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美しき敗者
ミシェル・クワン」に捧ぐ

敗者の涙は美しい


 
敗者の涙は、時に勝者の涙より美しい・・・。

世界選手権長野大会女子フィギアのミシェル・クワンの演技を見ながら、そんなことを思った。オリンピック後、またしてもクワンはロシアのスルツカヤに敗れて世界チャンピオンにはなれなかった。もうクワンの時代は終わったのか。そんな寂しさがどこかしら漂う。14歳で天才少女と呼ばれ、羽をつけた天使のような初々しさでを氷上を駆けていたかつての面影は翳りを帯びているという人もいる。しかしそれでもにじみ出るような味わいのある演技、女性としての柔らかな美しさ、母性を感じさせる優しい表情は、群を抜いて輝いているように見えるのだが、技術点が巾を利かす時代、加点の材料には乏しいらしい。今、女子のフィギア競技者の引退年齢は驚くほど早い。

1998年長野オリンピックで、クワン(当時17歳)は、金メダル大本命と言われていた。しかし彗星のように現れた15歳のタラ・リピンスキーという天才少女に負けてしまった。長野後、金メダリストのタラ・リピンスキーがプロ転向をする中、クワンは、研鑽を続けた。その結果、彼女は、気がつけば、世界選手権で4度のチャンピオンに輝くなど、歴史に残る名選手となっていた。

そして今年の2002年ソルトレークオリンピックでも、1月の全米選手権では、ノーミスの素晴らしい演技で、一位となり、ミス・パーフェクトあるいは金メダルに一番近い選手との声が上がった。そして2月のオリンピック本番、クワンはジャンプでつまずき、伏兵16歳のサラ・ヒューズ(1月の全米選手権3位)に思わぬ敗北を喫してしまった。二回のオリンピックで彼女を破った勝者は、いずれも同じアメリカの年下の少女だった。下馬評では、いずれも負けるはずのない相手と見られていた。

敗れた後、クワンは、少しも涙を隠さずに心から泣いた。涙の後には、実にチャーミングな笑顔見せて応援してくれた観客に手を挙げて応た。表彰式では誰よりも勝者を讃え、少しも悪びれるそぶりは微塵もなかった。勝者に歩み寄り、微笑みかけ、おめでとうのキスをした。結局勝利の女神はクワンには、微笑みかけなかった。何と勝利の女神とは、気まぐれなものなのか・・・。

でも私には、どんな勝者の涙より、クワンの涙が美しいと思えた。祝福のキスを送りたかった。彼女の涙を見ながら、思わずもらい泣きをした。何故、ここまで人生の全てを賭けれるのか・・・と思い感動が込み上げてきた。クワンのフィギアに賭けた懸命さを思う時、国家も人種も男女も老いも若きなく、ただ純粋にこの道(スポーツという世界)の最高峰を目指した精神の気高さと負けた後の潔さに心が震えるような思いがする。

彼女はオリンピックに賭けて休学していた大学に復学する予定だと言う。良い選択だ。少し心を静にして、ゆっくり未来に向かえばよい。たとえオリンピックで金メダルを取れなかったにしろ、今この世界でミシェル・クワン、がフィギアの天才で、史上最高の選手の一人であることを疑う者はいない。私はクワンを「フェアー精神の金メダリスト」と呼びたいと思うが、どうだろう。佐藤

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2002.3.26
 

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