人は、自分または所属組織に都合の良い立場に立って意見を述べる。その際に問題なのが、きちんとした評価よりも、自分の都合のほうに大きく傾く点だ。
 たいていの議論内容では、きちんと議論して出した結果で、得する人と損する人がいる。たとえば社内組織の大改革を議論するとき、消滅する部署に所属する人が損する側だ。そんな人のほとんどは、議論を邪魔する側に回りやすい。それもかなりの高い確率で。
 損する人の多くは、議論を邪魔しようとは考えていない。自分の損を最小限にとどめようと最大限の努力をするだけだ。自分が損しない結果を得るために、都合のよい意見や視点だけを述べる。残念ながら、そんな行為こそが、マトモな議論を邪魔するのである。本人は自分の立場だけ考えているので、邪魔している意識は薄い。誰も指摘しなければ、気付かないことが多い。
 ここで注目したいのは、損得を決める基準である。自分の属する組織を中心に据えて、損だと判断している。ところが、建設的な結論を得るための議論では、特定の部署の損得ではなく、組織全体や世の中全体での損得を考慮する。両者の大きな違いは、何を基準に置くかだ。狭い視野で考えないように参加者の意識を変えることが必要で、それが議論の質を向上させる。

議論の質の低下防止に役立つ

 参加者の意識を変える第一歩は、質の高い議論に必要な条件を理解することだ。議論のようにコントロールしにくいものは、議論ルールを守っただけでは改善しづらい。その背景にある意味を理解しなければ、本当の改善効果が得られない。
 条件を知ることは、議論の質の低下防止にも役立つ。条件の解説の中には、やってはいけない行為の例も含まれる。その行為こそ、良い議論を邪魔するものなので、参加者全員が条件を知れば、邪魔する行為をやりづらい雰囲気が生まれる。つまり防止効果として働く。説明の中心が考え方なので、例として登場しない行為でも、ダメかどうか判断しやすい。少し遠回りだが、ある程度の効果は期待できる。
 議論に必要な条件は、議論を上手にコントロールするための指針でもある。ダメな行為を発見したとき、条件に照らし合わせて止められるからだ。参加者全員が条件を知っていれば、止めたことに対して異論が出にくいし、止める人も増える。
 次のページから、マトモな議論に必要な条件を1つずつ解説する。言われてみれば当たり前のことも含めるが、細かなものは取り上げず、代表的なものだけに絞る。

(1997年11月30日)


下の飾り